第4話

西暦2133年 9月29日 東京 日本ヒーロー組合東京本部跡地


 「画伯」と「風龍」の闘いが始まった頃、「灰崎」はとあるヒーローと激闘を繰り広げていた。


「ハハッ!いいねぇ〜!……うん、お前そこそこ強いじゃん!」


「チッ……!どこがいいんだか……あんたの方こそなかなかやるじゃん。あんたの攻撃、そこそこ効くよ……!」


 灰崎と対峙しているのは、S級17位ヒーロー「ホワイト騎士ナイツ」、純白の甲冑に身を包んだ『快癒』という異能力を操る女性のヒーローであった。

 どんなに攻撃を浴びせてもすぐに回復してしまう彼女に笑みを深める灰崎は、見た目や言動とは異なり冷静な思考をしていた。


”ふぅ〜思っていたよりも厄介だな〜とはいえ、勝てない相手ではない……!それと……他の戦局は早見さんがS級27位『風龍』、亜麻界さんはS級1位『剣神』、茈くんは……S級21位の『阿弥陀』かな?まぁ茈くんなら問題ないでしょ……引き連れてきた200の兵隊さんたちはA級の相手と増援の足止め……作戦通りですね~フフッ……さて、山内さんと波賀さんのほうはうまく行ってますかね〜?”


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西暦2133年 9月28日 横浜


 すっかり日も呉れ、本来見えるはずの星々は街の光で隠れてしまっている。雲一つない月明かりの下に、覇道会幹部の山内 暁基率いるヒーロー組合神奈川支部襲撃グループ約200名が集結していた。


「山内さん……そろそろ時間です。」


 簡易的なテーブルに置かれている、血のように赤く煌めくワインが注がれたグラスを眺めながら、関東圏の地図を顔に被せて熟睡していた34歳、山内 暁基に配下の男が声をかけた。


「………!まじ?もうちょい寝ちゃだめ?」


「ダメです。会長に殺されますよ?」


「あ~亜麻界さん、そこら辺厳しいくせに俺達に対する期待値高えからなー……はぁ〜、だりぃけどいっちょぶちかますか……!」


「!わかりました。」


 椅子に座っていた山内は立ち上がり、掛けていた上着を着て天幕の中から出た。


「ちなみに全員準備完了してます。あとは山内さん待ちです。」


「え?………まじ………?」


「……はい。」


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同時刻 埼玉


 作戦開始の時間になってものんびりしているおっさん、山内 暁基と異なり、準備が整い次第、作戦開始時刻を待たずにヒーロー組合埼玉支部へ襲撃を始めた「波賀はが 秀三しゅうぞう」であったが、埼玉支部に偶然居合わせたS級2位ヒーロー「超人」相手に劣勢を強いられていた。


「グッ!?ガハッ!!はぁ……はぁ……クソッ!この私が手も足も出ないとはな……!だが、お前にはまだこの地に残ってもらうぞ……!」


「フンッ!そうか……しかし、お主は弱いな……この儂の贄にもならん……!悪いがさっさと片付けて他のヒーローたちの手助けをさせてもらうぞ……?」


 覇道会幹部にしてS級ヴィランの波賀 秀三は『悪魔︰公爵』という異能力の持ち主である。『悪魔︰公爵』は”天使・悪魔シリーズ”と呼称される異能力の中でも最上位の力を誇り、強大な身体能力の向上に加え、悪魔シリーズの最大の特徴、魔術の使用が可能になり、奥の手とも言える【悪魔化】、そして彼の場合は【瞬間移動バティン】というその身に宿すを扱える。

 だが、それでもなお、「超人」は遥か高みにいた。どれだけ殴りかかろうと強烈なカウンターをくらい、魔術による攻撃も全て受け流されていた。彼のみが扱える【瞬間移動バティン】を用いても、タイミング、位置、全てを見抜かれ攻撃を合わせられる。常人よりも遥かに高いはずの身体能力も「超人」は波賀を上回っていた。 


”理不尽”


 波賀が「超人」に対して感じていたことは”理不尽”、それのみであった。


「セイッ!!……オイ…!本気で挑んでおるのか……?これならば、去年儂が討ち取った『加山かやま 裕刃ゆうじん』のほうが強かったぞ?」


「なっ!?貴様が!?………ハハッ、もはや笑いしかでてこん……師弟揃って貴様に負けるとはな……この”理不尽”め……!!」


「ほう……?通りで……闘い方が似ておるわけだ。どれ?お主の弟子に会わせてやろう……!」


「抜かせっ……!!」


 再び構え直して激突する2つの星の輝きはもう少し長く続きそうだ。


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西暦2136年 6月 東京 浅草空想遺跡 浅層


「いやぁ〜失敗したなー……ま、この失敗を次に活かせばいっか〜」


 いまだにかすかに聞こえる怒声をBGMに浅草ダンジョンの浅層を歩いている俺こと、八代 真司は『闇』の異能力を利用してダンジョンに侵入しようとしていた時のことを思い出していた。

 そう、警備員の思考を奪ったところまでは良かったのだ……だが、その後がダメだった。


「ん〜やっぱノリと勢いで物事進めちゃ失敗するねー……でも、思考奪うところは良かったんだけどな〜、まさか『闇』の効力が持続し過ぎるとは思わなかった。反省、反省。」


 結果として警備員に何かしたことがバレ、騒ぎを起こしてしまった。ヒーローとハンターたちが犯人を探していることだろう。とはいえ、今後の動きが大きく変わることはないため、俺は大して動揺してない。


“さーて、これから楽しい、愉しいヒーロー狩りだ……!!”


 そうして俺はダンジョンの暗がりへと消えていくのだった。

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