第21話

西暦2136年 10月31日 ハロウィン 北海道 函館


「うぅ〜……寒いなー、何でダンジョンの中も寒いのかねー」


「ですね…………?先輩、なんか地面揺れてません?」


「は?…確かに、揺れてんな。ん?……おい!逃げるぞ!……異常発生スタンピードだ……!」


「なっ!?」


 すでに気温が一桁になっている北海道、函館にあるとあるダンジョンに潜っていた2人のハンター。彼らは、地面の揺れがどんどん近づいていることとかすかに聞こえる唸り声から、モンスターが大量に発生する異常発生スタンピードと断定。即座にその場を離れ、ハンター組合へ駆け込んだ。


 そして、職員らが慌ただしく動いている光景を目にして、今回の異常が伝わっていると認識した。だが、それは誤りだ。職員らが慌ただしくしているのは、函館のダンジョンで起こった異常発生スタンピードが原因だけではない。で起こっている異常発生スタンピードが原因だ。



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西暦2136年 10月31日 福岡県 博多


「キャーーー!!!」


「ウワァァッ助けてくれーッ!!」


 あちこちから響く叫び声。八代たちの手によって放たれたモンスターに襲われる人々。彼らを助けようと動いているのはヒーロー組合福岡支部に所属するヒーローたちだ。


A級42位ヒーロー 「ハリセンボン」 『棘』


B級17位ヒーロー 「ムキムキ侍」 『剣才』


B級341位ヒーロー 「悪戯妖精イタズラフェアリー」 『妖精』


他B級ヒーロー5人、C級ヒーロー13人、D級ヒーロー47人


 突如としてダンジョンから現れた強力なモンスターと対峙している彼らは唯一のA級ヒーロー「ハリセンボン」を仮のリーダーとし、戦おうとしていた。


が、


「グワッッァア!!」


「何だこのモンスター!?強すぎるぞ…!!」


 彼らを圧倒しているのは、ダンジョン溢れ出したモンスターの中でも一際巨大な獅子のようなモンスターであった。恐ろしく俊敏であり、攻撃を当てるのが至難なだけでなく、一撃一撃が強力なため、立ち向かったヒーローたちが紙のようになぎ飛ばされている。

 それを見た民衆は雪崩のような勢いで逃げ出した。それは巨大な波のように伝播していき、ヒーローが守ってくれると安心していた人々に絶望を与えるのには十分であった。

 だが、そんな人の波をかき分ける1人の男がいた。白いスーツを身にまとい、目と鼻と口の部分のみ穴が開いているシンプルなデザインの仮面をつけた大男だ。彼はどのヒーローも敵わなかったモンスターの前におもむろに立つと、手を前に突き出した。


”獄炎【黒】”


 彼の手から黒く揺らめく火の玉が出てきた。そして、それはゆっくりと獅子の身体に着弾した。


”ドッッッツ!!!”


 一瞬にして爆発を起こし、周辺にいたモンスターを巻き込んで獅子の存在を掻き消してしまった。


「す、すごい……!これが”あの”『獄炎王』……」


「さすがS級3位………」


 あまりの破壊力に呆然とするヒーローたちを背に、S級3位ヒーロー「獄炎王」は異常発生スタンピードを鎮めるため、ダンジョンへと歩みを進めるのだった。


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西暦2136年 10月31日 京都府 京都


「数が多いな………」


「ですね……でも”あの”『獄炎王』さんが居て助かりましたよ!」


「そうか……」


 S級3位ヒーロー「獄炎王」の拠点である京都でも異常発生スタンピードが起こっていた。「獄炎王」と肩を並べて戦っているのはS級28位ヒーロー「不死身帝」。『不老不死』という誰もが羨むような異能力を持っているが身体能力自体は一般人の彼にとって、戦闘力の高い「獄炎王」の存在は非常にありがたいものだった。


「つい先程通信があった。スタンピードが発生しているのは北海道、青森、山形、栃木、長野、静岡、福井、三重、京都、和歌山、広島、愛媛、福岡、鹿児島、沖縄。各地のS級が対応に当たるそうだ。『剣神』が長野、『超人』が静岡、『ドッペルゲンガー』が福岡及び鹿児島、『破壊僧』が栃木を担当するらしい………」


「だったら、京都こことその5県は問題なさそうですね。」


「……あぁ。奴らの戦闘能力なら………あと福岡に“俺”がいるらしい……おそらく『ドッペルゲンガー』の奴だろうがな。」


「マジすかっ……!」


 異能力『模倣』。自身が触れた対象の外見、身体能力、異能力を制限付きではあるが模倣することができる。S級4位ヒーロー「ドッペルゲンガー」の操る異能力は『模倣』である。「ドッペルゲンガー」は「獄炎王」の外見、身体能力、異能力、全てを前日に『模倣』、そしてそのまま福岡で戦闘を行っていた。

 未来でも予知していたかのような行動に「獄炎王」は引っ掛かりを覚えていた。

 

 同じような引っ掛かりを「ドッペルゲンガー」相手に彼は3年前にも体験していた。

 かの“頂上決戦”の際、奴は唐突に福岡から東京へ向かっていた。そして、覇道会の構成員に紛れ込み戦場の終結を補助していた。

 この時も事前に戦場となる場所へ向かっていたのだ。地方に散るS級ヒーローで唯一、「ドッペルゲンガー」のみが遠方から参戦していた。


 謎の多い人物が多いS級だが、その中でも「ドッペルゲンガー」は特に謎が多い。性別、年齢、本名、素顔などなど、異能力『模倣』以外判明していない。あまりの不明さに存在が疑われるほどだ。

 それでもヒーローとしての実績がその存在の証明となっている。


 「獄炎王」は自身に群がるモンスターを赤黒い炎で一掃しながら、思考を巡らせていた。「ドッペルゲンガー」がにあった”裏切り者”かもしれないと。だが、表情には決して出さず、モンスターとの戦いを続けるのだった。

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