第19話
西暦2136年 10月29日 日本ヒーロー養成学校 東京校
東京都内にある日本ヒーロー養成学校東京校は、もはや1つの都市である。巨大な校舎だけでなく、スーパーやドラッグストアなどいくつかの店舗も点在している。さらに、研究所も兼ねているため、そのための区域まで存在している。
そんなヒーロー養成学校のとある区域、完全無人ながら、1つの町を彷彿させるような建造物群。戦闘訓練のために作られたそこに、1年A組40名が集合していた。
「は〜い、今から〜、5人対5人の実戦訓練を行いま〜す。」
のんびりとした喋り方で話す1年A組担任、
「では〜、さっそく始めましょう〜。グループ1とグループ2の人たちは準備してくださ〜い。」
おっとりした雰囲気の担任の呼びかけに応じて10人の生徒が動き出し、残りの30人は担任と共にモダンな小屋へ移動した。
小屋の中には巨大な液晶があり、あちこちに放たれているAIが管理しているドローンを通して訓練場を一望できる。
これから行われる授業はヒーローとヴィランの戦いを想定しており、集団戦における連携、戦術を実戦を通して学ぶことが目的だ。戦闘に参加しない生徒たちも、液晶を通して様々な戦い方を見ることで理解や発想を深めることできる。
さて、所定の場所へと移動したそれぞれのグループはそれぞれの役割、戦術など作戦について話しているようだ。
グループ1のメンバーは、
出席番号1 天坂 勇次 異能力:「勇者」
出席番号11
出席番号18
出席番号32
出席番号34
の5人だ。学年1位の実力者である天坂 勇次がリーダーとなり、作戦を練っている。
どうやら、天坂と間宮が前線に立ち、多々良が『岩石』による障壁を作りサポート、久下と本田が遠距離から攻撃するというもののようだ。
一方、グループ2のメンバーは、
出席番号14
出席番号16
出席番号24
出席番号25
出席番号31
の5人。天坂に次ぐ実力者の皇が持ち前のカリスマで牽引している。
強敵の天坂を倒すために、那智が前衛、本村が得意の索敵と隠密で奇襲を行い、皇と奈良坂が身体能力の向上などによる支援、佐藤が攻撃の主力を担うようだ。
小屋の方では、担任の駒田がマイクを持ち、
「それでは、準備はいいですか〜?………よ〜い、はじめ!」
訓練場一帯にスピーカーで拡大された音声が響き渡った。
その声を合図に10人の生徒たちは動き出した。
まず、初めに動いたのはグループ1の間宮とグループ2の本村だ。間宮はグループ2の主力と言える皇に向かって真っ直ぐに突き進んでいる。一方の本村は、早速異能力を発動して蛇になり、気配を隠しながら迂回してグループ1の背後へと回ろうとしている。
「……!!本村が後ろに回るぞ…!多々良!対処を頼む……!」
「おう!任せとけ…!」
本村の動きを察知した天坂は間宮に続いて突撃していた多々良に、本村の対処をするように指示を出した。
天坂の指示に多々良は、手を地面につけ魔力を流し、
“地昇【岩壁】”
と唱えた。すると、地面が動き出し多々良たちを囲うように、3メートル程の高さの壁が出現した。それに対し皇は、
「むっ……!那智さん、壁の破壊をお願いします!奈良坂さん、『言霊』で動き止めれますか…?」
「あいよ…!……おらっ!!」
“ドガッッ!!”
「分かりました…!」
“命令【停止】”
『怪力』によって常人を遥かに超えた力で多々良の生み出した岩壁を殴り壊した那智はグループ1のメンバー目掛けて走り出した。
それを予見していた皇は奈良坂に、『言霊』で相手の動きを止めるように指示を出した。
“命令【停止】”。
奈良坂の持つ異能力『言霊』は自身の放つ言葉に力を持たせることで出来る異能力だ。その中でも“命令”は特に強力であり、“命令”を聞いただけでその指示に従ってしまう。ただし、魔力の消費は尋常ではない。その上、高度な魔力操作が出来るものには抵抗されてしまうこともある。魔力の消費は言葉の持つ意味と文量によって左右され、例えば【自死】と“命令”しても魔力の消費は【停止】の何倍もかかる。奈良坂の魔力量であれば、発動さえ出来ない。【停止】でもそこそこの量が消費されているのだ。そして、【停止】による拘束時間も相手の魔力操作の力量に左右される。
今回では、全員が停止した。が、天坂の拘束は一瞬で解けてしまった。
異能力『勇者』。それはまさに人々の希望。強力な身体能力の強化に加え、自身と仲間の窮地に身体能力、魔力の増加、窮地を打破する能力を手に入れることが出来る。まさしく化物じみた力だ。
そして、今この時にもその力は絶大の効果を発揮した。すぐさまを【停止】による拘束を解き放ち、グループメンバーのもとへと向かっていた那智へと訓練用の剣を振りかざした。
「セェェヤァァア!!」
「なっ!?……速すぎんだろ!」
天坂の接近を察知した那智は間一髪のところで天坂の剣を避けた。
「クッ…!さすが那智………」
「どっちがさすがだよ……!」
那智の拳は『怪力』によって通常よりも頑丈になっている。ゆえに天坂の剣、訓練用とはいえ素手で殴り合うものではないものと戦うことが出来ている。
対して、天坂は『勇者』の力を十全に発揮出来ていない。あくまで授業、訓練なのだ。勇者の力は命のやり取りでこそ真価を発揮する。
だからこそ、一方的な戦いになってもおかしくないにも関わらず、那智と天坂の戦況は拮抗している。
そして、そこへ奈良坂の拘束が解けた間宮が加勢してきた。間宮は『火竜』と言う強力な異能力を操る。頑丈な体に強力な攻撃。上には上がいるが、今の段階でも十分に強い。
「ウオォォォオオオ!!!」
大きな咆哮と『火竜』を発動させ巨大な体躯になった間宮の体当たりに、天坂の相手をしていた那智はただ吹き飛ばされる他なかった。
天坂と那智が戦っている一方で、グループ2の皇、佐藤、奈良坂は那智に天坂と間宮の意識が集中してる間に、ようやく奈良坂の拘束から解き放たれた久下、本田へと攻撃を開始していた。
グループ2は異能力『女王』という支配下の身体能力を引き上げ、指示を行き通りやすくするなど、有能な力をいくつも扱える皇の指揮の下、学年1位の天坂相手に優位に戦いを進められている。単体の戦闘能力が非常に高い天坂を敢えて狙いにせず、戦場をいつでも仕切り直せる多々良に隠密に長けた本村を当てることで、学年2位の皇が自由に動ける状況を作り出す。おまけに攻撃能力が非常に高い佐藤、現状であればいつでも相手を妨害できる奈良坂も皇が護衛できる位置にいる。
これが皇の描いた今回の戦いにおける絵図だった。奇妙なまでにうまくいっていることに違和感が残る。皇は警戒心を強めながら、大胆な攻勢を続けるのだった。
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