第13話

西暦2136年 7月 東京 日本ヒーロー養成学校 東京校


「やっほ~菜緒ちゃん…!おひさ~」


 私が寮の自室で課題を解いていると、そんな馴れ馴れしい声が聞こえてきた。

 その声に私は聞き覚えがあった。3月頃に参加した合コンをきっかけに、セフレとなったあの男の声そっくりである。


 パッと声がした窓のほうを振り返るとそこには、1ヶ月とちょっと前にセフレであったことを“誰にも話すな”とだけ言って消えた“あの男”八代 真司がいた。


「なっ!?貴方……!生きていたの!?」


「まぁね……それより声のボリューム下げよ?うっかりあの写真ばら撒いちゃうかもだから。」


 私のその言葉を聞いた瞬間に、セフレになるきっかけなった“初めて”の行為を思い出した。一瞬で真っ赤になった私の顔をなでるように、スッと距離を詰めた八代は、私の耳元で


「ふふ、あの頃とは随分違うじゃないか……もっと恥ずかしいことしてたのに、その程度で赤面しちゃうのかい?そうゆうところも可愛いところなんだけど……」


と囁いてきた。きっかけはこの男の命令だが彼氏がいる私は、八代の筋肉でゴツゴツとした体を突き飛ばすことで拒否した。

 

「ふふっ、ホントに可愛いなぁ〜心の奥底では俺が来て嬉しいのに、彼氏の存在がそれを覆い隠してる。その証拠に………ほら、もう濡れてる……!」


 そう言って真司は、私のスカートを捲り、秘部へ手を当ててきた。

 私は即座に否定しようとしたが、キスで口を塞がれてしまった。彼の情熱的で舌を絡ませてくるキスに蕩けそうになった私は、何故かボッーしてきて、彼の歪んでいるのに惹きつけられる魅力的な笑みを最後に意識を失った。



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東京 喫茶店アロマ


 いや、菜緒ちゃんチョロすぎじゃね?こんなあっさり隙を見せるとか思ってなかったんだけど??おかげでメチャクチャ簡単に拉致れちゃった。現在は、喫茶アロマの俺の自室にあるベッドで横になっている。拉致る時に俺の『闇』で思考能力を奪ったのだが、思っていたよりも遥かに効果が長い……効き目にはそいつの精神状態とかも関係してるのかな………?他にも色々条件だったりがありそうだ。ん〜、今度面白い玩具ヒーロー・ハンターを手に入れれたら、実験してみよ〜

 

 さてさて、彼氏くんはいつ頃気づくかな?完全に不法侵入だけど、頑張って隠密行動したから、まだ気づかないかな〜?夜になっても気づかなかったら流石に奈緒が可哀想だけど、俺的には面白いから有りなんだよね〜

 菜緒とヤる時にそれで煽ったら、面白い表情が見れそうだし、鈍感系男子って俺嫌いだから、気分もスッてするし……有りよりの有りだな…!


「んん〜……あれ?真司は…?」


 何故かセフレ時代でも呼ばれてない名前で呼んでいるが、目が覚めた奈緒は周りをキョロキョロと窺っている。


「思っていたよりも目が遅かったじゃないか………それといつから俺の名前を呼ぶようになったんだ?セフレの時は八代さんってしか呼ばれたことない気がするんだが?」


 俺の姿を見た瞬間に、パッと表情を明るくしたが、すぐに親の仇状態のように睨めつけてきた。もっともその睨みも俺の名前呼びを指摘したら、”あっ”という小さな呟きと共に霧散してしまったが。


「………貴方が……貴方が悪いんですよ……?貴方の命令で作った彼氏で”普通”を感じていないと、気が狂いそうになって………貴方がいないと生きていけないように躾けられたから……!真司さん……どうして貴方は……!こんなにも酷い人なのに、どうしてこんなに魅力的なの…?」


 そう言って顔をぐちゃぐちゃにした菜緒は”あの頃”のように服を脱ぎ、物欲しそうに抱きついてきた。

 正直言うとまさかセフレ時代の調教の影響がここまで残っているとは思っていなかった。いや、そういえば、拉致る時もやけにこいつ大人しかったよな?キスした時も顔蕩けさせてたし。

 …………待てよ?俺、大事なことを忘れていたかもしれない………


 ……卵買いに行くの忘れてた!?店の卵切れてるからって店長に頼まれてたの拉致るのに夢中ですっかり頭の中から抜けてたぜ…!

 となれば、だ………う〜む、奈緒はとりあえず放置でいいとして、スーパーにダッシュで行くか……ダッシュでな。


 ちなみに八代に放置されていた天坂 菜緒は、八代のベッドで1人匂いを嗅ぎながら、慰めていたらしい……



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東京 ヒーロー養成学校 東京校


「奈緒さん……どこに行ったんだろう…?」


 僕の彼女である天坂 菜緒が今日の昼頃から姿見えないということで、学校中が騒ぎになっている。

 僕も菜緒さんが行方不明と聞いてもの凄く心配している。奈緒さんであれば、大抵の不審者であれば撃退できる。外出しているにしても学校の外に出るには許可証がいるし、とっくに日が落ち満月が真上に昇っているのに帰ってこないのはおかしい。

 凄く嫌な予感がするのは気のせいだろうか………どうしようもない不安に駆られた僕は親友の夕凪くんに相談してみることにした。

 早く見つかって欲しいと願う僕の足取りはとてつもなく重かった。



1週間後〜


 奈緒さんがいなくなってから、1週間が経った。この1週間、警察やヒーロー組合が協力して行方を追っているが、足取りはまったくという程掴めていない。僕や夕凪くん、奈緒さんの親友、高槻 美穂さんも捜査に協力しているけど、なんの情報も得られない日々が続いていた。

 本当にどこに行ったのだろう…?警察やヒーロー組合は奈緒さんの知り合いの可能性が高いと言っていた。その理由としては、奈緒さんの戦闘能力の高さが挙げられる。奈緒さんはまだ学生だが、すでにB級ヒーロークラスの実力がある。その奈緒さんを誰にも気づかれず、拉致する事が出来るのは相当に実力が高い人物か警戒心をとける知人しかいない。だが、僕の知っている交友関係はすでに警察とヒーロー組合が調査しているとのことだ。

 そして、もう1つ考えられる可能性として、奈緒さんが何らかの理由で自ら失踪したということだが、それは限りなく低い。まず、失踪する理由がないということが根拠として挙げられている。奈緒さんは公私ともに充実しているし、普段の様子から見ても、失踪する理由が思い当たらない。次に、奈緒さんが非常に真面目な人物であることだ。失踪した日も奈緒さんは寮の自室で勉強していたと推測されているし、外出の延長線で失踪するにしても、許可証の申請をしていない上に門限を過ぎても帰ってこないというのは、奈緒さんらしくない。


「おい………!おい……!おい!大丈夫か?ボーっとして。天坂さんが行方不明で心配なのはわかるけど、飯と睡眠くらいはしっかり取れよ?」


「あ、あぁ。ごめん……うん。ちょっと考え込んでただけだよ。」


 どうやら、最近ご飯が喉を通らず、奈緒さんが心配で寝付けないことが、親友の夕凪くんにはバレていたようだ。まぁ、こないだよりもやつれてきているし、目の隈も酷くなっているから仕方がない。どうしても不安で寝付けないため、奈緒さんの足取りをネットを利用して追うことが出来ないか試しているのだ。もっともこの1週間の情報は皆無であったが。



 この時の僕は気づかなかったが、僕のスマホに通知が来ていた。その相手は………

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