礼蘭のモデル仕事

 さっちゃんとのん子が、のん子ん家で遊んでいる一方で、私、礼蘭れいらは、花日はなひ先輩の趣味特技である、写真撮影のモデルを務めた。


 花日先輩が主に|撮るのはファッション、中でも華やかなコーデを私に着せて、撮影する。フォトグラファー花日先輩の前では、私はただの動くマネキンだ。用意されたものをいやおうも言わずに着て、指示通りのポーズをして、カメラで撮られる。ただそれだけだ。嫌だという気持ちも不満もないので、モデルの仕事は積極的に引き受けている。

 着るコーデは、ドレスが多く、胴体どうたい露出ろしゅつすることは、ほぼほぼない。大胆だいたんにえっちい衣装を着せられることはないから、そこは安心して欲しい。

 今回の衣装は、ターコイズブルーのマーメイドドレス。ネックラインが、胸元をおおわりに肩まわりを大きくカットされた、アメリカン・アームホールで、首から足までターコイズブルー一直線の、キラキラと輝く美しいドレスだ。マーメイドのヒレの部分には、貝殻かいがらや星、安価で手に入れたガラスのパールなどを散らして、ファンシーな仕上がりに。

 また、私の長い長い髪については、波のようにクネクネさせて、ヘッドドレスで飾り、ほのかにラメを散らした。

 どちらかと言えば、アートに飾られた衣装をパシャリと撮る感じだ。

 撮影には、私と先輩だけでなく、ファッション関連の職につくことを夢見る先輩のご友人方数人にも手伝ってもらっている。これは、先輩の美しさと人柄の良さの賜物たまものである。

 大きな鏡の前に立った時、私は思わず息を呑んだ。まぎれもなく、そこには人魚がいた。

「素敵〜!!!!」

 その数秒後には、モーレツに感激した。

 撮影場所は、海。車の免許を持つお仲間に運んでもらい、海を目にした時には、その青さに、私はまた感激した。空は晴れて、撮影日和ひよりだ。美しいドレスに美しい海。

「海だあ!!!!」

 目の前に広がる何もかもが最高だった。最高に最高を無限大にかけた、とにかく私のテンションはアゲアゲのアゲだった。

 私は、歓声を上げつつ、ビーチをたっくさん駆け回った。まるで、ミュージカルのステージの上のように。ミュージカルのヒロインやバレリーナになったつもりで、観客の少ない、鳥の子色のステージの上を舞っていた。

 最っ高のあまり、私は叫んだ。

「最高にハイってやつだぁ!!!!」

 転ばないでねー、との声が掛かったが、幸い、ヒレ部分のフリルは、踏んで転んでしまうほど、長さもひらひらさもない。スカートはふわっふわと広がるだけだ。

 しばらくはしゃいだのち、撮影に入った。めちゃくちゃ動き回ったので、息が荒い。

 花日先輩は、ポーズの指示を出したのち、改めてカメラを向けた。はしゃいでいる時にも、撮られていた。

 複数のポーズでパシャパシャ撮られ、撮影が終わった。ドレスを脱ぐのは、めちゃくちゃ名残なごりしくて、ごねた。



 休日が明けて学校に登校すると、のん子とさっちゃんがやけに仲良くなっていた。さっちゃんが、のん子と話していて、笑っていた。楽しそうに。

「先週のギスギスが嘘みたいだよ。何かあったの?」

 私が言うと、二人はラブラブカップルのように身を寄せ合って言った。

「まあ、いろいろとな〜」

「うん、いろいろ遊んだー」

 二人はかわいかった。よほど楽しかったんだろうな。何して遊んだんだろうか。ゲームだけじゃなく、さっちゃんのことだからレトロなものを使って遊んだりもしただろう。花札とか。私も、さっちゃん宅に行った時によくやっていた。さっちゃんの発想力はすごい。

「まあ、二人が仲良くなってよかったよ」

 

 そう口にすると、過去の記憶が脳裏のうりぎった。


『さっちゃん、私はずっと、さっちゃんの味方でいるから! 何があっても、絶対に!!』


『それ、さちじゃだめかな』


『さちなら、時間いっぱいあんし、ちょうどさちも、れいらんとずっと一緒にいたいと思うてたし』


 本当に、よかった。

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