第2話

西暦2136年 6月 東京


 早朝からコーヒーを飲み、優雅に新聞を読んでいた今日、俺は昼過ぎから行動を起こし、クラスメイトを虐殺した時から考えていた逃げ場所に向かっていた。

 

 東京 浅草あさくさ空想遺跡ダンジョン入口前〜


 「ここだな……さて、昨日感じた違和感が俺の予想通りなら、うまく切り抜けられるんだが………」


 俺が逃げ場所に選んだ浅草ダンジョンの前には、通行手形を所持しているか確認している警備員の姿があった。 

 正規の方法でダンジョンに入るためには国から発行される通行手形を所持していなければならない。これは主に、戦闘訓練を受けていない一般人がダンジョンに入るのを防ぐためだ。当然ながら、強引に入ることは可能だが、ダンジョンを利用しているヒーローだったり、ダンジョンのみに活動を絞っている”ハンター”らに取り押さえられるのは目に見えている。

 それに、ここで騒動になるのは避けたい。今の俺はまだ特定されていないとはいえ、”ヴィラン”なのだから。


”では、どうするのか?”


 その答えが、昨日クラスメイトたちを虐殺した時に感じた”違和感”だ。俺は昨日異能力を発現させて大暴れしたわけだが、最初にしたことは闇を具現化させ、ぶん回すことだった。至近距離だった者はそれだけで挽き肉になったが、当然当たっていない者、掠っただけの者もいた。そこで俺は生きている奴らの喉に狙いを定めて、貫くように『闇』を操った。最初のぶん回しである程度の感覚は掴んでいたため、うまくいったが、微妙にズレていた奴もいた。


”声を上げられる!?”


と内心焦ったが何故か、目が虚ろになり、放心状態になっていた。すぐに全員殺したが、おそらく具現化した『闇』による攻撃を受けると耐性の無い者では、強力な思考能力低下に陥るのだろう。

 つまり、浅草ダンジョンに侵入するためには『闇』で一時的に警備員の思考能力を奪い、通行手形を確認してもらっているふりをすればいいだけだ。懸念事項がいくつかあるが、まぁ問題ないだろう………


////////////////////

西暦2133年 9月29日 日本ヒーロー組合 東京本部


「いよいよだな……お前ら、準備はいいか?」


「もちろんですよ、亜麻界さん。」


「無論だ……!」


「山内さんと波賀さんのグループの陽動はうまくいってますかね〜?」        


「急に話変わりますね……空気読みましょ?灰崎さん………」


 

 ”覇道会”


 それが彼らの属している、の名だ。彼らにとって宿敵であるはずのヒーロー組合。その東京本部の付近に集まり、物々しい雰囲気を漂わせていた。その数およそ200人。その中でも、群を抜いた力を持つ者が4人。

 覇道会会長にして約60年程前からS級ヴィランとして名を馳せている怪物「かい さとし」、ここにいる中では21歳とかなり若いが『神獣』という強力な異能力を操る「むらさき かい」、何故かスケッチブックを持っている壮年の男「早見はやみ そら」、ヘラヘラとした見た目で呼びかけに答えず空気を読まない「灰崎はいざき」。

 彼らはヒーロー組合本部に襲撃をかけ、叩き潰すために集まっていた。また、陽動作戦のために別働隊として、埼玉に「波賀はが 秀三しゅうぞう」率いる約100名、横浜に「山内やまうち 暁基しょうき」率いる約200名、総勢500名の覇道会所属ヴィランによる大攻勢である。


「フッ、時間だ。動くぞ。それと灰崎、奴らに失敗はねぇ。この覇道会のだぞ?」


「へいへい。怖いねぇ〜」


 ギロリと睨みつける亜麻界の視線を軽口を叩きながら流す灰崎は、どこからか漂い始めた薄暗い雲に手を向け、


「んじゃ、一番槍は俺がもらおっかねぇ〜」


振り下ろした。


凝固ぎょうこ灰滅かいめつ】”



同時刻 日本ヒーロー組合東京本部 ヴィラン対策室〜


「ふむ、埼玉と横浜で覇道会による同時襲撃か………」


「えぇ。埼玉では幹部のS級ヴィラン波賀秀三、横浜では同じく幹部のS級ヴィラン山内暁基が確認されています。対策として、埼玉にS級2位ヒーロー『超人』、横浜にS級8位ヒーロー『破壊の天使』を派遣しています。」

 

「なるほど……それならば安心だな。S級の中でもトップクラスの戦力だ。極道共の反乱もすぐに鎮圧してくるだろう。」


「ですね……しかし、急に曇りだしましたね。」

 

「本当だな。ん?雲が……降ってきてる……?」


”ガッシャッッツツンン!!!!!”


「な、なにごッ!?!?」


 空から降ってきた雲により、日本ヒーロー組合東京本部の周辺一帯は押しつぶされ、あちこちにトマトを潰したような赤黒い染みが広がっていた。

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