第9話

西暦2133年 9月29日 東京


 千葉にて山内らが加山の生存に驚愕している時、東京ではいまだに灰崎と茈が戦闘を継続していた。灰崎と茈はS級27位ヒーロー「白の騎士ホワイト・ナイツ」とS級21位ヒーロー「阿弥陀」の2人と戦っていた。

 もともと2つの戦場は非常に近かったのだが、灰崎が途中から「白の騎士」を茈のところへと誘導したことで、2対2の戦いへと移行したのだ。

 「白の騎士」と「阿弥陀」、灰崎と茈、それぞれの共闘はお互いのポテンシャルを引き上げ、結果として尋常ではないほど長引くこととなった。

 もっともその戦いも灰崎と茈に、波賀が敗れたことと亜麻界らが撤退したという報が伝わり、幕を閉じるのであったが。

 ちなみに2人は山内に存在を忘れられているという悲しすぎる理由で東京に残っていた。のちに合流した際、2人が唖然としたことは言うまでもないだろう。


 

 この2人の撤退により、覇道会による東京、埼玉、横浜の同時襲撃事件は終わりを告げた。のちに「剣神」と亜麻界、日本でも最強の武力を持った2人が戦ったことにより”頂上決戦”と呼ばれるこの戦いで、S級ヒーロー7名、A級ヒーロー29名、B級ヒーロー41名、C級ヒーロー214名、D級ヒーロー521名死傷、また、一般市民8,000人以上が犠牲になるなど、大きな爪痕を残した。

 また、この戦いでS級ヒーローを討ち取った、近江 紅、近江 蒼、狂剣、エレス・ドウラー、暴竜、灰崎が新たにS級ヴィランに認定され、覇道会の脅威は増したと言っていいだろう。

 しかし、実は覇道会側にも大きな被害を被っていた。特に長年幹部として活躍していた波賀の抜けた穴は大きかった。それに加え、亜麻界の重傷。その影響により3ヶ月後、幹部が1人ヒーロー組合に討ち取られ、2人が覇道会を去ることとなった。

 のちにこの事を知った世間は、この”頂上決戦”はヒーロー組合と覇道会の痛み分けと見る者が多い。もっとも当事者たちは違うだろうが………


 そして、この戦いは様々な人物に影響を与えた。とある少年がヒーローを志したように……

 ある者はヒーローを辞める決断したように……

 ある者は逆にヴィランに憧れたり……


 だが、この事件の裏で起きた“事故”に注目している者は……誰もいなかった。



“続いてのニュースです。9月29日、午後4時頃、東京都内にて40代の男女2名、10代の女の子1名が死亡し、10代の男の子1名が重傷を負う事故が発生しました。現場検証の結果、車のエンジンが故障したことによる事故と見られています。………”


 廃墟となったはずのマンションの1室で1人寂しく響くアナウンサーの声がどこか不気味だった。


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西暦2136年 4月 東京 日本ヒーロー養成学校 東京校


「す、好きです!!……僕と付き合ってください!!」


 人生初の告白。僕、内海うつみ 蓮夜れんやは日本ヒーロー養成学校 東京校に進学してから2年間ずっと憧れ続けてきた、天坂あまさか 菜緒なおに思いの丈はをぶつけた。

 1秒の時間が引き伸ばされ、緊張で心臓が痛い。おまけに相手が”あの”天坂 菜緒というのも緊張の原因かも知れない。

 凶悪なヴィランや凶暴なモンスター相手に戦うプロヒーローを育成するために西暦2069年……つまり67年前に設立された日本ヒーロー養成学校 東京校にて3年A組 天坂 菜緒は有名人だった。

 人形と見紛うほどに整った顔、艷やかでさらさらな黒髪、モデルのようにスラリとした体型。まさしく物語からそのまま出てきたと言われえてもおかしくない美しさをもった少女だ。それでいて学年トップクラスの実力を持つ完璧美少女。入学当初から全男子の注目を一身に集めるのは当然とも言える。

 もちろん学校中の男子が彼女に告白したが、見事に玉砕している。そして、僕も彼らと同じ墓標を刻むのかと戦々恐々しているが、この2年間、僕は彼女を追い続け、勉強、訓練、見た目などなど努力で変えられる事は何でも取り組んだ。ぶっちゃけ顔は普通だけど、おかげで成績は学年一桁だし、校内で生徒同士の実力を競う“ヒーロー祭”では見事7位入賞を果たすことが出来た。ちなみに天坂さんは成績学年2位、去年の“ヒーロー祭”では3位という結果を残していた。さすがの成績、しゅごい………

 そして、僕は天坂さんの隣に並ぶためにコミュ力を磨き、友達ポジを獲得して交友を深めてきた。

 その成果として………


「ありがとうございます、内海さん。ぜひともお付き合いしましょう。」


「や、やったーッ!!嬉しすぎる……!」


 晴れて天坂さんと付き合うことが出来たのだった。



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西暦2136年 7月 東京 浅草空想遺跡


 ダンジョンを出ると決意してから3日、俺、八代 真司は成りすますための生贄を探し回っていた。

 というのも、そもそも俺はこの浅草ダンジョンに異能力を利用して強引に侵入している状態だ。その上、俺が起こした東京都立春心高等学校2年Aクラス虐殺事件で“八代 真司”は死んでいるか、犯人として追われているかの2択しかない。つまり、俺はダンジョンの外に出ても、常に警戒して生活しなければならないということなのだ。

 それはあまりにも面倒くさすぎるから、都合の良い他人に成りすまして、俺のセフレ、“天坂 菜緒”に会いに行こうというわけである。

 

 さて、俺が探している成りすまし候補としては、背恰好が俺に似てる奴、同年代のヒーローかハンター、友達いなさそうな陰気な奴を兼ね備えた男なのだが、中々いない。おかげで俺の憂さ晴らしに何人のヒーローとハンターが犠牲になったことか………

 でもなーんかヒーローとハンターの数が減ってきてるんだよな〜さすがに殺しすぎたかな?ま、俺が愉しければそれで良いんだけどね〜

 

 そんなこんなで浅草ダンジョン内を歩き回り続けて4日。ついに見るからに陰キャボッチで身長170後半はありそうな顔以外は俺に似てそうな男を見つけた。もう、嬉しすぎて拷問しちゃったよ……♡いや~人を虐めるって愉しいねぇ~小中高って外面良いの利用して陰でイジメまくってたけど、その比にならない愉しさだよ。他人の不幸は蜜の味っていうけど、1番の蜜の味は自分で他人を不幸に陥れることなんだよな〜……最高……!


 俺はその陰キャボッチくん、清田きよた まさるくんの服やら何やらを奪って拷問やら何やらで喋り方とかを学ばさせてもらいましたよ。これは俺の持論だけど、大抵の人は拷問すれば、どういう人か分かるんだよ……うんうん、勝くんも同意してくれてるよ。………え?馴れ馴れしいな、テメェ!って?……そんな事言うなよ〜拷問したり、されたりする仲じゃないか〜あっ、ごめーん手が滑ったー。もー変なこと言うから太腿にナイフ刺しちゃったじゃん!


 勝くんと拷問仲良くして遊んでいたら、ナイフ刺しすぎちゃって勝くん死んじゃったんだよね〜悲しい……ぴえん🥺

 でも切り替え大事って言うから、君から学んだこと活かして頑張るよ……!

 

 こうして俺は、清田 勝に変装してダンジョンの外へと向かうのであった。

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