凸凹の二人
知らんかった。れいらんに、友達がいたなんて。お兄ちゃんや、れいらんの歌の師匠とは違う、
それから、ずっと気まずうて、放課後になったら二人と話しとうないと、
それでも、れいらんと話すことになったんやけど。
れいらんは、さちとは違って、多くのことを受け入れて、どれもを楽しむことができる。 そんなれいらんだから、さちには言わないけれど、友達もたくさんいるんだろうな、とは思っていた。
そんなれいらんに、——こんな気持ちを許してしまっては、
れいらんと一緒に我が家へ帰宅した。さっそく取ってきた野草の下処理をし、これから食べる分を一合弱の米と一緒に
おかゆをよそった二つの器をちゃぶ台に置いて、向かい合った二人で「いたあきます」をして、おかゆを
二人
「ほっとするね」
「ねー」
今のこの空間、すっごく心地いい。
「ねえ、聞いてよ、さっちゃーん」
れいらんは、台の上にだらーんとなって、お話をした」
「ん?」
「私、また身長伸びたの」
「えっ、ウソ!?」
「信じられない話でしょ? 私だって信じたくないよ。お兄ちゃんに
「お兄ちゃんだって、高身長でスタイルいいのに、妹の私がそれに追いつくなんて……!!
弟がお姉ちゃんの身長抜くってのは、よくある話っつうか、それがほとんどだろうけど、妹がお兄ちゃんの身長に追いつくなんて、あり得ない話だよ!!」
別に、そんなことも無いだろうけど。
「モデルさんなうたら、ええよ思うよ」
「それお兄ちゃんにも言われたよ」
ウソ。
「高身長の私に対して飛ばされる
れいらんは、台をドンドン叩きながら、
「でっかい女は可愛くないよ!! それどころか
それは、さちにとっては好都合。モテたところで、いいことなんてないし、モテる女に寄り付く男なんて、クズばかりだ。それに、れいらんは可愛い。
「別に、彼氏なんて、いなうていいでしょ」
「……いやあね、いつまでもお兄ちゃんに甘えてるわけにも行かないし。いつ、お兄ちゃんに彼女ができて、結婚するかなんて、時間の問題だし。……私だって自立していかなきゃいけない。でも、ひとりぼっちは寂しいし、いつでも私のそばにいてくれて、ずっと私を大事にしてくれる人が欲しいんだ」
それ —— ……。
「……れいらんは、友達たくさんおんでしょ?」
「
「じゃあさ、……それ、さちじゃだめかな」
「えっ」
「さちなら、時間いっぱいあんし、ちょうどさちも、れいらんとずっと一緒にいたいと思ってたし」
……言ってしまうた。なんでか、ばつが悪い。
「今も、すんごく心地いいから」
「さっちゃん、それって……」
「そのまんまよ」
「……」
それってつまり、「好き」ってこと? さっちゃんは私に、愛の告白をしたってこと?
ドキドキが一気にこみ上げてきた。
私は、テーブルを周って、さっちゃんに飛びつき、ぎゅーーーーっと抱きしめた。
「さっちゃーーーーん!!!!」
「わあっ」
その後、私とさっちゃんは、ライブ喫茶に向かった。高校生になった新年度から、バイトとして
役割は、ウエイトレス。アンティークなお店の雰囲気に合わせて、
一方、さっちゃんは、えんじ色の、クラシカルな和風メイドのワンピースを着ている。ただし、フリルカチューシャとシューズは、私とおそろだ。
お兄ちゃんは、さらなる話題に
可愛い衣装に身を包み、ウキウキした気持ちでお仕事に取り組める。さらには、自分の存在を受け入れてくれる人がたくさんいるこの場所は、最高だ。
「いらっしゃいませ! ライブ喫茶『ダンデ・ライオン』にようこそ! 自由なお席にお座りください」
「ご注文をお伺いします!」
「失礼いたします! お待たせしました、カレーライスと、唐揚げと、ノンアルビールでございまーす。どうぞ、お楽しみください!」
私は、人と関わるのは好きだ。SNSもゲームもゴリゴリにやっていた時代には、オンライン上で、たくさんの人と交流していた。動画サイトの動画や、人気スターの投稿にも積極的にコメントを残していったし、ゲームでは、みんなでワイワイプレイしていたし。
リアルでも、一部の
久しぶりに、私の
「いらっしゃいませー!」
すごい。店中にれいらんの声が
ただ淡々と、仕事をこなしていく。
れいらんからは、「笑顔が大事」とよく言われているが、笑顔のなりかたが分からない。笑えることがないのに笑えない。さちはれいらんとは違って、いつでもどんよりしているから、笑顔になんてなれない。
「もうムリぃ〜」
「お疲れ、さっちゃん」
「さちは、れいらんみたいになれない」
「まあ、あいつは、昔っからあんな感じだったかんな。もとからそういう性質なんだろうよ」
「生きる
さちとれいらんは、全く違う生命体だ。
「らしくいればいいよ」
——らしく……。
