第18話
西暦2136年 7月 東京
”『剣神』復活!”
この一報は日本全土に衝撃を与えた。各地のヒーローたちは勢いにのり、「剣神」の脅威を知るヴィランたちは恐れ慄いた。
そして、それは喫茶店で面倒くさそうに店番をしているこの男にも衝撃を与えた。
「まじかよ………あの『剣神』が……」
「………復活するんですか?」
「奈緒……あぁ、チッ……面倒なことになる……が、俺的には面白くなる…かもな。」
だが、そう言った八代の表情は晴れない。それ程に彼にとって「剣神」という存在は大きい。というのも、彼は3年前、「剣神」と亜麻界 聡の戦いを見ていた。だからこそ、その脅威が分かる。異常な強さ、悍ましく美しい太刀筋、当時はその強さに憧憬を抱いたものだ。しかし、敵として対峙するならば、この上なく厄介としか言いようがない。であれば……
止まらぬ思考の渦に入った八代は、天坂 奈緒に声をかけられるまで、動くことはなかった。
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8月 東京 喫茶店アロマ
外は暗くなり、月が輝いているのが窓を見るとわかる。喫茶店アロマにて、7人の人物が集まっていた。
やや長めの黒髪をツーブロックでさっぱりさせ、綺麗で整った顔をした17才の青年、八代 真司。
艷やかな黒髪を腰まで伸ばし、作り物のように端正な顔を持つ美少女、天坂 奈緒。
喫茶店アロマの店長であり、『十二神将』の1人でS級ヴィランであるイケオジ、
同じく『十二神将』の1人にして中国人女性の、
茶髪のショートカットの女性で、『反転』と『天秤』、2つの異能力操る珍しい存在、
非常に鍛え抜かれた体で、見るからに強者と分かる男、
18才ながらすでにS級ヴィランに認定されている、
彼らは全員ヴィランであり、彼らを集めた八代 真司と天坂 奈緒以外はS級ヴィランとして危険視されている。
もっとも八代はその天性の才から、彼らと並ぶだけの実力を持っている。天坂 奈緒は元プロヒーロー候補というだけあって彼らには劣るものの、実力は高い。
「さて、真司くん。我々を集めて何を企んでいるのかな?」
伊太良の問いかけにその場の視線が八代に集まる。彼に対し懐疑的な視線もあるが、彼は涼しげな顔で受け流す。
「そうだね……日本ヒーロー養成学校、東京校に襲撃でもかけようかと思ってね。具体的な作戦としては、まず俺と新見さんでモンスターを操って各地に襲撃をかける。」
そう言って八代はテーブルに広げられた日本地図に円を描いていく。北海道、青森、山形、栃木、長野、静岡、福井、三重、京都、和歌山、広島、愛媛、福岡、鹿児島、沖縄、全15県を中心に描かれた円は、モンスターによる襲撃地点を意味しているようだ。
「このようにヒーロー側の戦力を分散させた上で、継続戦闘能力が高い豊田さんを日本ヒーロー組合東京本部に、他の皆さんはヒーロー養成学校に襲撃をかけます。あ、奈緒は豊田さんの方に行かせる予定です。まぁ、襲撃をかけると言っても、目的の人物だけは殺さずに………そうですね……半分くらい殺せれば撤退します。S級上位のヒーローが来ても撤退です。各地に放つモンスターは放置で構いません。これはあくまで“慣らし”ですので。その後のことはこれが終了すれば、話しましょう。さて、何か質問などはありますか?」
「………俺の“ストック”だって、無限じゃねぇんだがな……これに協力する俺達のメリットはなんだ?」
恐らくこの場にいる全員が思っている疑問を豊田が代表して質問した。
「フフッ……貴方がたへのメリットは、“混沌の世界”とでも言っておきますよ。これによって確実にヴィランの時代がやってきます。そうなれば、貴方がたも好き勝手できるのでは?」
「そうか………楽しみにしておこう。」
豊田の返答にニッコリと微笑み、八代は会議を進行させた。
彼らの夜はまだまだ続きそうだ。
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7月 東京 渋谷
血飛沫を浴び、恐怖に歪んだ死体を眺めて笑みを深める初老の男性がいた。名を伊太良 政と言い、中国・インドを中心に活動するヴィラン集団『十二神将』の一員で「伐折羅」の名で恐れられているレートS級のヴィランである。
そんな彼であったが、ふと表情を歪めると後ろを振り向いた。その視線の先には、血で汚れた女性と思しき生首を片手に伊太良を見つめる若い男がいた。
まさかの同類に驚愕に包まれる伊太良だったが、さらに驚かされることになる。
「いや〜驚きましたよ……まさか店長が俺と同じヴィランだったとは。」
そこにいた男は、伊太良が趣味で開いている喫茶店(無許可)でバイトとして雇った八代 真司であった。
雇ったときから訳アリであることは感づいていたが、ヴィランだとまでは気づいていなかった。
“ということは、同時期に雇った
若干的外れなことを考えながら、八代に対して警戒する伊太良だが、一瞬にして距離をつめられ背後を取られたため、警戒するだけ無駄であると悟った。
「その魔力操作、身体能力、どちらも素晴らしいね………ところで、
「………あぁ、俺の名前は偽名だ。本名は八代 真司だ。狐森……天坂 奈緒はヴィランじゃない。元ヒーロー候補生と言えば伝わるか……?そうゆうアンタこそ偽名だろ?」
そう、八代は喫茶店アロマで雇ってもらう時、鳥羽 将平と名乗っていた。そして、伊太良もまた、
伊太良は八代から知らされた狐森……天坂 奈緒の衝撃的な事実に動揺を隠せないでいた。八代同様訳アリであると見抜いていたが、元ヒーロー候補生だとは想像もつかなかった。
”さすがに予想外ですね…………それに天坂 奈緒の名は私も聞いたことがありますね……確か将来有望な美人ヒーロー候補として取り上げられていたはず……?”
「……えぇ、私の氏川 陽水も偽名ですよ。本名は伊太良 政と言います。………しかし驚きました。狐森さんがあの天坂 奈緒だったとは……彼女は……ヴィラン側の人間ということですか?」
「いや……俺が拉致った被害者だな。今は誘拐された可哀想なヒーロー候補生ってところか。」
「は……?拉致った…?」
与えられた予想外すぎる情報に脳がパンクしそうな伊太良だが、なぜ名を明かし自身の疑問にも答えるのかと新たな疑問が浮かんできた。
だが、八代はその伊太良の心でも読んでいるかのように、
「フッ………話は変わりますが店長、俺の企みに協力しませんか…?これからちょっと面白いことでもしようかと思ってるんですよ。店長も相当強いでしょ……?楽しい、愉しい“戦争”が始まりますよ……!」
“戦争……!?一体何を起こす気なんだ………!?”
驚愕に包まれる伊太良は、八代の雰囲気と話術に呑まれ八代の企みに頷きで返すのだった。
これにより、西暦2136年10月31日、ハロウィンの日に起こる日本ヒーロー養成学校東京校襲撃事件の中核を担う者たちが集結することとなる。
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