高校デビュー

 来たる春。私とさっちゃんは、高校デビューを果たした。私たちが通う玉繁たましげ高校は、私立の通信制高校で、完全に生徒が主体となって学校を運営していくという、世にもめずらしい高校だ。

 校風も自由度が高く、髪型は自由で、めるのもOK。制服は一応あるけど、着ても着なくてもOK。服装は、動きやすくて、安全性をたもてるものであれば、なんでも自由である。

 まあ、もちろん、自由は責任をともなうなんてのは常套句じょうとうくだ。

 私は、そんな自由度MAX級の高校に通うにあたり、自分のルックスを大きく変えた。

 第一に、髪を染めた。バナナの皮の色のような、黄色い髪。また、髪もぐーんと長く伸ばして、ハイポニーにしておしり辺り、髪を下ろすとひざ辺りだ。私もあこがれた、かのスーパーヒロインなみの爆発ロング。もっと伸ばして、足首までを目指すつもりだ。そんなハイパーロングの色は、頭を黄色にグラデをかけてだんだんさをして行き、最終的には赤みのあるオレンジ色に。全体的には、情熱的な色味になった。

 服装も、学校に通う感を出したいと思い、裁縫さいほうが得意なさっちゃんにたのんで、学生感のあるテイストのワンピースを仕立ててもらった。

「学校なんてクソくらえ」なんて思っていた私が、こうも学校に行くのに本気になるなんて、どういう風の吹き回しだろうか。

 さっちゃんの方は、髪型は黒髪のおかっぱヘアと変わっていないが、服装の方は、着物とセーラー服をミックスさせて、所々に紅梅こうばい刺繍ししゅうが入っている、いかにもさっちゃんらしいコーデだ。


 運よく、さっちゃんと同じクラスになった。教室は、大学の講義室のように、長い机と椅子が、そこまで多くはないが並べられていた。とくに、決まった席とかはないため、好きなところに座ってと言われた。「好きなところでいい」と言われると、逆に困ってしまうが、私は、一番後方の席に座り、さっちゃんは、一番前方の席に座った。

 となりに座りたい気持ちは山々だが、私が前に座ってしまうと、私の高身長で後ろが見づらくなってしまうのと、さっちゃんが後ろに座ってしまうと、彼女が低身長がゆえに、前が見づらくなってしまう。仕方ないことなのだ。

 私のとなりは、さっちゃんではなく、この子が来た。

「おひさだなー、レイラー」

 抹茶まっちゃカラーのふんわりとしたミディアムボブ、インナーカラーを高明度の黄緑色に染めて、頭の上には、三つみで猫耳をかたどっている。ビッグサイズの黒縁メガネをかけて、オーバーサイズの白いパーカーを着ている。全体的にふんわりとした雰囲気で、とってもかわいい。

 彼女の名前は、金子かねこのん、ニックネームは、のんだ。のん子とは、幼稚園ようちえんころからの仲で、小、中と同じ学校に通っていた。家もわりと近いから、小学生の頃なんかは、どちらかの家でよく一緒にゲームで遊んでいた。中学に上がってからは、お互いの都合つごうが合わず(というか、私の都合が合わず)、極端きょくたんに減ったけど。

「ひさしぶり、のん子」

 入学して初日のこの日は、オリエンテーションだけで終わった。さっちゃんにのん子を紹介しよう。

「レイラ、また背のびたよなー」

「え、そう? それよりもさ、のん子に紹介したい子がいるんだけど」

「ミーにオトコはまだ早いて」

「女の子だから……ってあれ?」

 さっちゃんがいない。教室を見渡みわたしても、小柄なおかっぱヘアの子は、どこにもいない。

「……いない」

「もう、帰ったんなー?」

「え、はや」

 オリエンテーションが終わってから、まださほど時間はっていない。空き時間が出来たら、すぐに私のところに来るだろうと思ってたのに。さもなくば、私がさっちゃんのところに行こうとしていたのに。どうして?

 私は、即座そくざにさっちゃんを追った。

「あっ、レイラー!」

 教室を出て、廊下ろうか見渡みわたしても、さっちゃんはいない。本当に帰ったのだろうか。

「誰、さがしてんのなー?」

「私の友達だよ。さっちゃんって、和風好きな小柄な子なんだけど」

「レイラと真逆だなー」

 私も、そそくさと校舎を後にする。

「あら、礼蘭れいら?」

「あー、先輩!」

 その途中とちゅう、例の私が崇拝すうはいする先輩に声をかけられた。私は、さっちゃんを追う足を止めて、先輩の方を向いた。

「なんだ、早乙女さおとめ先輩か」

 先輩の名前は、早乙女さおとめ花日はなひあわい淡い桜色のロングヘアと、チェック柄のロングスカートがよく似合う。優しく上品な雰囲気ふんいきは、まさに桜を思わせて、ついうっとりと見惚みとれてしまう。

