礼蘭の夏ライブに向けて
季節は夏来たる頃、雨が多くなってくる時期だ。さっちゃんと
礼蘭は、バイト終わりに、
「八月の中頃に、割とデカい
突然
「やる!」
暖手
客の入場にはチケット制を取り入れ、アーティスト側にはオーディションを設け、さらにチケットノルマを
ちなみに、普段は、時間の
「なんか、ザ・ライブハウスって感じだね!」
キラキラ目を光らす礼蘭に、暖手は言った。
「で、だから、ライブに出たきゃ、礼蘭もオーディション受けろってこと」
「了解、わかったよ!」
礼蘭はソッコーで返事をした。
「で、オーディションて何やんの? 生演奏?」
「デモ音源審査と、生ライブ審査」
「おおっ! で……デモ音源って何?」
「……仮の音源だよ。送られてきた音源を聴いて審査するのがデモ音源審査」
「なるほど」
「まあ、
礼蘭は、夏のライブに出るために、オーディションに
「ねえ、れいらん」
お風呂上がりに、髪をドライヤーで
「ん、どうしたの?」
「オーディションって、自信あんの?」
「んー、まあ、いつも通りに楽しむだけだよ」
そんなことが気軽に言えて、実際にそれができてしまうから、礼蘭はすごい。さっちゃんの場合は、いくら頭に思い浮かべて、実行しようと思っても、いざその場に立つと全然何もできなくなるものだ。
「れいらんすごいなー」
翌日の登校時、のん子と
「それ、ミーもやりたいなー!」
と、のん子が前のめりになって言った。
「え、のん子も!?」
のん子は、普段はVTuberとして、ライブ配信や動画投稿をして人気を集めている。
「ミーだって、歌ってみた動画出して、評価高いんだからなー」
それは知ってる。礼蘭ものん子の歌ってみた動画は全て
「レイラとミーでユニット組んで、一緒に歌おうなー!」
「いいね! 歌おう!」
こうして、礼蘭とのん子のユニットが結成された。
「あと、一人くらい楽器メンバーが欲しいのなー」
「楽器って、ギターとか?」
「伴奏弾いてくれりゃあばなんでもいーけど、希望はギター」
そこへ花日先輩が、口を切った。
「それなら、いい子がいるわよ。スゴ腕のギタリストが」
学校に着くと、花日先輩は、礼蘭たちを三年生の教室に連れた。
花日先輩は教室を覗くと、とある生徒の名前を呼んだ。
「オルカ、いる?」
すると、一人の生徒が花日先輩の所にやってきた。
「オハヨウ、花日。どうしたの?」
彼か彼女か、どちらとも呼べる、中性的な
天然由来であろうストロベリーブロンドカラーの、前髪ぱっつんアシメボブのヘアスタイルに、シルバーアイがクールにキマっている。
「おはよう、オルカ。君に頼みたいことがあるんだ」
「何?」
フレンドリーに会話する二人に対し、花日先輩の後ろの後輩三人は、ぼんやりした顔で突っ立っていた。
三人を代表して、礼蘭が花日先輩に尋ねた。
「あの、先輩。こちらの方は?」
花日先輩が答える前に、オルカと呼ばれた生徒が名乗った。
「ボクの名前は、
ボクが好きなのは、ロック。ジブンでギターも弾くよ」
オルカは、一気に自己紹介をした。“ロック” と “ギター” の言葉に、礼蘭は、反応した。
「あっ、ギター!」
それに続けて、花日先輩が説明した。
「そう彼が、オレの言っていたスゴ腕のギタリストよ。去年の文化祭でも、スゴかったし」
「ちょうどいーのなー」とのん子は、手を合わせて喜んだ。
花日先輩は、
「オルカ、彼女たちは一年ののん子、礼蘭、さっちゃん」
「よろしく、オルカくん!」
「ヨロシク」
「それで、礼蘭とのん子が夏に音楽ライブに出る予定だから……」
「ライブ!? イイよ! やろう、ライブ!」
オルカは “ライブ” の単語にソッコーで食いつき、依頼を
「早い……」周囲の皆がそう思った。
「じゃあ、さっそくボクのウデマエ見せてあげるよ。ギター持ってきてるからさ」
トントン話が進んでいく。
「オルカは、話が早くて助かるよ」と花日先輩は、笑った。
「ここでいっかな?」
そこは、生徒たちの憩いのスペース。今も、たくさんの生徒で
オルカは、部屋の壁際に
「じゃーん! このコが、マイギターのオルキヌスだよ。カッコイイでしょ?」
オルキヌスの名前が付けられたオルカのギターは、同様に黒と白が
「おー、カッコいい!」礼蘭がギターを称賛する。
そして、オルカは、その場にいる生徒たちに呼びかけた。
