第5話 騒音

あの日を境にここ1ヶ月、あの時聞こえてきた音が毎日するようになってきた。しかも決まった時間に。

ドンドンドン。

バンバンバン。

わあわあわあ。わあわあわあ。

その度に私は激しい頭痛、耳鳴り、そして失神に襲われている。

毎回同じパターンだ。

18時から19時の間にその音は鳴り始める。そして15分くらい立つと、その音は急に止む。その間、私は毎回ベッドでうずくまり、布団にくるまって枕を耳に押し付けて過ごしている。けどなんだかんだ言ってその音は作り上げた羽毛の壁を通り抜け、私の鼓膜に届く。そしてそこから同じパターン。

耳鳴り。

頭痛。

ひどい時は追加で軽めの失神。

音がどこから鳴っているのか、何の音なのか、なぜ鳴っているのか、本当によくわからないし、わかりたくもない。けど、止んでほしい。それだけは明確だ。

1日のたった15分とはいえ、このままでは私の体が持たない。

あとちょっとで18時だ。頼む、鳴らないでくれ。

私はいつも通り、ベッドに入り、布団にくるまり、枕を耳に押し付けた。

ドンドンドン。

バンバンバン。

わあわあわあ。わあわあわあ。

音を聞き始めた最初の頃と違って、私はこの音をひとつ目からはっきり聞こえるようになっていた。最初の方はまだ遠く、ぼやぼやと聞こえていたのが、ここ最近でははっきりと、そして大きく、最初の音から聞こえるようになったのは、私にとっては悲劇だった。なぜなら毎日くるこの地獄の15分を、より大きな存在にさせてしまったからだ。

この音はどこから来ているのだろうか。

そんな疑問が浮かんだ。

ここ1ヶ月何も考えることもなく、喜怒楽をほぼ感じずに生活してきた私に、まさかのちょっとした探究心が芽生えるとは、自分でも意外だった。

まさに息をするだけの生活だ。

けどそれ以上に、私はどうにかこの頭痛の原因を消し去りたかった。

そっと布団から出ると、1枚分薄くなった羽毛の層の影響で、耳鳴りと頭痛がひどくなった。そのため枕は耳元から離さず、むしろより耳元に押し付けて、ベッドから芋虫のように這いずりでた。

ベッドを出た瞬間にわかった。音がしているのは明らかに下の方からだった。

重くビビリで震えていた足を、音への反抗心だけで無理やり動かし、一段ずつ、ゆっくりと階段を降りていった。

電気もつけずに動いていたため、何度も階段を踏み外しかけた。

まあ、最終的には踏み外したが。

ドタドタドタドタ。

「いてててて、、、」

足を踏み外した、と言うよりは滑ってバランスを崩し、後ろから倒れた。そこから5段ほど尻もちをつき、その後背中をそりにして順調にもう3段、滑り落ちた。

足が痛い。

背中が痛い。

頭が痛い。

もう本当に、あの音のせいで嫌なことばっかりだ。

あの音はまだ鳴り続けている。

止まる気配もない。

むしろテンポが速くなっているし、わあわあわあの部分が多くなってる。

下に近づくにつれてもっと、違う音も増えている。

「だ、じ、、、、、、ごいお、、、、、ど、、け、、、」

こんな音が繰り返されている。

だじおいおどけ、、、

どくのはその音でしょ!

音がどんどん大きくなっていった。

バンバンバンバンバン!!!

音により失神しかけていた私の頭は無理やり起こされ、耳鳴りも頭痛もどんどんひどくなっていた。

本当に痛い。

頭の中で東日本大震災が起きてるかってぐらいに痛い。

何もできない自分に嫌気がさし、涙が涙袋にギリギリのところで堰き止められいた。

またもや涙袋は働かない。

ズキズキズキズキ

唐突に再び激しい3.11が襲ってきた。そして追い討ちを受けるように、外の音はもう一度だけ、大きな音は一斉に発した。

ドンドンドンバンバンバンわあわあわあドンドンドンバンバンバンわあわあわあドンドンドンバンバンバンわあわあわあドンドンドンバンバンバンわあわあわあドンドンドンバンバンバンわあわあわあ

涙が溢れた。

もう限界だったのだ。

過呼吸になった。

頭には原爆が投下され、それと同時に失神した。


また起きた。

まつ毛が見える。

本当に私のまつ毛は長い。

私の可愛い顔を作ってくれる重要な部分だ。

もうちょっと目を開ける。

また白い壁だ。

掴めない、ゴツゴツした平面。上を向いているとそんなものしか見えないとは、本当につまらない場所にいるなあ私は。

まあここがどこだかなんて知らないけど。

とりあえず起き上がる。

布団は重い。

足も重い。

背中は痛い。

頭も少し痛い。

喉が渇いた。

お腹も空いた。


疲れた。


これらの欲求はやく無くなってくれればいいのに。

死ねばなくなるな。


はぁ。

早く死にたい。


でも死ぬのもなんだかんだ言ってめんどくさいしなあ。

って感じでとりあえず生きてるわけだけど。

なんだかんだ言って人間は単純だ。


音はもう止んでる。

今日のは本当に酷かった。

いつもより長かったし、音も大きかった。

全く、何をしたいのか。

目的は私を殺すことか?

それに異論はないけどもう少し痛くない方法を選んでくれないかな。私はそんな辛い方法で死んでいきたいわけではないんだけど。

よし決めた。

今日という日は音の正体を探ろう。

さすがに1ヶ月も我慢したのだ。もう、本当に、、、我慢の限界だ。

ていうか、頭の痛みが限界だ。

一日の中のたったの15分前後。だけどその15分のせいで私の一日は苦痛に変わる。18時までは普通に生活できても、この短い15分のせいで、頭痛は寝入るまでずっと続く。次の日には余韻として頭がぼーっとしたり、少し痛い程度だけど、にしても辛い。しかも日に日にそのストレスなのかはわからないけど、結構痛みが蓄積されて、毎度毎度痛みが倍増している。

つまりまとめると、ものすごく辛いしめっちゃ痛い。


私は勇気を振り絞り、玄関まで降りた。

もちろん布団も手にして。これは強力な武器だ。何かあれば音の元凶に布団をかければいい。

元凶はなんなのだろう?故障した機械?喉が痛いからす?恋をした電話?

それともまさか、、、人為的?

真相を確かめるべく、私は玄関のドアに張り付いた。

音はしていない。

音はこの外からくるものだろうか。

確かめるしかない。

親が旅行先で連れていってくれた博物館や美術館で感動を装うようにものを触った時のように、最新の注意を払って優しくそーっと玄関のドアノブに手をかけ、そのまま妹の服を気づかれずに盗もうとする時のように、勇気を振り絞って大胆に、かつ用心深く慎重に、そーっと、私の思い心を反映していたかのような、重いドアを開けた。

結構久しぶりの外だ。

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涙が溢れる毎日に @himawari1024

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