第23話
西暦2136年 10月31日 東京 日本ヒーロー養成学校 東京校
「さてさて、豊田さんたちはうまくやってるかなー?」
「…………」
「返事くらいしなよ〜……新見くん。」
「チッ………」
「うわっ、舌打ちされた……!ショック………」
「ウザッ……!ってかいつまでやんだよこの茶番。」
日本ヒーロー養成学校東京校の校門前にいた八代 真司と新見 柚蓮は、そんなしょうもない会話をしながら歩いていた。
「………茶番って、酷い言い草だなー」
「事実だろ……!………相変わらずお前の考えは分からん。あの天坂とかいう奴に何の価値があるんだ?」
「んー……面白そうだから?それに天坂 勇次くんはね、才能があるんだよ。………玩具としての、ね。」
そう言って三日月のようにつり上がった笑みを浮かべた八代は恐ろしく不気味であった。
新見は変わらず無表情だが、内心は八代に対して恐怖心を抱いていた。たかだか2、3ヶ月の付き合いだが、悪意に満ち溢れたこの男の玩具に選ばれた天坂を可哀想だと思うほどに八代は恐ろしい。ありとあらゆることに才能があり、歪んだ精神によって人を人と思わぬような所業を平然を行える。心持たぬ怪物が力まで手に入れた最悪なパターンである。いつ切り捨てられるか分かったものではない新見は警戒心を高めていた。
これ以上この話を続けると八代のドス黒い面が出てきそうなため、新見は話題を変えることにした。
「………時間的にはすでにモンスターどもも暴れている頃か?」
「んー……たぶんね。一応配信見てみよっか?………配信〜♪配信〜♪…おっ!“B級ハンターによるスタンピード戦実況”だってよ!………これどこだ〜?……あっ!広島だって~」
そう言ってスマホに流れるモンスターとハンターの戦いを八代は新見に見せてきた。
そこには大型の蜂のようなモンスターと戦っている、剣を持った20代前半ほどの若い男と黒いローブに魔女のような帽子を被った男と同じくらいの若い女がいた。
『くそっ!このモンスター、厄介だ……!』
『ライオネット!何とか動きを封じ込められないの!?早く倒さないと……他のモンスターもいるのよ!』
『……わかってる!だが、コイツが素早い上に不規則な動きで、いまいち捉えられないんだ!』
彼らは一部のハンターやヒーローがダンジョンを攻略している様子を配信するダンチューバーという存在だ。もちろん命が関わるため、ハンター組合やヒーロー組合から許可がないと行えない。よってダンチューバーは総じて実力が高い。
だが、そんな彼らであっても巨大な蜂のモンスターに大いに苦戦していた。
「ハハッ……苦戦してるね〜」
「…………ん?誰か来たな……」
「おっ……誰だ〜?S級ヒーローだったら嬉しいんだけど。」
不規則で素早い動きに苦戦しているダンチューバーのライオネットらのもとに銀色の装甲に硬められた人物がやってきていた。
配信のコメントでは謎の人物襲来によって賑わいを見せている。その中にS級ヒーロー“機神”の文字が出てきたことで、さらに文字の流れる速度が加速した。
「マジ……?」
「S級9位ヒーロー『機神』………『機械化』の異能力を操るヒーローだな。」
「へー……どんな異能力なの?」
「たしか、自身と触れた物を『機械化』する………金属にするだけでなく、何らかの“仕掛け“も施せたはずだ……」
「………たとえば?」
「……たとえば、このぐらいの石に触れるとするだろう?」
そう言って新見は足元に落ちていた手のひらサイズの石を拾った。
「奴が触れると、このただの石が鉄製の仕込みナイフになったりする。ま、『機神』のやってることはもっとわけわからんがな……」
「便利な異能力だね〜……でも新見くんの『万魔殿』の方が強そうだ………」
「当たり前だ。俺の方が強い。」
新見は自身に満ち溢れた表情をしていた。もちろん彼にはそれを裏付けるだけの実力がある。
最初にヴィランとして起こした事件は「名古屋市百鬼夜行事件」。名古屋市に新見の異能力『万魔殿』によって強化されたモンスター、約1000体を解き放ち地獄に陥れた。その際に、S級ヒーロー1名、A級ヒーロー12人、B級ヒーロー47人が犠牲になった。
それ以降は「百鬼夜行」の異名で知られ、S級ヴィランとしてヒーローたちに追われる身となった。
「………さて、俺らも始めよっか?楽しい、愉しいパーティーだ。」
大胆不敵に笑う八代の顔は恐ろしく歪んでいた。これを魅力的と言う天坂 奈緒の正気を疑うくらいには
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日本ヒーロー組合 東京本部
ヒーロー組合襲撃班の豊田 善と天坂 奈緒は朝日がまだ登りきらない時に、2人は200メートルはあるヒーロー組合東京本部のビルを見上げていた。
天才少年ヒーローS級18位「設計者」が2年前に改装し、3年前の覇道会襲撃で更地になったとは思えないほどの規模となっている。見た目はもはや要塞であり、重厚感漂う作りだ。「設計者 」の持つ異能力『叡智』によって設計されているため防衛力は見た目以上の性能を誇り、ヒーロー養成学校に襲撃をかける八代ですら力押しでは絶対に倒せないと言うほどである。
「ほぉ〜……これに攻め込むのか?やっぱアイツ頭イカれてんだろ。」
「あぁ………?」
「いや、怖いぞお前………」
女の声とは思えない程低い声で豊田を睨めつける天坂 奈緒。歴戦の猛者、豊田 善に恐怖を与えるほどに豹変していた。
「これだからメンヘラは嫌なんだよ………」
ボソッと呟いた一言は天坂 奈緒の耳には入らなかったようだ。
「………まぁいい。豊田 善、時間ですよ。始めてください。」
八代と話している時と打って変わって冷たい印象受ける天坂 奈緒に急かされて豊田は動き出した。
「はいよー………」
“
豊田の右腕がボコボコと膨れ上がり、何百メートルにも伸び上がった。膨れ上がった右腕には無数の足が生えていて悍ましさを増している。圧倒的な質量を持っている“それ”を支えているにも関わらず、平然としている豊田はやはり異常なのだろう。
そして“それ”を思い切り振りまわした。
「うわぁ………気持ち悪っ!どうなってるんですか、あれ?」
悍ましい異形の攻撃に天坂 菜緒は生理的嫌悪感を隠せないでいた。
そんなヒーロー組合を押し潰すかに見えた豊田の攻撃だが、ヒーロー組合は3年前とは違っていた。
S級11位ヒーロー「千里眼」には見えていた。
見えているということは対処が出来るということだ。
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「千里眼」からの指示を受け取っていたS級20位ヒーロー「剣聖」は静かに、ただ静かに待っていた。
敵の初動を確実に潰すための一撃を放つために、心を研ぎ澄まし五感を極限まで感じてじっと構える。
そして、その時が来た。
“遠山流奥義【屠閃】”
眼前まで迫っていた異形を一筋の煌きが真っ二つにした。
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