第4話 お尋ね者

私は誰なのだろう。

私はどこにいるのだろう。

私は「あの日」、どうやって帰ったのだろう。

「あの日」に関する記憶が、私は半分くらいない。

というか、思い出したくない。

「あの日」に関する疑問は容易に私の小さくて惨めな頭を埋め尽くした。

けれども同時に知りたくなくて、考えるのをすぐにやめた。

何より、考えれば、思い出せば、そんなことをすればするほど、私のころろが縄で締め付けられている感覚が強くなっていっていた。

息ができなくなる。

胸が痛くなる。

涙袋が決壊する。

そして、「あの日」何があったのだろう。

最も痛ましく知りたくないと同時に、最も頭に浮かび上がるこの疑問が、日々私を痛めつけた。

それはシンプルにその疑問を知ることで私が辛いからだけではない、その疑問を浮かべながらも、恐怖や不安に打ち勝てず、結局家という安全なオアシスで何もせずにぬくぬくと息をしている私に、私自身が大きな不甲斐なさ、後悔を感じてしまうからだ。嫌気が刺すからだ。そしてこんなことを考えながらも、ずっと逃げ続けているからだ。

本当に、ただただこの状況が、自分が嫌になる。

辛い。

辛いよぉ、、、

遺体を見た後、私は何があったのか覚えていない。ただただ、世界が真っ黒になった。呼吸もできなくなり、その後に強い衝撃を受けた覚えがある。

けど具体的に何があったのかは覚えていない。

その次に目を覚ました時には滑滑した白い天井を見上げていた。

私が目覚めたのを確認した看護師は再び残酷にも、家族に関する説明を始めた。

その後どうなったのかは、すっぽり抜けている。

家にどうついたのか、誰と話したのか。

とりあえず私は今、見覚えのある家で生活している。

一人で。

一人での生活はかれこれ1ヶ月以上続いていて、外にも出ていない。もちろん出るつもりもない。出れば家族との大切な思い出を忘れてしまいそうで、怖い。

彼らの時間は止まったままなのに、私の時間だけが進んでいく。私の時間が進むのは当然のことであっても、家にいることで思い出を保存できるし、時間だけが進み思い出はアップデートされない。だから安心する。

仮に私が外に出て社会活動を再開すればどうなるだろう。私はきっと毎日毎日新しい思い出を作り、新しい人と出会い、いろんな経験をして、楽しい生活を送るかもしれない。しかしそれではだめだ。そんな楽しい生活の中に、家族はいない。彼らのことを忘れてしまうのではないかと、心底恐い。私に新しい思い出はいらない。いや、作ってはいけない。家族との思い出が最も濃いところで保存しないといけない。脳がアップデートされてはいけない。

一人で生きていくしかない。

どうすればいいの?


ドンドンドン。ドンドンドン。

バンバンバン。バンバンバン。

わあわあわあ。

急に音がする。

音が遠いな。

ドンドンドン。

バンバンバン。

わあわあわあ。わあわあわあ。

連続的だ。

水に埋まってるみたい。

でも音は頑張って鳴ってるな。

ドンドンドン。

バンバンバン。

わあわあわあ。

何も考えられないや。

「、、み、、、い、、?」

なんの音なんだろ。

ドンドンドン。ドンドンドン。

バンバンバン。バンバンバン。

わあわあわあ。

ズキズキ

あ、頭が痛いかも。

グワングワングワングワン、、、

頭がぐらぐらする。

何も考えられない。

音がどんどん大きくなってる。

ドンドンドン。

バンバンバン。

わあわあわあ。

チクッチクッ

耳鳴り?

グワングワングワングワン、、、ズキ、、

頭痛い、、、

ドンドンドン。

バンバンバン。

わあわあわあ。

音が頭に響く、、、

グワングワングワングワン

ズキズキズキズキズキズキズキズキ

うううぅぅぅぅぅ、頭痛いいぃぃ。

ズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキ

痛いいいいいい、、、

ドンドンドン。

バンバンバン。

わあわあわあ。わあわあわあ。

その音やめてええぇぇ、、、いやあああぁぁぁぁぁ

痛いいいいぃぃぃ

何のおとぉ??

