第15話
西暦2136年 7月 東京 奥多摩
「うっ……ここは………?ハッ!?…奈緒さん!奈緒さんはどこにッ!」
目覚めてすぐに騒がしい声を出している内海くんに鬱陶しさを感じながら、彼のいる部屋の扉を開けた。
ジタバタと結ばれた紐にパニックになっている彼の思考には異能力というものは存在しないようだ。
「やぁ、内海 蓮夜くん……先程までのことは覚えているかな?」
「ッ!?お前は……!んッ!?魔力使えない!?」
俺の姿を見て咄嗟に攻撃しようとしたようだが、首輪の力の影響で魔力を操作出来ず、異能力が発動出来ないでいる。
「申し訳ないね……魔力の動きを阻害する首輪を付けさせてもらったよ。まぁ、そんなことより、君が会いたくて仕方ないだろう天坂 奈緒ちゃんに特別に会わせてあげるよ……ククッ」
「!?本当か!?」
「うん。本当だよ……ほら、出ておいで……」
俺の呼びかけに応じて、申し訳無さそうな顔をした菜緒がゆっくりと扉を開けて出てきた。
彼女の姿を見た途端、ホッとした安堵の表情を見せた内海だったが、次の俺の一言で絶望に変わる。
「んじゃ、さっき話した通りやれよ………こいつの命は俺が握ってんだからな?」
「は、はい………内海くん……ごめんなさい………」
怯えた表情で菜緒は内海に“ごめんなさい”と呟きながら、近づいていった。
その様子を見ていた内海は俺を睨みつけ、
「おい!いったい菜緒さんに何をしたんだ!?早く俺達を解放しろ…!」
「ククッ……誰見て言ってんだよ。俺は何もしてねぇよ。」
「白々しい嘘を…!菜緒さん!縄を解いてくれ!こいつを倒してヒーロー学校に戻ろう……!」
菜緒にそう呼びかける内海だったが、菜緒はそれに応えず、暗い顔で内海の股間を蹴り上げた。
「ガッヒュッ!?〜〜〜ッ!!」
「おうおう、痛そーだね〜」
「ごめんなさい………ごめんなさい………」
ごめんなさいと繰り返しながら菜緒に蹴られ続ける内海は悶絶しながらも、俺に憤怒の表情で睨んでいた。だが、俺はそこに僅かな興奮が入り混じっていることを見抜いていた。もっともそれはまだ言わないが。後のお楽しみってやつだ。そっちのほうがいい表情を見せてくれそうだ……!
俺はニヤつきが止まりそうになかったが、頑張って根性で抑えつけていた。
「菜………緒………さん…やめ……て……!」
「ごめん……ごめんね……!内海くん…!」
涙ぐみながらも蹴り続ける菜緒に、痛みに堪えられない内海は、やめて……と呼びかけている。
「クッ………ククッ……アッハッハッハハハハハハハ!!!アーッハッハッハハハハ!!もう……!堪えられん…!!アッハッハッハ!!」
ついに堪えられなくなった俺は予定よりも早く笑いだしてしまった。
「済まない、菜緒。良いところで邪魔してしまったな…!ククッ、ダメだ……笑いが止まらん!」
「フッ……フフフ…いえ、私も堪えられそうにないです…!!フフフッ馬鹿な男ですね!アッハッハッ!」
涙ぐんでいたはずの表情を一変させ、俺と同じように歪んだ顔で笑いだした。
完全に置いてけぼりを食らっている内海は、理解出来ないという表情で俺と菜緒を見ている。
そこに無情にも菜緒は、追撃とばかりに再び股間へと蹴りを食らわせた。先程までが手加減していると分かるぐらいに威力が上がっている。男として同情するよ……ププッ、ごめん、やっぱ笑うわ…!
