第3話

西暦2133年9月29日 東京


「ふむ、ヒーロー組合本部が跡形もないな……!」


「得体のしれない男ですけど、流石っすね。」


「フンッ……灰崎の素性を以前調べたことがあるが、不自然なレベルで何もわからなかった。早見、むらさき、奴の行動を見張っておけ。いつ裏切るか分からん。」


「!……了解だ。儂の”虫”に見張らせておこう。」


「分かりました。俺も灰崎さんの行動には注意しておきます。」


 辺り一帯平らになったヒーロー組合本部で生き残りがいないか確認している灰崎と配下たちを眺めながら、亜麻界あまかい早見はやみむらさきの3人が会話していた。常に飄々としており、どこか得体の知れない不気味さを感じる灰崎は彼らにとって疑念の対象であり、その上S級クラスの力を持っているため覇道会にとって危険因子でもあった。 

 

「まぁ、儂に任せておけば、あやつの監視なぞ容易い。お主らはヒーロー……S級の奴らとの戦闘に集中しておれ。ホッホ」

 

 そう言って早見は手に持っていたスケッチブックにペンで絵を描き始めた。


 ”顕現けんげん眼蟲がんちゅう】”


 早見がそう唱えるとスケッチブックに描かれたハエのような虫が動き出し、スケッチブックからきた。


『実体化』


 それが早見 空の異能力である。自身が生み出した作品を魔力によって実体化させ操る。実体化させたモノの能力は、元になったモノと作品のクオリティーに依存する。そしてこの異能力の真価は、元になるモノは自身の頭の中で完璧に描ききっていればであっても実体化可能という点だ。

 ただし注意が必要なのは、実体化するには輪郭が繋がっていなければならないことと実体化すると全て作品と同じサイズで顕現するということである。例えば、山が描かれている風景画を『実体化』させようとしても輪郭が繋がっていないため顕現しない。仮にイメージも完璧で、輪郭を強引に作っても実体化されるサイズは描かれているサイズそのままである。スケッチブックに描いたのなら、スケッチブックより大きくなることはなく、精々ちょっと大きめの岩が現れるようなことしか起こせない。

 だが、彼が強力な光線を放つモンスターを描いたとしよう。それが手のひらサイズであったとしても、彼がそのような意思を込めて描いたのであれば、そのモンスターは強力な光線を放つことが出来るのだ。

 つまり彼は芸術に出来るモノと発想、魔力さえあれば、無限の武器を手にすることが出来るというイカれた力を持っている……!


////////////////////


「はぁ〜、俺ってそんなに信用無いかな〜」


「どうかしましたか?灰崎さん。」


「いや、なんでもないよ。それより生き残り、いた?」


「ニィ……いましたよ。本部にいたヒーロー、S級4人、A級15人を確認済みです。その中にあの『剣神』もいるようです。すでに構成員が8人殺られてます。」


「へぇ〜フフッ、いいねぇ〜………亜麻界さーん、あの『剣神』がいるらしいっすよ〜!」


 そう言って灰崎は後ろ振り向き、誰もいない宙に向かって亜麻界を呼んだ。


「むっ!流石にバレるか……」


「ハハッ、そりゃあね。早見さんでしょ?あの”虫”も。」


「フンッ、それで?『剣神』はどこだ?」


「まぁまぁ、焦りなさんな、亜麻界さん。どうやらあちらさんから、来てくれたみたいだし。」


 何も無い空間から現れた亜麻界らと合流した灰崎の視線の先には、日本S級1位ヒーロー「剣神」を始めとする灰崎の超広範囲攻撃の一撃を防ぎ生き残ったトップヒーローたちの姿があった。


「貴様らか?……ここらを更地にして大量虐殺をしやがったクソどもは……」


「フンッ、貴様なんぞに用はない。『剣神』はどいつだ?」


「なんだと……?この俺をA級11位ヒーロー『パーマ番長』と知っての言動か?あん?」


 パーマのかかっている髪を櫛で整えながら、前に出て亜麻界に挑発したヒーローだったが、次の瞬間には……


”ゴスッ!”


「ゴハッ……!?何……が?」


「あらら〜心臓抜かれちゃったね〜てか茈くん、今の見えた?」


「いや、何も見えなかったっす……!それより……ここからは作戦通り、バラけて戦いますよ。どうせ亜麻界さんを止められるのは『剣神』のみ。俺達は他のS級の相手をする……そして奴らをボコして波賀さんと山内さんのグループと合流!いいっすね……?」


”ガキイッッツ!!!”


 茈が今後の計画について確認をしていたが、灰崎は話の途中でヒーローに向かって攻撃を開始してしまった。


「この……!?マイペース野郎め……!はぁ………」


「ホッホ、若くして苦労が絶えんの、茈。」


 人の話を聞かない灰崎のマイペースさに振り回される茈を慰める早見だが、明らかに場違いのスケッチブックを持っているからか、1人のヒーローが突撃してきた。


”ガギッッン!!”


「ホッホ!儂の相手は貴様か……?!」


「なっ!?防がれた!?しかもその剣……どこから出てきやがった?」


 S級27位ヒーロー「風龍」は、戦闘能力がなさそうな壮年の男の首を刎ねるつもりで飛びかかったが、あっさりと防がれてしまったことに動揺が隠せないでいた。


”こいつ……何者だ?ヴィランの情報は確認しているがこんな奴見たことないぞ……”


「ふむ……何を動揺しておる。そんなに初撃を防がれたことがショックか?儂は近接戦闘が得意な方ではないが、あれぐらいだったら簡単に捌けるぞ?」


「お前……何者だ?並のヴィランじゃねえだろ?今の攻撃防げるやつはA級ヴィランにいねぇ……覇道会の幹部か?」


「んん〜?儂は幹部ではないが、そうだの〜周りからはこう呼ばれている……『画伯』、人呼んで『画伯』の早見 空だ。お主は名乗らんのか?」


「……そうか。俺はS級27位ヒーローの『風龍』だ。しっかり覚えておけ!テメェを殺す者の名だからな!!」


 こうして「画伯」と「風龍」の闘いが始まった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る