「Hey, guys! 今からちょおっとだけライブやるから、耳だけでも向けてて!」
オルカの声に、皆が興味深そうに視線を
ギターの準備が
「そんじゃあ、いくよ!」
オルカは、呼吸を
英語の歌も歌った。ギターも歌唱もすごく上手い。プロと言っても
一曲の一部分だけ歌い上げたところで、演奏を止めた。
拍手と歓声が巻き起こった。
「すごいなー!」
「超上手い!」
のん子と礼蘭も例外ではない。さっちゃんも感動していた。
「すごい」
オルカは、礼蘭とのん子に向けて言った。
「ボクは、小学生の頃から学校にも行かず、ずっとギター
そう言うオルカに、礼蘭とのん子は震え上がり、頭を
『そ、そのようなお方についてもらえるなんて、光栄なかぎりです!!』
二人は口を揃えて叫んだ。
「息ピッタリね」
花日先輩は、呆れて言った。
(なんか、すごうことなったなぁ)
とさっちゃんは思った。
当のオルカは、困っていた。
「えっ、ちょっと、ちょっと! 顔上げて!」
こうして、オルカが仲間に加わった。
さっそくお昼にオルカを誘い、計五人で昼食を食べる。
「じゃじゃん! ラーメン!」
オルカは、自分の昼食を皆に見せびらかした。
『お〜』「ラーメンだ」「自販機にあるやつ?」
礼蘭とのん子がそれを見て、感嘆の声を上げた。
「そうそう!」とオルカは喜んだ。
「オルカは、ラーメン好きよねぇ」と花日先輩が言う。
「ンフフ〜。ラーメンが手軽に買えちゃうなんて、ニホンゴッドだ〜」
『だよねぇ』
礼蘭とのん子は、うんうんと同調する。
さっちゃんは、お弁当を食べつつ、時折観察するように、オルカをじっと見た。そして、目を伏せた。
昼食を食べ終えると、礼蘭は、ライブ喫茶「ダンデ・ライオン」の公式ホームページを確認した。
「あ、出来てる。さすがお兄ちゃん」
兄をベタ褒めする礼蘭に、オルカが驚いて尋ねた。
「レイラって、お兄ちゃんラブなの?」
礼蘭は、「しまった……」と言うような顔をして、ためらいつつ返事をした。
「そうだよ。悪い?」
「ううん。素敵なことだよ。でもボクは、一つ上に兄と、三つ下に弟がいるんだけど、大切じゃないわけじゃないけど、そこまでラブでもないから、びっくりした」
「ミーもそんなだなー」とのん子もなだらかに同調した。
礼蘭は一つため息をついて、再度、ホームページを確認した。他の皆にも見せた。
ライブの情報と、それに向けたオーディションの情報を確認し、ユニット活動を開始して行く。
礼蘭がパンと手を合わせて、口を開く。
「ユニット名、決めようか」
のん子は言った。
「レイラが決めれば?」
「ええっ!」
ソッコーで来たこの返しに、礼蘭は驚いた。
「いいの?」
オルカは言った。
「言い出しっぺは、レイラだろう? アンタがキメてよ」
急に言われても困る。ユニット名……どうしよう。
「なんでもいい?」礼蘭は二人に尋ねる。
「まー、名前なんて何だって良くなるもんなー」とのん子。
「それはあるな。どんな名前にしたって、活動続けて行くうちに愛着が湧いてくるだろうね」とオルカ。
(まるで、ハナから私のネーミングセンスなんて期待してないみたいだ)
礼蘭は、
さて、何にしよう。とりあえず周囲を見渡した。
さっちゃん。……幸、幸せ、幸福。あとは、和、梅、野草、可愛い。
「なん、れいらん」
「考えてんの」
「さち見たって、なんもないでしょ」
「そんなことはないよ」
まあ、何も降りてこない
花日先輩。……
でも、先輩のイメージを、先輩のいないユニット名に使うのもな。さっちゃんにも言えることだけど。
そんで、のん子は……
オルカくんは……白と黒、パンダ……いやシャチだ。あとはギターと、ゴールドの髪とシルバーの瞳がきれいだ。
しかし、ユニット名にふさわしい単語は降りて来ず、困って今度は、下を見ると、あるのは、空の弁当箱。
あ!
「『ランチボックス』は?」
弁当箱を英語にした、単純明快なネーミングだ。
しばらく間が空き、変な空気が
「ホントにいいの!?」
礼蘭は叫んだ。そう思わざるを得ない。
「いいじゃん! カワイイじゃん!」とオルカ。
「そういう安直な名前が親しみやすかったりするんだなー」とのん子。
(
故をもって、礼蘭とのん子とオルカの三人のユニット名は、「ランチボックス」に決まった。
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