第32話 聖女だと国に売った犯人が判明!
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祈りの間に溢れた光は数分も経たないうちに消滅はしたが、何が起こったのか分からず、私もクレアも呆然としていた。
静まり返った空間は穏やかな空気が満ちていたが、それを壊す音が響いた。
「見事な結界だ」
ドカッと物凄い音とともに開け放たれたドアから、顔を見せたのは赤髪の男だった。
「だ、誰?」
本当に知らない人で、私はクレアを守るように立ちはだかる。ここは神聖な祈りの間、一部の人間しか入れない場所。入り口には兵士がいたはずなのに、どうやって入ってきたのかと、恐怖さえ感じる。
いざとなったら攻撃魔法でと、私はいつでも詠唱できるようにと身構えたのだけど、赤髪の男の動きが見えなかった。
「会いたかったぞ」
「なっ、なに?!」
一瞬だった。赤髪の男は瞬間移動でもしたのかと思うほど早く、私に抱きついてきた。
「ちょっと何なの! 離してっ」
頬を擦り寄せて、めちゃくちゃ親密に抱きしめてくる男を、私は気色悪いと必死に引き離そうとしたのに、馬鹿力もいいとこ、絶対に離れない。
「辛い思いをさせてしまった。すまぬ」
男は抱え込むように抱きしめながら、何かを謝罪した。
「誰かとお間違えでは?」
見たことも会ったこともないので、ひとまず人違いだと伝える。燃えるような赤い髪と、宝石のような紅い瞳、そして、アシュレイ王太子にも引けを取らないイケメン。
一度会っていたら絶対忘れないほどのインパクトあり。
つまり、初対面。
「俺様が我が子を間違えるはずなかろう」
(・・・・・・・)
この人、今、何と言ったの?
耳を疑うような台詞が飛び出したような気がして、時間が止まった。それから冷静に思考を巡らせ、両親はちゃんといるので、きちんと訂正する。
「やはり人違いです」
「いや、我が娘で間違いない」
「私にはちゃんと両親がいますので」
「娘をここまで育ててくれた礼はするつもりだ」
男は真面目にそれを口にした。
(育ててくれた? それってどういう意味なの?)
もしかして私って捨て子だったの?!
驚愕の事実を暴露され、私の頭の中は真っ白に。
「母上、アリア、何があったんだッ」
祈りの間から放たれた異常なまでの光に、アシュレイが飛び込んでくれば、見たこともない男がアリアに抱きついており、咄嗟に剣を抜く。
「何者だ! どこから侵入した」
「最近の若者は礼儀がなっておらんな」
「今すぐアリアを離せ」
人質にとるつもりなのかと、アシュレイは敵意をむき出しにして剣先を向ければ、男はアリアをギュッと抱き寄せた。
「久しい再会を邪魔するな」
そう言って、覇気を飛ばす。
その凄まじい気配にアシュレイは一瞬怯んだが、すぐにクレアを部屋の外へと促し、再び構える。
この男、只者ではないと、額に嫌な汗を流しながらもアシュレイは「アリアを離せ」とさらに声を発する。
すると男から信じられない言葉がでて、思わず剣を落としそうになった。
「アリアは我が娘、俺様は父親だ」
変な空気が満ちる部屋で、私とアシュレイ、王妃、国王、そして赤髪の男が円卓に座っていた。
父親を名乗った男の名は【ヴォルフガング】。しかも自らドラゴンだと言い張る。
ヴォルフガングの話を要約すると……。
私の母親は『マリア=クローディア』
歴代最強聖女様で、ドラゴンを従えていたとも伝えられる人物であり、二人は恋をして子供を授かったのだが、私が生まれてすぐにマリアが亡くなってしまい、子供を育てることが出来なかったヴォルフガングは、子供を失った夫婦の家に私を黙って置き、代わりに育ててもらったとのこと。
その上、女の子は王子様と結婚すれば幸せになれると書物での影響を受け、聖女の血を受け継いでいる私をライアール国に売ったらしい。
つまり、私を聖女だとライアール国に吹き込んだのは、紛れもなくヴォルフガング。
が、しかし、結婚式に出るための服装や挨拶などを調べているうちに、うっかりうたた寝をしてしまい、目が覚めれば半年もの時が過ぎてしまっており、慌ててライアール国に向かったら、知らない女が聖女として城にいて、私が追放されている事実を知ったとのことだった。
ここで問題なのは、マリアが生存していた時代だった。
歴史が正しければ、それはもう500年ほど昔の話。ヴォルフガングの話が本当ならば、私は一体何歳で、人間ではないのかもしれないと、やっぱり化け物だったのだと、酷く落ち込んだけど、ドラゴンの生きる時間軸は人間とは違うと言われた。
竜の血肉を与えたマリアは、姿を変えることなく寿命を延ばしたが、魂がもたず500年を待たずに亡くなってしまったとのこと。仮にその話が本当なら、マリアはつい最近まで生きていたことになる。正確には18年前まで?
当時、聖女の役目を終えたマリアは、ヴォルフガングとともに人や魔物が入り込めない聖域に招かれ、そこで一緒に暮らしていたと言われた。確かに、歴史上では姿を消したという文献しか残っておらず、死亡したという事実はない。
「信じがたい話であるな」
顎髭を触りながら、国王は半信半疑でその話に耳を傾けていた。もちろん他の者たちも同じだ。
けれど、もしもその話が事実ならば私の魔力量の説明はつくし、納得も出来る。大聖女様と最強と謳われるドラゴンとの子供であるなら、攻撃魔法と治癒魔法を使用できてもおかしくないし、化け物みたいな威力も辻褄があう。
年齢だけどうしても引っかかるけど。
「ならば、真の姿を見せ確かめればよい」
「待て、ここで姿を変えれば、民に混乱を招く」
ヴォルフガングが誠にドラゴンであるならば、その姿を晒すことで国に混乱が起きると国王が制止する。だが、それでは真相を確かめることは出来ない。
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