コーヒー屋のケーキは甘い夢を映した。

「日曜日に会いませんか」

 やっと言えた。コーヒーショップで週に一度会うだけの人を好きになった。友人に伝えたら怪訝な顔をされたが、そんなことはどうだってよかった。コーヒーショップの外で会うこと。それは流果にとって天音との関係の大きな前進だった。けれど天音の返信がいつもより遅かった。土曜日、コーヒーショップで会ったら返事を聞こう、そう考えて瑠衣は布団に入った。瑠衣は寝付きが早いほうだが、今日ばかりはなかなか眠れなかった。


 土曜日の朝、いつもより早く目が覚めた瑠衣は、服装や髪型に気合を入れ、10時より早くコーヒーショップにいた。新発売だという小さなケーキを頼んで、天音を待った。天音に会うのは決まった約束ではない。どうか来ますようにと祈りながら天音を待った。10時になり、ドアの開く音がする。天音だ。瑠衣は返信の来ないスマートフォンを置いた。天音はいつものように店内を見まわしてから、瑠衣の隣に座った。

「おはよう」

 瑠衣の挨拶に、天音は答えることなく店主を呼ぶ。

「あの......」瑠衣は続けて話しかける。天音はようやく瑠衣のほうを振り返った。

「連絡した件、どうですか?忙しいならほかの日でもいいんですけど……」天音にほかの話をされる前にと、瑠衣は日曜日の件を問うた。天音はそれにこたえる前にコーヒーを頼んでから、瑠衣に答えた。

「瑠衣さんとこうやって話すのは楽しいです。だからこそ、他の場所で会ってこの関係を壊すのが怖いんです」

 それは瑠衣にとって、天音から聞く初めての天音の感情だった。

「天音さんが、私のことを見ていないのは薄々感じています。誰かを探していることも。でもそれでもいいんです」瑠衣は後半になるにつれて早口になりながら天音に伝えた。天音は答えない。長い沈黙が続き、天音のコーヒーは冷めていた。

 

 20分ほど経ってから、「明日、14時に駅前の像のところに来てください」瑠衣はそう天音にLINEを送ってから、店を出た。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る