「あら、のん子ちゃん? 二人ともずいぶんとイメチェンしたのね」

「ええ、大きな節目ふしめですから、思い切りました」

「ここは自由な校風ですからなー」

 私とのん子でそういうと、先輩はにっこり微笑ほほえんだ。

「二人ともとってもお似合いよ」

 お美しい先輩にめられるのは、とっても嬉しい。

「へへへ、ありがとうございます〜」

「今度、カメラにうつしてもいいかしら?」

 先輩の趣味しゅみ特技とくぎはカメラ撮影だ。あとは、裁縫と料理。さっちゃん並の手先の器用さだ。

「はいぃ、よろこんで〜♡」

 ん? さっちゃん? ハッ!

「あ、さっちゃん!」

 ついうっかり、さっちゃんを探さなきゃ!

「友達の存在忘れるとか、ひどくなー?」

「さっちゃんて、礼蘭のお友達でしょ」

「はい、そうです。せっかく同じクラスになれたし、一緒にお話とかしたいんですけど、もう、帰っちゃったみたいで……探してるんです。」

「では、また」と、先を行く。先輩は、「どうせ帰るだけだし、オレも一緒に行くわ」と同行した。あと、言っておくが、先輩の性別なんぞ、気にしたら負けだ。


 校舎の外に出て、周辺を捜索そうさくしていると、見つけた。山中の町に建っている学校の周辺は、にこやかな草原そうげんに囲まれていた。そんな中で、さっちゃんは、こしを下ろして野草をんでいた。ニコニコと楽しそうに。草原には、つくしやたんぽぽ、食べれるで有名な植物がいっぱい生えていた。

 これは、私もテンションが上がる。

「さっちゃん!」

 私はその小さな背中に近づき、飛びつく気持ちで、ぎゅっと抱きしめた。

「わあ、……れいらん!?」

 さっちゃんはおどろいた。私はすぐに手をはなした。

「つくしいっぱい生えてるね。食べ放題だ!」

「そんなんには、取らんけどね。他は、たんぽぽのお花とか、ヨモギとか」

「ヨモギ! ヨモギ団子に使えるじゃん!」

「うん、桜もね、花びらを塩漬けんして、ご飯やお汁に入れたり」

「美味しいの?」

「うん」

「あとは、春の七草」

「あ! 春の七草って、ダイコンとかカブとか……」

 ぐらいしか覚えていない。

「せり、なずな、ごぎょう、はこべら、ほとけのざ、すずな、すずしろ 、これぞ七草」

「すごい! さっちゃん、全部覚えてるんだ」

「さちは、実際に食べてんかんね。全部じゃなんけど」

「おかゆにして食べんの?」

「うん、あとはかきげにしたり、すずな、すずしろはお漬物つけものにしたり」

「すずな、すずしろって、自然に生えてるの?」

「さちは、スーパーで買ってるけどね」

 ふうん、でも、昔の俳句にあるくらいだから、自生してるんだろうな。野生のカブと、ダイコンかぁ。

 話を聞いていると、私も食べたくなってきた。

「さっちゃん、私も食べたい」

「ん……じゃあ、こんあと、一緒に食べよ。帰り、さちん家直行ちょっこうね」

「りょーかい」

 あ、そういえば。と、うしろを振り返る。のん子と花日先輩は、私たちよりだいぶ離れたところに立っていた。

 どうして来ないのだろうと、疑問に思った。私は、その場で二人に手を振って叫んだ。

「二人も来なよ!」

 するとのん子がすぐに応答した。

「ミーらはいいよ! そちらさん二人でやってな!」

 どうして? みんな一緒の方が楽しそうなのに。

「れいらん」

「ん? どうしたの?」

「……やっぱり、なんでもない」

 急にどうしたんだろう。何でかは知らないが、今のさっちゃんは、なんだか不穏ふおんな様子だった。そもそも私が話しかけた時から、いつもよりも塩気の多い対応だとは思っていた。なんでだ?

 でも、そこに無理にれてしまうのは、れ物に塩水をるみたいで、やめた方がいいと思った。



 その後、十分な量を採取し、さっちゃんの手を引いて、四人で一緒に帰りの電車に乗った。電車の中は、気まずかった。さっちゃんは、私ら三人と距離を置いて座った。顔もそっぽを向いてしまい、全然こっちを向いてくれない。

「おーい、さっちゃーん」

 こまる私に、のん子がこぼすように言った。

「礼蘭にゃ、分からんだろーなー」

「え? どう言うこと?」

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