おまけ『魔王復活?!』
「アリア、婿を連れてきたぞ」
ローレンと揉めたヴォルフガングは、公言通り『婿』を連れてきたと、庭でのひとときを潰す。
「はぁ? 本気だったの?!」
「当たり前だ! 最強の婿を探してきた」
「ふはははぁ! 俺様は一万年の時を経て、蘇った魔王だ」
ヴォルフガングの背後に立つ、白銀髪ロングの男は、両手を広げて豪快に笑う。
確かに、顔はいい。整ったきれいな顔をしており、身長もかなり高い。
「魔力も高く、金も城もあると言っている」
本当に魔王だというのなら、高魔力は必須だし、お金だって、住む場所も必要よね。
(ヴォルフガングが言う通り、魔力量はたしかにかなりありそうね)
魔王かどうかは分からないけど、強いのは確かだと、私は目を細める。
「して、お前の娘はどこだ」
頭に立派な角を生やし、鋭い牙を見せる魔王と名乗る男がキョロキョロと見回す。
「何を言う、目の前におるではないか」
「なにっ! このちんちくりんが娘かッ」
視界に入っていなかったのか、魔王は私を見つけると物凄く驚いた。
それから、ヴォルフガングを睨みつけるように視線を向ける。
「話と違うではないか!」
「違うとは、どういうことだ」
「お前は、絶世の美女で、目に入れても痛くないほど可愛いと……」
「世界で一番、可愛いであろう」
自信満々に言い切ったヴォルフガングに、魔王の顔色が赤くなる。
「可愛くなどない。どこにでもいる村人Bではないかっ!!」
平凡すぎて、視界にも入らなかったと魔王が言い切ると、今度はヴォルフガングの顔色が赤くなる。
「貴様、我が娘を可愛くないなどと口にするかッ」
「美女などと、俺様を騙しおって、ナマズかじゃがいもと変わらぬ顔を……、ギャァァァ!!」
『六花の氷雨よ、……アイシオン!』
魔王が一瞬で凍りつく。
『グォぉオォぉ――ッ!!』
ドラゴンに姿を変えたヴォルフガングが、踏み潰す。
「言い過ぎよ!」
「まったくだ、心底腐った奴だ」
アリアとヴォルフガングは、失礼極まりない男を処分して、席につく。
「お茶が冷めてしまったわ」
「菓子が不味くなるところだった」
そう言いながら、二人は何事もなかったかのように午後のお茶を楽しむことにした。
その頃、血相を変えて、謁見の間に駆け込んできた総魔術師が、国王の前で恐ろしい報告をしていた。
「封印されていた魔王が復活したようです」
「一万年前に封印されたという魔王か?!」
「そうです。しかもすでに城に入り込んでいる可能性が」
邪悪な高魔力を感じたと、総魔術師は現在城内を魔術師たちに探させていると報告すれば、アシュレイが前に出る。
「師団長を集めます」
「アシュレイ、早急に城内に配備せよ!」
「はい」
国王より命がおり、アシュレイは謁見の間を急いで出ていこうとして、総魔術師に引き止められた。
「王太子殿下、お待ちください」
「どうした?」
「魔王の気配が消えました」
総魔術師は、一体何が起こったのかと、額に汗を浮かべて視線を落とす。当然国王もアシュレイもどういうことなのかと総魔術師を見る。
「魔王は城から出て行ったのか?」
国王が城から撤退したのかと聞けば、総魔術師は「消滅しました」と、とんでもない発言をした。
「どういうことなんだ!」
復活したかと思ったら、消滅したなどと聞かされ、アシュレイの眉間に皺が寄る。
「……分かりません。しかし、すでに魔力も闇の気配もありません」
先ほどまで恐ろしいまでの闇の魔力が漂っていたはずなのに、一瞬でそれが消滅した。総魔術師は、本当に何が起こったのか分からないと、冷たい汗を滲ませ、国王とアシュレイもまた魔王消滅の事実を受け入れられないまま、険しい表情を浮かべた。
「ビスケットは、少々味が薄いのが難点であるな」
「それならジャムをつけてみるのはどう?」
「それは名案だな」
「今度、木苺のジャムを作ってみようと思うの」
「それはよい。俺様が一番に試食してやる」
「ふふ、本当に甘いものが好きなのね」
無神経すぎた男のことなど一切気にすることなく、アリアとヴォルフガングは、仲良くお茶会を楽しむ。
まさか先ほどの魔王と名乗る男が、本当に一万年前に封印されていた本物の魔王だとは知りもせずに。
おしまい
―――――――
@eggeater様よりいただきましたコメントを元に、即興で書いた小話です。
コメント、誠にありがとうございました。
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