第6話
西暦2133年 9月29日 東京 日本ヒーロー組合東京支部跡地
周囲ではヒーローと覇道会所属のヴィランが戦っているはずなのに、そこは2人の空間であった。
「剣神」と「亜麻界 聡」
日本における最強のヒーローと最凶のヴィラン、刃を交えず1時間以上相対しているにも関わらず、2人の放つ圧に周囲は誰も手を出せないでいた。
その均衡を破ったのは………
亜麻界であった。
「やはり、異常だな。『剣神』よ……もはや人という領域を超越している………!その鬼の仮面の下を見てみたいものだ、ククッ…!」
「……………。」
「揺らがんか……悪いがこれ以上の様子見は俺の
鬼の仮面で隠された「剣神」の表情は分からないが、笑みを浮かべる亜麻界の問は沈黙で返された。
長い沈黙を破り、光よりも速いスピードで飛びかかった亜麻界だったが、「剣神」はそれよりも上であった。
”ヒュッ………!”
袴の裾を靡かせて、放たれた「剣神」の一撃は寸前でかわされたが、確かに亜麻界の頬に傷をつけた。
異常な強さを誇る2人の激突は常人の目では到底追えるものではなく、ちょっとした接触だけでも衝撃波が発生する、まともにぶつかれば衝撃で地震が起こる、そんな戦いが始まった。
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同刻 東京
亜麻界と「剣神」のぶつかり合いによる地鳴りを感じながら茈 獬はS級21位ヒーロー「阿弥陀」と戦っていた。
”
”
”ドッガアアァァアアンン!!!”
「はぁ………はぁ………!ほんとにしぶといのぅ!
「チィ……!テメェの方がしぶといっての…!だったら何だ……?テメェの相手してんのは作戦だからだよ!文句あっか?ジジイ……!」
「フンッ…!ヒーロー組合も年寄りに無理させおって……」
”正直、この茈とかいう小僧の相手は荷が重すぎるぞ……!デタラメにもほどってもんがあるじゃろうが!”
茈の異能力『神獣』
自身の知る神獣の力を借りる、自身に神獣を降ろす、といったことが出来る異能力だ。例えば、先程茈が放った”借力【不死鳥】”であれば、神獣【不死鳥】の力を借り、太陽を凝縮したような炎玉を放つ事が出来る。
そして、もし茈が【不死鳥】の力を借りるのではなく自身に降ろしていたら、彼は一時的に【不死鳥】に成れる。当然魔力の消費は激しい上に肉体への負荷も大きいが、【不死鳥】の最も有名な特性、転生あるいは不死が可能になる。当然ながら、【不死鳥】を降ろしている間の限定的なものだが、もし致命傷を負ったとしても【不死鳥】を降ろしてしまえば即時に回復してしまう。
まさしくデタラメ。若くして覇道会幹部になった男の力は伊達ではない。
だが、その茈の高火力攻撃を相殺し、戦い続けている「阿弥陀」というヒーローもまた尋常ではない。
「阿弥陀」の異能力はそのまま「阿弥陀如来」である。
高火力の光線を放つ”浄土”、巨大な手を出現させて押しつぶす”印相”などなど強力な異能力であるが、茈の攻撃に対して相殺として繰り出すことしか出来ていない。全ては茈が即死級の攻撃を連発し、まともに受ければ良くて重傷、避けても街が破壊されるという縛りプレイを強要しているからだ。
“街ごと、この小僧を攻撃できたらなー”
と「阿弥陀」は思ったが、邪な考えを心の奥にしまい茈の攻撃の相殺に神経を割くのだった。
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同刻 横浜
「おいおい……!元気いっぱいだね〜おっぱいでかいねーちゃん!おっさん死んじゃうよ?」
「うるせー!!死ね!!」
覇道会によるヒーロー組合横浜支部襲撃により派遣されたS級8位ヒーロー「破壊の天使」は、
覇道会により一般市民が虐殺されていたこともそうだが、初対面でいきなり胸を揉まれたことに、とてつもなく苛立っていた。
”こいつ…!なんなの?!いきなり背後に現れたと思ったら胸揉んでくるし!私の背後を取れる実力を持っていながら私を殺そうという素振りを見せずに、執拗に胸と尻を狙ってくるし!もう!!”
