第20話

西暦2136年 10月30日 喫茶店アロマ


 窓から差し込む日差しが眩しい朝。

 明日起こす大事件のための仕込みで日本全国を周った俺と新見はすでに疲労が顔に出てしまっていた。


「新見、隈ひでーぞ。魔力さえあればいくらでもモンスター従えられるんじゃなかったのか?」


「そうですけど疲れるんですよ……さすがにあれだけの数に”支配”をかけるのは初めてなんで。」


 パッと見ると軍人のような強面の男が、学生の優男に絡んでいるようにしか見ないが、2人ともS級ヴィランに指定されている犯罪者だ。八代から伝えれた作戦の肝と言える俺、豊田 善と隣でぐったりしている優男、新見 柚蓮。知り合いのS級ヴィラン「十二神将」”伐折羅”の伊太良 政に誘われ集まったが、あまりの人使いの荒さにすでに裏切りたい気分である。

 俺は異能力の性質上、肉体的な疲労とは縁遠い。とはいえ精神的に疲れた。俺がモンスターをぶん殴って新見が”支配”をかける。これを何万という数を約2ヶ月、ずっと繰り返していたのだ。何とかノルマはクリアしたが、八代の奴には一発ぶん殴らないと気が済まない。


「あの野郎、ぜってぇぶん殴ってやる……!」


「激しく同意します……」


 伊太良マスターの用意してくれたコーヒーを飲みながら、混沌の世界を作ると宣った男の顔を思い浮かべていた。

 

 

 自分の仕事を終えてアロマに帰ってきた八代は豊田と新見に何も言わずに殴られ、困惑していたという。


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西暦2136年 10月30日 東京 日本ヒーロー養成学校 東京校


 訓練場から轟音を立てて、鋭く尖った地面が勢いよく突き上げてきた。多々良による本村に向けての大規模攻撃に皇らグループ2の面々は注目するが、彼女にそれは悪手である。


”張罠【透糸】”


 目に見えないほどに細い糸が張り巡らされたそこに皇らは飛び込めない。捕まったが最後身動きが取れずに絡め取られる。

 『糸』という異能力を操る本田 紗月は天坂に序盤は妨害に徹するように見せかけて全体に糸を張り巡らさせるように言われていた。結果として、これが功を奏し、天坂と間宮が那智を攻撃してる間に攻めてきた皇たち相手に足止め出来ている。奈良坂の『言霊』であれば、張られた糸をどうにか出来るかも知れないが、久下の『水狐』がそれをさせない。異能力によって生み出された『水狐』は魔力の塊だ。今の奈良坂の『言霊』では水狐をどうにか出来る程の力はない。動きを止めるぐらいなら出来るが、精々1秒程度だろう。異能力の発動には大抵は”溜め”がいる。『言霊』はその良い例だ。短くても5秒の溜めがいるため、『水狐』の動きを止めて『糸』を排除してもやられる。先に『糸』を排除すれば『水狐』が動いて奈良坂を倒すだろう。もっとも糸に囲まれた久下と本田もそこから動けないのだが。

 そして、この睨み合いの状況こそが天坂の描き出した戦いだった。『糸』で動きを封じ込めて、その隙に天坂と間宮で那智を倒し、皇たちの背後を急襲する。不確定要素として隠密に長けた本村がいるが多々良の広範囲攻撃で炙り出し、対処することで解決を図っている。

 

 両者の思惑と意図が絡み合い、導き出された戦いは………



 本村が多々良の広範囲攻撃に捉まったことで決着がついた。


 グループ2がグループ1に勝利するためには、天坂を倒すことが絶対条件だ。そのためには天坂1人対グループ2複数人という状況が必要である。それ程に天坂は強い。そして、危機的状況に陥れば陥るほど力を増す。それを抑え込めるために本村の奇襲で相手の人数を減らし、皇たちが久下、本田を倒す作戦で戦ったのだ。だが、天坂はそれを読んで事前に罠を張り奇襲を無効化、自身は間宮と協力して前に出てきた那智を倒すことに専念した。


 多々良が本村を炙り出した頃、那智は天坂と間宮の猛攻により限界を向かえていた。

 これにより、皇は敗北を悟った。天坂と間宮ならば本村の奇襲という脅威がなければ、絶対に挟撃を仕掛けてくると分かっているからだ。だが、『女王』の矜持がそれを許さない。皇は敗北を悟ってもなお勝利のために戦った。結果は予想通り、挟撃を実行され完敗だったが。



 グループ1とグループ2の激戦が終わり、意識を失った、怪我をした生徒は医務室へ運ばれた。

 そして、再び駒田がグループ3とグループ4の生徒に移動するように言い、戦いが始まるのだった。



「うんうん、みんな元気だね〜………ま、明日にはそんな顔出来ないだろうけどね。」


 密かにヒーロー学校に侵入している黒い何かに監視されているとも知らずに………


 10月31日、ハロウィンにより日本中が賑わう日に絶望が訪れる。

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