第22話
西暦2136年 10月31日 栃木県 宇都宮
そこには”鬼”がいた。彼に襲いかかったモンスターはすべて弾け飛び、赤い染みを広げるだけであった。
S級5位ヒーロー「破壊僧」は栃木最大の
彼は元々、ただの僧侶だったが飲酒、女を連れ込んで乱交などなど、禁を破り破門。その後、異能力が強力なこと、職務自体は真面目に取り組んでいたことからヒーロー組合にスカウトを受け、ヒーローとなった。
ツルッパゲな上に女好きの助平親父だが、ヒーローになって1年でS級へと上り詰めたその才は紛れもなく本物だ。
“
そんな助平僧侶だが、『阿修羅』という異能力を扱っている。『阿修羅』をその身に宿して戦う、もしくは『阿修羅』の力を借りる。覇道会幹部のS級ヴィラン、茈 獬の『神獣』と似たような力の異能力だ。
そして、『阿修羅』には3つの顔がある。その内の1つが【憤怒】。身体能力の底上げに加え、疑似太陽を発生させることが出来る攻撃的な“顔”だ。
【憤怒】を発動させている「破壊僧」はまさに鬼神の如き戦いっぷりを見せていた。周囲に援護しに来ていたヒーローたちがまったく近づけないほどに。
「す、すごいっ……!これがS級…!俺達があんなに苦戦してモンスターたちを文字通り蹴散らしている……!」
「……強すぎる…!S級はやっぱり化物だな……」
「あぁ、負ける姿が想像できない…!」
ヒーローたちの尊敬どころか畏怖を集めている「破壊僧」は一向に減らないモンスターたちを一心不乱に殴り続けている。もっとも遠目で分かりづらいがニヤけているので、聞こえてはいるのだろうが。さすがは俗物僧侶
である。
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西暦2136年 10月31日 東京 日本ヒーロー養成学校 東京校
「……それで、私達に話って何かな、1年A組の天坂 勇次君?」
「………失踪した俺の姉のことです。」
「失踪ねぇ〜……誘拐じゃなくて?」
「姉さんが簡単に誘拐されるとは思えませんし、ただの勘ですけど、違和感もあるので……分かる範囲で構いません。教えてくれませんか?高槻先輩、夕凪先輩。」
俺は姉の親友高槻 美穂先輩、姉の彼氏内海 蓮夜の親友夕凪 颯先輩に”あの日”の事を聞きに来ていた。
「はぁ〜…って言っても私達も知っていることは少ないわよ?」
「うん。僕も知ってるのは蓮夜のことだけだよ?」
「大丈夫です……今はとにかく情報がほしいので………」
「………だったら、“あの日”じゃなくて奈緒のそれ以前のことを話さなきゃね……」
「……?以前…?何かあったんですか……?」
「えぇ、たぶん誰も知らないことだけど。」
そう言った高槻の顔は苦々しい表情だった。だが、それこそが俺が知るべき姉、奈緒の秘密なのだろう。
「あんまり言いたくないことだけど、奈緒にはセフレがいたの。私にも隠してみたいだけど、前に奈緒の部屋に行った時の異臭………間違いなく盛ってた後ね……」
「それっていつ?4月より後なら浮気してたことになるぞ…!」
「…………6月よ。」
「美穂………お前、天坂さんと蓮夜が付き合ってたの知ってただろ…!それなのにわざと見逃してたのか…!?」
「………そうよ。言えるわけないじゃない……あの奈緒が浮気してただなんて………親友だったのに、影で裏切ってたのよ?」
「もし美穂が誰かに伝えてたら……蓮夜はあんな目に会わずに済んだじゃないのか…?」
「……………」
高槻先輩と夕凪先輩の雰囲気が悪くなり、今にも喧嘩が始まりそうだが、俺は姉の衝撃的な真実に頭を殴られたような感覚に陥っていた。
まさか………姉さんが浮気……?だとしたら、誘拐犯って………
そこまで考えて俺はとてつもない吐き気に襲われた。俺の知っている姉は全部虚像だったのか?内海先輩は全部に姉にやられたんじゃないのか?考えれば考える程気持ち悪い想像が浮かんできた。
そんな俺の表情を心配したのか、険悪な雰囲気を漂わせていた2人が、
「…………大丈夫か?顔、真っ青だぞ…」
「………ホントだ。医務室、行く?」
と言ってくれた。俺は高槻先輩の提案に乗り、2人と一緒に医務室まで歩いていった。
この時の俺はまだ幸せだったのかも知れない。なぜなら、まだ失っていなかったのだから。
この世には知らないことの方が幸せなこともある。もし、この時に戻れるなら俺は…………形振り構わず逃亡を選択していることだろう。
俺に訪れる絶望はきっとこの時が序章なのだ。まだまだ暗い昏い葬送曲は始まったばっかり。
………………どうか早く終わりが来ますように…………
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