第10話

西暦2136年 7月 東京 浅草空想遺跡


 俺、清田 勝はここ浅草ダンジョンに来たことを酷く後悔していた。まさか、ハンター見習いになってすぐこんな悪魔みたいな奴と出くわすなんて………


 その日、俺はハンター養成学校の課題で近くにある浅草ダンジョンでモンスターを狩っていた。ダンジョンに潜る資格も兼ねている通行手形を入手したばかりの見習いとはいえ、浅層のモンスターに遅れを取ることはないため、余裕をもって臨めていたのだが、突然背後から黒い何かが襲ってきた。

 急な攻撃に驚いた俺だったが、咄嗟に体を捩って躱して、かすりはしたものの問題はないと判断して黒い何かへ構え直そうとした。が、何故か頭がふらついてきた。思考が鈍り、ボーッとしてしまう。

 気がついた時には地面に組み伏せられ、口をタオルか何かで塞がれ、手と足を紐で縛られているところだった。


「うぅ〜!!うー!!」


「あら、思っていたよりも早かったな〜てかうるさっ!ちょっと黙ってろ…!」


”ガンッ!”


 俺を組み伏せているのは、俺と同じくらいの年齢の男で、何人もの女をたらし込んでいそうな端正な顔に、少々汚れが目立つが手入れされていたと分かる漆黒の髪、そして真っ先に目に着く血だらけの服。さすがに、見習いの俺でも分かる。服に付いている血がこいつの血ではなく、全部返り血であると。パニックになった俺が、逃げようと抵抗するが再び黒い何かで殴られ、俺の意識は遠のいていくのだった。



 目を覚ますとそこはドス黒い染みが目立つ、仄暗い洞穴であった。いつの間にか俺の服は脱がされていて、俺を襲ってきた奴が座っている所の隣に置かれていた。当然のように口は塞がれているし、手足は紐で結ばれたままだ。


「やぁ、遅いお目覚めだね……えーっと”清田きよた まさる”くんであってるかな?悪いけど、君の服と存在借りるね。まー、そんな訳だから、君は僕が愉しむだけ愉しんでから殺すよ、ごめんね〜」


 そう言って奴は、俺にナイフを刺したり、殴る蹴る、爪を剥がしたりなど、あらゆる拷問を繰り返してきた。俺が痛みにうめき声を上げる度にこの悪魔は、凶悪な笑みを浮かべていた。

 

 俺が悪魔に捕まってから、どれほど経っただろうか……俺が持ってきていた保存食を”ありがたく食えよ〜”なんて言って食わせてくるのにムカつくが、こいつが寝ずに拷問しやがるせいで、逃げることも抵抗することも叶わない。一度、異能力を使って紐を切って逃げようとしたが、すぐに黒い何かに殴られて、ボーッとしてしまい捕まった。おそらくこいつの異能力なのだろうが、今の俺ではどうすることも出来ない。出血もひどいし、食事も睡眠をろくに取れていないせいで、魔力も回復できていない。

 あぁ、また、痛めつけるのか………果てしない恐怖と絶望に俺は諦めることしか出来ない。おそらくこの洞穴で同じように痛めつけられた人たちのようにドス黒い染みになるのだろうな……はぁ、せめて童貞を卒業してから死にたかったな……最後に考えることがこんなことでいいのかと自嘲しながら、悪魔にナイフを刺されている光景を眺めながら、次第に薄れていく意識に”さよなら”を告げるのだった。



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西暦2136年 7月 東京 日本ヒーロー養成学校東京校


 僕、内海 蓮夜は幸せの絶頂にいる………

 4月に菜緒さんと付き合ってから度々デートに行ったり、名前で呼び合ったり、菜緒さんがまだ恥ずかしいからと公然とイチャつくことが出来ないのが少し残念だけど、この初々しい交際に嬉しさを感じている。

 個人的には勉強会デートと童貞の僕には刺激が強かった鍛錬デートが印象に残っている。勉強会デートの時は普段付けていないメガネでグッと大人っぽさが増していてドキドキが止まらなかったし、鍛錬デートの時は汗で服が透けていたり、髪を纏めていたからか艶かしさがあったり、うなじが僕の欲情を爆発させそうになったりと心臓に悪い1日だった。

 そんな僕らの交際はつい昨日、キスをしたところまで進んでいた。僕らの関係を知っている僕の親友 夕凪 颯に今まさにそのことを惚気けているのだが、


「へぇー、でその先は?ヤッたの?」


「ま、まだ……さすがに、恥ずかしすぎるよ……」


「まだなのかよ……てか彼女居て童貞の方が恥ずかしいだろ。」


「うっ……」


と、ジト目で辛辣な言葉を頂いた。


「あとなー、天坂さん狙いの男子相変わらず多いからな。気をつけとけよー」


「うん……分かってるよ。ほんとに奈緒さんの人気すごいからね……」


 そう本当に奈緒さんの男子人気はすごい。いまだに告白されまくりだし、授業中も視線を鬱陶しいレベルで集めている。でも、奈緒さんの気持ちが僕に向いているという事実が優越感を高めている。お互いに好きって言い合うのもめちゃくちゃドキドキしていいんだよな〜つい、デレデレしちゃって”かわいい”とからかわれるまでがセットだ。


 

 ただ、僕はこの時もっと奈緒さんの周りを警戒しておけばよかったと後々後悔する。時々感じていた違和感をもっと追求しておけばよかったと。もし、僕が何か違う行動を取っていればこんなにも苦しむことはなかったのだろうか?

 それは分からないが、確実に言えることはこの幸せの絶頂にいた時には、あの悪魔みたいな奴の悪意に蝕まれていたということだ………



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