「さっちゃん、大丈夫?」
れいらんの声が降りかかってきた。カウンターの上から、れいらんの顔が
「さちにはムリぃ。れいらんみたいになれな〜い」
すると、さちの頭に手が置かれた。れいらんが、さちのそばにしゃがんで、さちの頭をなでた。
「大丈夫だよ。さっちゃん、かわいいもん」
れいらんの手は大きい。さちの頭をおおっちゃうくらいに。
「お二人さん、空いたテーブルの片付けしてくれない?」
『あ、はい!』
二人は、さっさとお仕事に戻った。
毎日ではないけれど、何日に一回、ライブのはじめにれいらんが歌う。
「ライブ喫茶『ダンデ・ライオン』のライブにお
曲はなんと、私初めてのオリジナル楽曲『レインボーランド』です! どうぞ!」
そういえば、言っていた。高校生デビューの記念として、
その歌は、れいらんらしい明るく元気な様子で、でもたまに暗くせつなかったりして、そこもまた、れいらんだなと思った。
——やっぱり、れいらんは歌が上手だ。そして何よりも、すっごく楽しそうに歌って踊って、見ているさちまで楽しくなってくる。
さちはあんなふうにはできない。まぶしすぎるくらいの笑顔を見せて、何の恥ずかしげもなく、たくさんの人前で思いっきり歌ったり踊ったりするなんて。やっぱり、さちとれいらんは、生きてる世界が違うんだ。
「ありがとうございましたー! このあとのアーティストさんの演奏も、ぜひ聞いてくださると嬉しいです。では、また!」
「……れいらん、すごぅなぁ」
昨日のライブ、大盛り上がりだったなぁ〜。客席に戻ったあとも、いっぱいもてはやされて、私の
「どうしたの、レイラ、朝っぱらからヤラシい顔して。なー」
今朝は、のん子と一緒に通学。さっちゃんは、先に行ってしまったようだ。
「昨日は、いいことづくめだったからさ」
「アンタの人生、楽しそうだなー」
「のん子だって、毎日、好きなことばっかで楽しそうだよねー」
「んー! 最低限の生活と、オサレと勉強以外は、全部配信やゲームに
のん子の趣味は、動画配信のゲームだ。小さい頃から、ゲームにのめり込み、私ともよく一緒にやっていた。今では、Vtuber としてゲーム実況や生配信なんかをやっているとか。
さてさて、学校に
私は、荷物を片付けると、すぐにさっちゃんを探しに行った。
図書館に行くと……いた。
「おーはー、さっちゃん」
「……」
返事をしてくれない。本に夢中になっているからか。何を読んでいるのだろうと、横から表紙を
すると、『徒然草』の表紙が見えなくなり、代わりにさっちゃんの背中が見えるようになった。
——これ、私もしかして……。
いやいや、そんなことはない! 昨日は、愛の告白までされたのに。私は周って、さっちゃんの正面にしゃがんだ。すると、さっちゃんはまた、体の向きを変えて、私に背中を向けた。
——やっぱり、私、
私の後をついてきていた、のん子が言った。
「レイラ、本読む
「あ、そっか」
そういうことなのか……? 単に、本に集中したかったから? でも、さっちゃんに背中を向けられた時、胸の内に黒いモヤが現れた。嫌な感じがしたのだ。「さちにかまうな、あっちいけ」とでも言われたような気がして。
昨日は「一緒にいたい」って、言ってくれたのに。
授業の
「さっちゃん!」
さっちゃんは、一瞬、私を見る。が、すぐに気まずそうにそっぽを向いた。
「どうして、そっぽを向くの?」
尋ねると、さっちゃんは少し間を開けたのち、携帯を取り出し、ぽちぽち打っていく。
私のREINに、さっちゃんからメッセージが送信された。
『学校では、さちに
『どうして?』
『一人でいたいから』
『どうして、一人でいたいの?』
『楽だから』
『私といるのは、楽じゃないの?』
『うん、落ち着かない』
『だから、一人にさせて』
『そういうわけには行かないよ』
『何で?』
『お金もちになりたいんでしょ』
『そうだけど』
『だったら、人との関わりを大事にしなきゃ』
『さちには無理だよ』
『無理じゃない!!』
『無理だよ』
『さちは一人でお金持ちになる』
『それこそ、無謀な話だね』
『絶対に無理ってわけじゃないけど、やっぱり人との繋がりは大事だよ。大人数いる必要はないけど、指で数えれるくらいには味方はいた方がいい』
『無理。人って信じらんない』
『私のことは信じて! 絶対にさっちゃんを裏切ったりしないから!』
……。
『どうだろう』
「大丈夫だよ。私はいつだって、さっちゃんの味方だから」
私はそう言って、さっちゃんに身を寄せた。でも、まだまだ、さっちゃんとの
何とかして、さっちゃんとの距離を
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