第14話
西暦2136年 7月 東京
僕は全力で駆け出していた。すれ違う人たちが何事?と振り返るが気にしない。通知がいくつも溜まったスマホを握りしめ、走るスピードを上げることしか頭にないからだ。
”菜緒さん……!奈緒さん……!”
夕凪くんと別れたあと、僕のスマホには奈緒さんからのメッセージが届いていた。それには椅子に縛られた奈緒さんの写真と、彼女を殺されたくなければ、1人で誰にもこの事を言わずに、指定された場所まで来いという脅迫メッセージであった。
そのメッセージを見た僕は、後先考えずに学校を飛び出していた。
指定された場所は、奥多摩にある木々に囲まれた廃工場。僕の異能力『紅蓮』を使っての高速移動で向かう。街なかでは周りの人たちに危害が及ぶ可能性があるため控えるが、森が近づいてきたら足に炎を纏い、ジェット機のように推進力へ変えている。
ようやくたどり着いた場所は、雑草が生い茂り、駐車場だったと思われる場所もひび割れが酷いことになっている。肝心の建物も、ひび割れが酷く、鉄筋がむき出しになっているところも見られる。
サビつきボロボロになっている扉を開け、薄暗くなっている内部に入る。写真の場所が合っているのか、スマホを見ながら散策していくが、奈緒さんの姿は一向に見当たらない。
中に入って1番奥にある部屋以外は探したが、どれも違った。つまり奈緒さんは1番奥の部屋で何者かに囚われいる……!焦燥に駆られながらも、慎重に扉を開けた……
”ギイィィ……!”
サビが特に酷かったこの扉は、大きな音を立てながらゆっくりと開いた。
中には誰もいない椅子とちぎれた紐が置かれていて、奈緒さんはどこにもいなかった。
「なっ……!?いない……?」
「プッ……ククッ…アハッハッハハハハ!ホント君は面白いねぇ〜…こんな見え見えの餌に引っかかるなんて。バカでしょ?」
「お前は誰だ!?奈緒さんはどこにいるんだ!?」
「ん〜、俺は………1ヶ月ぐらい前に東京都内の進学校で虐殺事件あったでしょ?それの犯人だよ。奈緒ちゃんはちゃんと近くでおねんねしているよ。ククッ、さてさて君はどうするのかな〜?」
「お前が”あの”!?」
B級ヴィランとして指名手配されている「
奈緒さんはどうやら、ここにはいないようだ。すぐに助けに行きたいところだけど、このヴィランが扉を塞ぐように立っている。彼女を助けたいのなら、”俺を倒してみろ”と言うかのように挑発的な笑みを浮かべて。
当然僕はその挑発に……乗った。
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東京 奥多摩
俺の簡単な挑発に乗った内海 蓮夜くんは、周囲に大量の火の玉を出現させて放ってきた。当然俺は『闇』を出現させ、壁のようにして防がせてもらったが。
それにしてもここまでうまくいくとはなー、俺の才能が恐いわ〜……菜緒を拉致ってから1週間、どうすればこの状況を面白く出来るか……それだけを考えていた。その答えとして、菜緒の彼氏(笑)を絶望の淵に叩き落としてやろうかな〜って言う案を採用したわけである。実戦経験も積みたいし、1対1の戦いで勝利して、とりあえず捕縛するっていうのが今回の目標だ。
放った火の玉を目眩ましに、拳に炎を纏った内海くんは俺に殴りかかってきた。だが、俺はそれを見て体を仰け反らせるようにして回避した。
「おいおい、顔を狙うんじゃねーよ……!傷がついたらどうすんだ、よ!」
拳が空を切ったタイミングを見計らって、全身のバネを利用して内海くんが狙おうとしてたであろう箇所と同じところを狙って、渾身の一撃を食らわせた。
「ガッ!?グハッ…!な、にが……?」
苦痛に顔を歪め、何が起こった分からないという表情に俺の感情は最高に昂っていた。
「ククッ、ほんと堪んねぇよな〜……一撃で仕留めてお姫様を助けに行くぞー、みたいな気持ちだったんだろ?そういうのはただのカモなんだよ。やっぱヒーロー気分の大馬鹿は暴力で黙らせてやりゃー、屈辱にまみれた表情をしてくれるから、最高だぜ……!テメェもそういう類で安心したよ……ククッ!」
そう言われて内海っちは屈辱にまみれた顔をさらに歪ませ、怒りに任せて殴りかかってきた。だが、俺にそんな攻撃が通用するはずもなく、魔力で強化しただけのパンチで殴り飛ばしていく。異能力を使わずに戦っていることに、舐められていると思ったのか、内海ちゃんはさらに単調な攻撃を繰り返す。ぶっちゃけた話、感情に任せた戦い程つまらないものはない。戦い始めて5分も経ってないのに飽きてきた俺は、さっさと終わらせることにした。
”ドゴッ…!”
鈍い音とともに内海は倒れ、俺は感情のない目でそれを眺めていた。そして、後ろを振り返り、
「もう出てきていいよ。……思ってたよりもつまらない奴だったよ。」
そこに姿を表したのは、天坂 菜緒だった。彼女は興味なさそうに内海のことを見ていた。
「お疲れ様です……それでこいつはどうします?」
「一応君の彼氏なんだけどね〜……そうだね、こいつには生き地獄を体験してもらおうと思うんだ。」
「もう…!そんな酷いこと言わないでくださいよ!……それで生き地獄、ですか?」
「うん。具体的には、菜緒に玉を潰してもらって、こいつの目の前で俺らの行為を見せつけようかなって。それからは俺の異能力で僕と奈緒の記憶だけ消して社会復帰してもらおうと思う。」
「ほへ〜、特定の記憶だけ消せるんですか?」
「最近ヒーローとハンター狩りをダンジョンに行ってしただろう?その時に実験して判明したことなんだ。異能力で大事なのは、解釈と意志…!自身の異能力をどう捉えるか、どう想像するかが効力に関わってくるんだよ。それじゃ、さっさと椅子に縛り付けてお楽しみの時間にしようか……!」
そう言って俺たちは内海を椅子に縛り付け、ダンジョンで発見した魔力の動きを阻害する首輪をつけた。
すっかり従順になっている菜緒は、俺との共同作業に嬉しそうな表情で取り組んでいた。
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