契約交渉
翌日。
トップスには、ブラウス、
アウターには、チョコレートカラーのテーラードジャケット。
ボトムスには、学校の制服に使われるような、チェック柄の茶色いプリーツスカート、ロング
髪はブラシでといて、ハーフアップにする。
これで、だいたいOK。
コーデをキメた私に、お兄ちゃんは「気合入ってるね」と言った。当たり前だ。第一印象は大事だ。
お兄ちゃんに用意してもらったお弁当を持って、いざ、さっちゃんのお宅へ!
ピンポーン。
ドアが開いて、出てきたのは、大人の女性。さっちゃんのお母さんだ。
「はじめまして。
私は
お母さんは、ずいぶんと若い人だった。私のパパの二回りも年下だろう。しかし、顔はやつれて、さっちゃんに似て
「
「お
中に入り、
「あー、れいらちゃーん!」
「れいらーん!」
梅巴ちゃんとさっちゃんがよってきた。……どうしよう。お母さんがいる以上、いつもの「ヤッホー!」なテンションでいくわけにはいかない。
「わー、お弁当だ〜」
困っていると、梅巴ちゃんが
「どうしたん、れいらん。今日、すっごうお
さっちゃんには言おう。
「今日は、お母さんと大事なお話をするんだからね。いつもの感じでいくわけにはいかないんだよ」
「別にいいのに。ねっ、お母ちゃん!」
お母さんは、
「入って、入って」
さっちゃんに引っ張られ、私は家の奥に入って行く。
「……失礼します」
ジャパニーズマナーの流れがぶち
「お弁当、いつもありがとうね。本当に助かります」
お母さんの口調もほぐれていた。
「いえ、うちはかなり恵まれた環境にいますから、何か
「それで、昨日、
「あ……メイドの話ですよね。
愛子さんは、苦笑いをして言った。
「メイドなんて、今の時代にはなかなか聞かないもの」
そう、メイド(使用人)を
私の考えは、
「
そう思ってしまうのも無理はない。愛子さんが、そうやって何度も
「幸巴をあなたに
「ご安心ください。それが普通の親の気持ちだと思います。不安は、生物が
私は、カバンから、一冊の
「では、
昨日作成した、さっちゃんのメイドの仕事の、仕事内容、
ちなみに、さっちゃんと梅巴ちゃんは、別の部屋で遊んでいた。
「こんなに
「人の未来を大きく変えるもので、お金も
「……どうして、そこまでして
「さっちゃんの夢を
「夢?」
お母さんには言ってないのか。さっちゃんが、誰にも言わず
私は一瞬、口をためらったけれど、話すことにした。さっちゃんと出会ったあの日、さっちゃんが、神様に
「私がさっちゃんと出会ったのは、山の中にある神社で、さっちゃんは『お金持ちになりたい』と祈っていました。私は、ご
「私は、さっちゃんに、幸せになってもらいたいと思います。そして、もっとずっとそばにいて、もっと身近な存在でいたいとも思います」
それはつまり、一言でいうと “さっちゃんが好き” ということなんだろう。
「私は、さっちゃんが好きなんです」
「だから、さっちゃんには幸せでいてほしい。さっちゃんの、元気に笑う顔が見たい」
「それは、さっちゃん本人はもちろん、さっちゃんが大切に想う、
「私も?」
私の言葉に、
「さっちゃんから聞きました。ここずっと、仕事ばかりして、全然家に帰ってこないと。働きすぎは、
愛子さんは、首を大きく横に振った。
「ダメです。私は……大きな
「だめっ!」
そうさけんで、飛び出してきたのは、梅巴ちゃんだった。さっちゃんも、そのあとを追う。
梅巴ちゃんは、愛子さんの
「おかあちゃん、しんじゃいや! もっと、うめはとあそんでよ!」
梅巴ちゃんのけなげな
「お母ちゃん、罪とか迷惑とか、どうでもええから、もっと休んで! さちたちともっとずっと、一緒にいて!」
「梅巴……幸巴……」
二人とも、お母さんが大好きなんだなぁ。いいなぁ……。
「愛子さん、大好きな母親を
そう、ママへの恋しい気持ちは、いまだに消えない。さっちゃんたちには、こんな思いはして欲しくない。
「二人のためにも、どうか生きていてください。
愛子さんは、ボロボロ
「……ありがとう」
素敵な家族愛だ。私は、こんな素敵な家族から娘を取ってしまうのは、
「すみません。やっぱり、この話は……」
「れいらん」
「……さっちゃん。……やっぱりやめといた方が」
「ううん、やりたい。れいらんのメイドさん」
「……でも、住み込みだし、一日中家を
「そんでも、好きな時に帰れんでしょ?」
「そうだけど……」
「さちは、お母ちゃんも梅巴も大事やけど、やりたいことを
さっちゃんの問いかけに、愛子さんは涙を
「いいよ。いっぱい、
「ありがと!」
お母さんの
「では、こちらの
説明の資料と共に作った、
愛子さんは、契約書にサインをした。
これで、
「やったー! 契約成立!」
さっちゃんは
「
まるでこれから、
「じゃあ、さっちゃん、さっそく
「うん。
「OK。あともう一つ、来週の休みに、神社に
「いいね!」
「いくー!」
こうして、私の用事は
「お
さっちゃん
「どうしたの?」
「忘れ物」
なんだろう。
「ちょいと
「ありがと、れいらん」
口を
私はしばらく
その後、電車にゆられながら、
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