第17話
西暦2136年 7月 長野
山に囲まれ、自然の恵みと厳しさを感じ取れるこの場所に、不釣り合いなほどに微妙な大きさの道場があった。
その道場は遠山流剣術を名乗り、武術に精通している者たちの間では非常に有名である。
そんなところへこれまた不釣り合いなスーツ姿の男性が訪れていた。彼は日本ヒーロー組合の職員であり、東京本部からの指令で『遠山流剣術道場』の
「先生はお会いにならないとのことです。」
が、ここまで徒歩で来ていたにも関わらず、弟子により門前払いを食らおうとしていた。
「なっ!?面会すらダメなんですか……」
「えぇ、先生も3年前の傷は大きかったですからね………貴方は初めてここに来たのですよね?」
「は、はい…担当の者が体調を崩したので、代わりに。」
「でしたら、覚えておいてください。先生は万全の状態になるまで、復帰はしないと……ヒーロー組合にもそう伝えておいてください。………では。」
そう言って弟子は道場へと戻ろうとした。
だが、道場から1人の若い男が歩いてきたことで弟子の男は驚愕していた。
「先生ッ!……なぜ…?」
「気が変わった。……さて、弟子が失礼したね。私が遠山流剣術師範の
「あ、初めまして。日本ヒーロー組合長野支部、ヴィラン対策課の
「………話を聞こうか。
「分かりました。どうぞ、ついてきてください。」
「あ、ありがとうございます!」
弟子の
中には中央に囲炉裏があり、上座に遠山 京明はいた。酒町は遠山の脇に控えるようにして座り、白藤はその2人と対面するように座った。
「それで………私を呼ぶほどの事態が起きたのか?」
鋭い視線で非常に重い雰囲気を纏う遠山に圧倒されそうになるが、意を決して白藤は話しだした。
「………順を追って話しましょう。3年前の頂上決戦後、覇道会の動きは鳴りを潜めました。しかし、他のヴィランたちは『剣神』という最大の抑止力が一時的にとはいえ、消えたことで活発になりました。これに関しては『超人』を筆頭にすぐに鎮圧しましたが、『八夜叉』などのヴィラン組織が誕生し、今なお手を焼かれています。まぁ、S級ヒーローの方々が対応しているので、今は問題ありません。ですが、最近、覇道会が活動を再開し始めました。現状、確認されているのは、幹部 レートS級 山内 暁基 異能力『空間』
幹部 レートS級
幹部 レートS級
幹部 レートS級 早見 空 異能力『実体化』
幹部 レートS級 近江 蒼 異能力『影』
幹部 レートS級 近江 紅 異能力『支配』
幹部 レートS級 狂剣 異能力『魔剣創造』
幹部 レートS級 エレス・ドウラー 異能力『操血』
幹部 レートA級
構成員 レートS級 暴竜 異能力『恐竜化』
構成員 レートS級 灰崎 異能力『灰』
構成員 レートS級
構成員 レートA級
です。危険度の高い人物をピックアップしていますが、今挙げた奴らは全員S級ヒーローが仕留めきれなかったヴィランです。」
「ふむ………つまり、こいつらを討伐するために、“俺がいる”ということか?」
「はい。幹部は全員の存在を確認できましたが、構成員の中にはまだ危険人物がいそうですし、『八夜叉』や中国の『十二神将』などの横槍も警戒しなければならないんです。そう考えるとやはり『剣神』の力は必須になるかと………」
「ふぅ〜……まだ……万全ではないのがな…」
「では…!」
「うん。繁……ここは頼んだよ。亜麻界が動き出したら、相手になるのは私だけだ。かれこれ60年近くの因縁だからよくわかる。復活の時が近いんだろう………もしかしたら、私の一番弟子も絡んでいるかも知れないし……」
“60年?明らかに見た目が………それと、一番弟子?酒町 繁ではないのか?”
60年以上生きているとは思えないほど、若い「剣神」に違和感を覚えつつ、疑問に思ったことを白藤は口に出した。
「?酒町さんが一番弟子ではないのですか?」
「はい。私は五番弟子です。私がここに来て20年は経ちますが、一番弟子は見たことありません。逆に二番弟子の方は貴方がたもよくご存知のはずですよ?」
「S級ヒーロー『剣聖』と言えば伝わるかな?」
「なっ……!?本当ですか…!初めて知りました………」
「そうだろうな………ちなみに三番弟子は海外に用事で出ている。四番弟子は独立して新たな流派を築いておるよ……」
何かと謎の多い日本S級1位ヒーロー『剣神』の機密を教えられている気がして内心、戦々恐々としている白藤だが、元プロヒーローとしての矜持が彼のポーカーフェイスを保たせてくれた。
「………さて、話はそれだけか?」
「え、あ、はい…!ご協力ありがとうございます!」
「……まだ時間あるかな?お主、ここまで来れたということは相応に実力はあるのだろう?うちの弟子たちと試合してくれんか?」
「は、はぁ……しかし、『剣神』のお弟子さんたちとですよね?相手になりますかね?」
「他の実力を知るというのも修行の一環だ。繁、あとは頼んだぞ。私はちと出かけてくる。」
あまりに唐突のことで放心状態となっている白藤は、繁の案内で気づけば道場で剣を構えていた。
白藤は怪我で引退したとはいえ、元A級ヒーローとして名を馳せていた。当然「剣神」という怪物が教えているとはいえ、勝つつもりで挑んだ。
が、道場で最弱であろう者にさえ、一太刀も浴びせられなかった。
“つ、強すぎる!!なんだ、この化物集団は!”
道場の床で寝かせられている白藤に酒町が声がかけた。
「大丈夫ですか……?どうです?皆強かったでしょう?ここにいる者の多くは剣術の名家の生まれが多いです。幼少期から先生に教えを乞い、剣を磨いた者たちです。………白藤さん、そんな我ら全員が貴方たちの戦いに参戦する…と言ったらどうしますか?」
「……ッ!?本当ですか…!!」
“彼らが参戦するのならば、こちらの戦力は凄いことになるぞ……!”
必ずヒーロー組合に伝えることを約束し、S級1位ヒーロー「剣神」の復活とその弟子たちの参戦という大手柄を手にして白藤は帰っていった。
油断して帰りに出現した格下のモンスター相手に怪我したのは、彼だけの秘密だ。
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