奥多摩の廃工場には、俺と菜緒の笑い声と内海の声にはならない悲鳴だけが響いていた。
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東京 奥多摩
全身の鈍い痛みが僕の意識を徐々に覚醒させる。手と足が椅子に縛り付けられていて、状況が飲み込めない僕はパニックになっていた。奈緒さんを助けに来たはずなのに、気づいたら囚われの身になっているのだから。
ハッ!奈緒さんは!?どこにいるんだ?思考が追いついてない僕は大声で奈緒さんの名前を呼んだ。
「うっ……ここは………?ハッ!?…奈緒さん!奈緒さんはどこにッ!」
縄を振り解こうと暴れるが、部屋の扉が開き、入ってきた人物の方を見る。そこにいたのは、意識を失う前に戦い、僕が手も足も出ない強さをもつ、端正な顔の男だった。
その男は目を覚ました僕に対して、
「やぁ、内海 蓮夜くん……先程までのことは覚えているかな?」
と話しかけてきた。思わずカッとして、攻撃しようとしたが、何故か異能力を発動できない。というよりかは魔力をうまく操作できないようだ。
「申し訳ないね……魔力の動きを阻害する首輪を付けさせてもらったよ。まぁ、そんなことより、君が会いたくて仕方ないだろう天坂 奈緒ちゃんに特別に会わせてあげるよ……ククッ」
そう言った男はあくどい笑みを浮かべながら、後ろを振り返った。その視線の先には怯えた表情の奈緒さんがいた。とりあえず奈緒さんが無事でホッとした僕だが、次の一言で大きく変わる。
「んじゃ、さっき話した通りやれよ………こいつの命は俺が握ってんだからな?」
「は、はい………内海くん……ごめんなさい………」
明らかに脅されていると分かる会話に怒りを覚えつつ、奈緒さんに何をしたのかと問い詰めるが、男はまるで見世物を見ているかのような表情で、
「ククッ……誰見て言ってんだよ。俺は何もしてねぇよ。」
「白々しい嘘を…!菜緒さん!縄を解いてくれ!こいつを倒してヒーロー学校に戻ろう……!」
拉致している時点で何もしてないわけがないのに、平然と嘘をつく男に怒りを向けつつ、奈緒さんに縄を解くように呼びかけた。
だが、奈緒さんは怯えた表情のまま、“ごめんなさい……”と言いながら、足を後ろに振って反動をつけ、僕の股間目掛けて蹴り上げた。
尋常じゃない痛みに変な声が出てしまった。男がなにか言ってるが、痛みでそれどころではない。奈緒さんの謝る声が僕の正気を保たせてくれていた。
その後も何度も蹴られ続け、やめてと言っても奈緒さんは怯えた表情のまま蹴り続けた。地獄の時間はずっとニヤついた笑みを浮かべていた男が、当然大声で笑いだした時に変化した。
「クッ………ククッ……アッハッハッハハハハハハハ!!!アーッハッハッハハハハ!!もう……!堪えられん…!!アッハッハッハ!!…………済まない、菜緒。良いところで邪魔してしまったな…!ククッ、ダメだ……笑いが止まらん!」
突然のことで呆然としてしまうが、そこへさらに絶望が押し寄せる。
「フッ……フフフ…いえ、私も堪えられそうにないです…!!フフフッ馬鹿な男ですね!アッハッハッ!」
菜緒さんまで狂ったように豹変して僕を罵倒し、大声で笑い始めたのだ。そして、再び先程までとは比較にならない勢いで僕の股間を蹴った。激しい痛みが何度も襲い、何度やめてと懇願しても彼女はむしろ喜々として僕をぶった。
僕が痛みに耐えていると男の方が一旦、ストップをかけた。ようやく解放してくれるのかと思っていると、
「………なんか勘違いしてるみたいだから、訂正しておくよ……俺が菜緒を止めたのは、お前を解放するためなんかじゃない。……お前、金玉蹴られて興奮してただろ……?ククッ、アソコが膨らんでるじゃねぇか。とんだド変態だな…!」
「なっ!……違うっ!」
「違わねぇだろ……お前はずっと憤怒と痛みに対する絶望の感情を抱いていたが、そこに興奮も混じっていた。俺が気づかねぇとでも思ったか?フッ…この際だ、お前にもっと絶望を与えてやるよ…!」
そう言って男は僕に見せつけるように菜緒さんにキスをした。菜緒さんの表情は今まで見たことないほどに艶めかしく、興奮を誘うものだった。そして、綺麗だった。もっともその表情はキスをしている男に向けられたものだが。
「あ、ああぁぁ……菜緒…さん……」
服を交わり始めた2人を目の前で見ていることしか出来なかった僕は、体の一部が熱くなっていた。それを自覚した僕は、とてつもない自己嫌悪に襲われたが、2人の行為から目を離すことは出来なかった。そして、2人の行為を見ているだけでイってしまったが、菜緒さんからメチャクチャに蹴られた一物から白濁液が出ることはなかった。
僕の痴態を見た2人は、僕を馬鹿にし、より行為を激しくさせる興奮剤でしかなかったのだ。
そこからの僕は絶望で彩られたキャンパスを眺めているような記憶しか残っていない。ただただ、絶望と屈辱と憤怒に塗れていた僕の頭には、すでに菜緒さんへの恋慕の情は消え去っていた。
いったい僕はどこで選択を誤ったのだろう………
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