第16話

西暦2136年 7月 東京 喫茶店アロマ


 内海くんを奈緒と一緒に虐めまくった翌日。

 俺の視線の先には、俺とお揃いのエプロンをつけて食器の片付けをしているマスクをつけた女がいた。

 

 俺が店長に、彼女がここで働きたいという旨を伝えると、俺達の雰囲気から何かを察したのか、何も言わずに許可を出してくれた。

 というのが1週間前の出来事であり、それから毎日俺と一緒に喫茶店アロマで働いている。

 奈緒ちゃん割と真面目だから、訳ありだって分かってても店長、絆されてる感凄いんよなー

 ぶっちゃけ昨日が見間違えかな?って疑うレベル………


 あ、そうそう昨日と言えば、内海くんの後始末だけど、予定通り俺の異能力で記憶を弄ってからヒーロー養成学校の校門に放置してきたよ。ちゃんと俺と奈緒の情報だけ消せているか不安ではあるけど、あの変にプライド高そうでドM気質な少年だったら、記憶ありでも喋らなさそうだ…ククッ。


 それにしても随分と俺の異能力『闇』は使いやすい。大量に『闇』を具現化させ物量で攻撃するもよし、『闇』を介して触れることで負の感情・記憶限定ではあるが精神操作するもよし。さらに最近判明したことだが、大体半径10メートル程の負の感情を感知することも出来る。それによって簡易的ではあるが、探知が可能になったのだ。自分が不意打ち“大好き……♡”だから、その脅威がよくわかる。ゆえに感知距離はまだまだ短いが、人の悪意などが分かるのは非常にありがたいのだ。

 

“カラン、カラン”


 お!ちょうど珍しくお客さんが来たみたいだ。

 さすがに俺がイカれたクズ野郎だとしても、ちゃんと接客は出来る。入ってきた若い女の子2人をほとんどガラ空きだが、空いてる席に案内してメニューを手渡す。

 ちなみに接客は俺が担当し、調理などを奈緒が担当している。俺は外面がいい上に、顔がそこまで広まってないからな。逆に奈緒は、将来有望なヒーロー候補として有名だった。マスクで顔の大部分を隠しているとはいえ、出来るだけ人の目は避けたい。そういう事情から自然とそうなった。

 まぁ、閑古鳥が鳴いてるから、バレるなんてまずないだろうけどな(笑)

 店長から睨まれたような気がしたけど、気のせいだと信じる気持ちを大事にしたい。


 それはそれとして、次にする“遊び”をどうしようか、俺は悩んでいる。奈緒と内海くんでした遊びはもう終わったし、何か良い贄はいないだろうか………と思っていたら、俺はとある事を思い出した。


“奈緒って確か兄弟いたよな?”


 うん、やっぱり俺は天才だ………ククッ、悪意の才能があり過ぎる…!


 さっそく俺は奈緒に兄弟の事を聞こうと思ったが、客に呼ばれたためあとで聞くことにする。


“ちっ!邪魔しやがって……女じゃなけれりゃ殺してるぞ?……あとで犯すか?”


 ゲスな思考をしているが表情と口調は柔らかく感じるように演技している。

 客が俺の顔でキャーキャー騒いでいるが、しょうもないことで不機嫌な俺は“あとで絶対犯す!”と決意し、接客を続けるのだった。



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東京 日本ヒーロー養成学校 東京校


 3年生の内海 蓮夜先輩が校門の前で倒れているのが発見されたらしい。それも全裸で。


 という噂が、学校中に広まっているのを俺、天坂 勇次の耳にも入っていた。誰が広めたのかは分からないが、その噂によると内海 蓮夜先輩は俺の姉、天坂 奈緒の彼氏で、姉が誘拐されたため、単独で救出に行ったが返り討ちに会い、金玉を潰されたとか。

 だが、本人は何故かその犯人のことと姉、奈緒のことの記憶が、まったくないとのことらしい。そういう異能力を使われたのだろうか?

 ちなみにその噂はその先輩の勇姿を称えるものではなく、明らかに馬鹿にするように出回っていた。それもそうだろう。警察やヒーロー組合に頼らず、単独で行ったあげく敗れ、姉や犯人に関する情報もなくトラウマを刻まれている。その上、男の象徴を潰され、全裸で放置されているのだ。

 あまりに散々な目に会っているため、俺は同情したよ……


 だが、俺は人というものをよく分かっていなかったらしい。


 偶然、廊下ですれ違った時に内海先輩がいきなり怒鳴りだした。


「おい………!同情した目で見るんじゃねぇよ…!!そんなに僕が惨めか!?クソッ……!何で……僕が…こんな目に…!」


 馬鹿にされるよりも同情されることに腹をたてている先輩に呆然としつつ、友達にキレられ喧嘩になっているのを、俺はショックで眺めていることしか出来なかった。

 俺も彼と同じように助けに行っていたら、同じような目にあっていたのだろうか?

 彼の痛々しい表情と悲痛な叫びが俺の心に刺さって仕方ない。


 そして1ヶ月も経たないうちに、内海先輩はヒーロー養成学校を退学した。

 姉はいまだに行方不明だ。俺の父、母、妹、弟も心配しているが、足取りすら掴めていない。

 

 俺はヒーローになる。これまではヒーローになる理由は、ただの憧れだった。だが、今の俺は姉を見つけ救うことと内海先輩への償いだ。


 明確な目標と理由が出来たことで、ボンヤリとしていた理想像というのが、ハッキリしたような気がする。


 俺はヒーローになれるだろうか………


 消えた姉の存在が明確な理想像を曇らせた。

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