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【 六月九日 】
一夜明け、ようやく私も筆を執る気力を取り戻した。その知らせはあまりに重く、『アレ』を見つけてしまってからは、悔やんでも悔やみきれない思いだ。
昨日、イサベル・ロマーニが逮捕されたという知らせが入った。
罪状は殺人。
彼女は刃物で以って妹を惨殺し、両親にも重傷を負わせたという。辛うじて屋敷から逃げ出した姉が通報。イサベルはその場で警官に取り押さえられた。父親は一命を取り留めたが、母親は治療が間に合わず、亡くなった。
悪夢が現実になってしまった――イサベルを苛み続けた悪夢が。彼女の予感は正しかったのだ。
私は彼女のことを想いながら、それでも仕方がないことだったのだと自分に言い聞かせた。繰り返しになるが、イサベルの退院は金銭的な事情も関わっている。
退院後、彼女の通院の足が遠のいていたことをルカレッリから聞いた。誰もが油断してしまったのだ。きっと、イサベル自身も。
そんな慰めは打ち砕かれた。
私がイサベルに貸していた聖書を開いたのは、少なからず彼女への哀悼の意が込められていた。
そして、見つけてしまったのだ。
小さな紙切れ。短く一言記されていた。
『助けて』
神よ。
いったい彼女はどういう想いでこれを書いたのでしょう?
間違い無く、これは私に宛てて書かれた手紙だ。彼女は私に救いを求めていた。
しかし、なぜ? そして、何から?
彼女は言った。『乗っ取られてしまう』と。イサベルは悪魔憑きではなかった。悪魔は聖なる書物に触れることができないからだ。それでは、何が彼女の体を乗っ取ったのか。
私はある疑念を拭えない。
本当に『何か』は存在していたのか?
例えば、それは彼女自身の猟奇性――あの善良な女の中に住む、もう一人の彼女だったのでは。
そんなことがありうるだろうか?
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