ドンドンドン。

バンバンバン。

わあわあわあ。わあわあわあ。

ズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキ

いやあああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ、、、、

うううううううううぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ、、、

もうやめて、、、、

ピタッと、音が急に止まった。

まるで自分の願いが届いたようだった。

しかし私は痛すぎた頭を抱えるのに精一杯で、音が止まった後もしばらく頭を抱えていた。

両手で頭を抱えながら貧乏ゆすりをしゃがんだ状態で前後にしてやっと少し収まっていた。けどやっぱり痛い。

ズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキズキ

痛いいいいいいいいいいいいいい。

辛いいいいいいいいいいいいいい。

やめてええええええええええええ。


ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー


何があったんだっけ。

頭が痛い。

少しだけ。

あ、そうか。

うるさい音に影響されて、ものすごく頭が痛くなったんだっけ。

今は大丈夫、、、?というか、ちょっと良くなった。

けどやっぱり、痛い。

ううううううぅぅぅぅぅぅ

疲れた。

というか、ここはどこだ?

目の前は白い。

白いけど、なんか、白と私が遠い。

気がする。

あの白は、掴めない。

しかもなんか、、、ゴツゴツしてる。

不思議な白だなあ。

あれ?どうして私は掴めないと思ったんだっけ?

あ、腕だ。

腕が見えるからか。

あと手か。

手も見える。

あ、指もある。

指を動かしてみる。

何も掴めない。

白が掴めない。

あ、手にしわがある。

けどこれだとうまく見えない。

なんでだろう?

影?

あ、手の影がちょうど目にかかってるのか。

起き上がるか。

起き上がる?

ん?

私は寝っ転がっていたのか?

むくっと、私は上半身を起こした。

やっぱり、私は寝転がっていたっぽい。

いつの間に。

うーん。

何したかったんだっけ。

うーん。

考えてみる?

いや、頭は使いたくない。

使えない。

とりあえず、立とう。

なんか疲れた。

うーん。

ベッドだ。

ベッドに行けば大体のことは解決する気がする。

何も考えなくていい。

とりあえず、ベッドだ。

私は手を見ていた視線を正面へずらし、支えを探した。

あ、椅子がある。

椅子に手をかけ、それを踏み台に、私は力を込め、重く、何日もほぼ使われていなかったタプタプの脚を動かした。

何気に足って重いなあ。

脚を頑張って折り曲げて、なんとか体育座りまで持っていった。

あとは腕の力だ。

腕や手に力を少し込めた。

そして面倒な動きに対する努力をした。

全く、この動きを当たり前のようにできる人は本当にすごい。

私は踏ん張って、体育座りの山形に折った右足から、お尻の下に通すことに成功した。それと同時に左足の脚を地べたにつけ、まるで騎士の位を女王から賜る時の座り方みたいなポーズになった。

そこからは右足の力だ。右足に乗っているお尻も同時に持ち上げられるかに、私が建てるかが立っている。

もう一つの方法として、左足のついている部分に全集中して、そこから踏ん張ることもできる。

しかし、正直それは非常にめんどくさい。

と言うか、そんな筋力ない。

と言うことで、右足と右尻に賭ける。

星座の右半分の形だった右側の体を、膝を開くことで持ち上げた。

そのまま右足の裏を床に突き、しゃがんだ状態になる。

そしてそこから腰を持ち上げる。

わあ、なかなかに重い。

面倒だなぁ。

せえのっ。

屈伸から起立のポーズへ持っていくことに成功した。

つまり、立ったのだ。

そこから私はそそくさと周りを見渡した。

ここは、玄関?

後ろが寒い。

あ、ドアだ。

あれ?

私に布団がかかってたみたい。

私のすぐそばには、いつもはリビングにあるはずの赤茶色の大きな布団が置いてあった。

それを持つ気力もなく、私は気だるげに階段を登っていった。

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