セクハラばっかりしている山内は「破壊の天使」の怒りをヘラヘラ笑って受け流しながら、隙を突こうと襲いかかってきたヒーローを虫を払うかのように殺していた。手を降っただけで血の雨を降らす山内に恐怖することなく、殴りかかる「破壊の天使」であったが
”転移”
山内の異能力『空間』により、容易に避けられてしまった。
「そんな恐い顔するなよ〜ねーちゃん!……どうせ俺には勝てないんだし……!」
「クッ!………何が目的なの?私だけ生かして……!」
「……ん〜、そうだね〜君……胸でかいし、可愛いじゃん?だから、僕の女にしよっかなーって思って!」
「は?……コロスゾ?」
「うひゃ〜、こっわ…!ま、無理矢理連れ帰って調教すればいっか……というわけだから、覚悟はオッケー?」
「コロス……!!」
終始軽いノリでいる山内が喋るたびに怒りが増幅していく「破壊の天使」はついに”コロス”しか言わなくなったが、拳に込められた魔力は先程までとは比較にならず、S級トップクラスの実力が垣間みえた。
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「あら~、フフフッ……相変わらずセクハラばっかりしているわね………
腰のあたりまで伸ばした美しい銀髪、爛々と輝く紅い瞳、人外じみた美貌に加え、凶器になってしまいそうなほど豊満な胸、情欲を掻き立てる四肢と、美を象徴するような女がそこにいた。彼女はつい先程まで戦っていたヒーローを四つん這いにさせ、椅子にして聖母のような優しい眼差しで山内と「破壊の天使」の戦いを見ている。
「ふふっ、暁ちゃんとー……天使…?ちゃんかしら、どっちが勝つかしら〜……貴方はどっちが勝つと思う?」
椅子に問いかけた彼女は妖しげに笑っていたが、目の奥はほの暗く恐ろしく冷たい。
「んー!んーー!!」
真っ赤な糸で目と唇を縫われた椅子が彼女の問にうめき声で答えているが、彼女の目は椅子ではなく山内の戦いだけを捉えていた。
「ふふっ、何を言っているかわからないわ〜……って私が口を封じたんだったわ…!ごめんなさいね〜…そういえば、貴方って一応S級ヒーローなのよね?それが無様に這いつくばって……恥ずかしくないのかしら?ふふっ、
彼女に煽られるだけ煽られた、四つん這いになっているS級ヒーローは怒りを表に出すことはなく、彼女に罵られる度に体を震わせ顔をふやけさせた。
「相変わらず調教が上手ですね………『女帝』エレス・ドウラー……!」
「そうですね兄様……でも悪趣味ですよ、兄様。」
「あら……お二人共、もう終わったのですか?お二人共私と同じS級を担当する予定でしたよね?」
М豚と成り果てているS級ヒーローを罵倒しているエレス・ドウラーの背後から2人の男女が現れた。兄である「
「うん……こいつら弱かった…ねぇ兄様、ほんとにS級?」
「うん、一応確認したから合ってるはずだよ?こんなに弱いと思わなかったけど……」
「そう………私の担当はこいつですけどS級とは思えないほど弱かったわ。………でも暁ちゃんが戦っている娘はまだマシそうね……」
「?暁ちゃ……ん……?あぁ、山内さんか……確かに、あの……天使?の人はそこそこ強そうだね……紅はああいう気の強そうな人は相性悪いから気をつけてね。」
「はい……兄様、気をつけます……でも、私のほうが強いです………ところで山内さんは何故あの天使?の人を殺さないのです?」
24という年齢にしては幼い少女の見た目をしている近江 紅の問に、エレスはにっこりと微笑みながら答えた。
「ふふっ、それはね……暁ちゃんがメス奴隷にするからよ。見て?……あの女を屈伏させようっていう強い目を。……ああいう目で私も睨まれてみたいわ〜」
「ふ~ん………」
興味なさげに返事を近江 紅は手に持っていた生首を投げ捨て、エレス・ドウラーと近江 蒼と共に山内の戦いを見守り始めた。
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