第31話 魔力増幅アイテム

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アラステア国の光は遠すぎて、ヴォルフガングにだけに見えた。だから窓辺に走り寄った。

満ちるその光には、愛しさが溢れていた。

だからヴォルフガングは、勢いに任せて窓を開け放つ。


「アラステア国か」


光から感じた思い出に、ヴォルフガングは隣国へすぐに飛び立とうと考えた。そこにアリアがいると分かったから。

だが、このままでは腹の虫が収まらず、ひとまずランデリックを振り返る。


「冥途の土産だ。その女からは禍々しい黒が見える」


ライアール国は近いうちに滅ぶと悟ったヴォルフガングは、最後の忠告だとレイリーンを指さした。


「何を言う」


当然反論してきたランデリックは、レイリーンを抱き寄せる。そして抱きしめられたレイリーンもまたランデリックに抱きつく。


「偽物の聖女が誰であるか、しかと確かめよ」

「勝手なことを……」

「まあよい、全てが明らかになる前に、この国は滅んでいるのだからな」


ククッと喉を鳴らして笑ったヴォルフガングは、精々黒き聖女を崇めればいいと窓から外へと落下していった。


「バカなッ」


この高さから飛び降りるなど自殺行為だと、ランデリックが窓まで走り寄れば、ものすごい風が巻き起こった。

暴風のような風の中でランデリックが見たものは、巨大な翼。そして城を覆うような巨大な影。


「アレは、まさか……」


実物など見たことはなかったが、書物にあったドラゴン(竜)そのものであった。

あの男がドラゴン? あまりの恐怖にランデリックはその場に尻もちをつくと、飛び去る影をいつまでも見つめていた。


「何ということだ、ドラゴンが現存するなど信じられん」


同じく飛び去るドラゴンを見た王様は、口を震わせて今見た光景に震えが止まらなかったが、レイリーンはその姿に憎悪を抱いていた。


「あれは魔法です」


強大な魔物の姿に怯える王様とランデリックに、レイリーンはそう言い切る。ドラゴンなど想像上の魔物。おとぎ話でしか聞いたことなどなく、実物を見た者など聞いたことがない。

ゆえに、レイリーンは誰かが魔法で巨大生物の幻影を作り出したに過ぎないと決めつけた。

しかもそんなことをするのは、一人しかいないとレイリーンの憎しみは膨らむ。


「魔法だと? それならば一体誰がこんなことを」

「アリアに決まってますわ」


聖女の立場を奪われ、ランデリック王子から結婚破棄され、国外追放の罪まで課せられた、その恨みは深いのでしょうと、レイリーンはキリキリと歯を鳴らす。


「まさか……」

「きっとわたくしを恨んで、妬ましいと思っての嫌がらせなのです」

「レイリーン」

「ランデリック様、わたくし怖いです」


アリアに殺されてしまうかもしれないと、レイリーンは自分の体を抱きしめる。その仕草が可哀想でランデリックは急いでレイリーンを抱きしめてやる。


「大丈夫だ。レイリーンは僕が守るから」


力強く抱きしめれば、レイリーンもランデリックに抱きつく。


「愛しておりますわ、ランデリック様」

「僕も愛する人はレイリーンだけだ。アリアの好き勝手にはさせない」


逆恨みなど見苦しいと、ランデリックはアリアに真っ黒な憎しみを抱く。そして、レイリーンの話を聞いた王様もまた、ライアールに魔物を送り込み混乱を招くは、アリアかもしれないと信じてしまった。

こうなれば、アリアを探し出して処刑するしかあるまいと、王様はすぐにでもアラステア国に影を送り込んで『アリア抹殺計画』の任を与えようとしたが、塞がれた入り口から、瓦礫を魔法で排除しつつ入ってきた総魔術師の言葉に全身の血の気が引く。


「申し上げます。シクズ国より我が国に向かって大群の魔物が向かっているとの報告がありました」


真っ青な顔をした総魔術師は、三つ向こうの国から魔物襲撃に備えるようにとの緊急連絡があったことを告げた。


「何が起こっておるのだ」


魔物襲撃など、アリア一人が仕組めるはずはない。ならば一体誰が? いや、そもそも魔物を操れるものなど存在しないであろう。と、王様は床に崩れたまま、これは誰かの仕組んだ罠ではないとはっきりと分かった。

おそらく結界が弱まっていることに、魔物が気が付いたのだと知った。


「父上ッ」

「ランデリック、結界だ。強力な聖女の結界を張り、魔物を我が国に入れてはならぬ」

「レイリーン! 頼む、ライアールを救ってくれ」


レイリーンの両肩を掴んだランデリックは、唇から血が出そうなほど噛み締めて、聖女の力で魔物を排除して欲しいと叫ぶ。


「……、分かりました」


少し間があってから、レイリーンは下を向いたままそう口にしたが、歯が軋むほど奥歯を噛みしめていた。

それからすぐにレイリーンの父親が到着したが、魔物についての情報収集や近隣国への応援要請、対策などに追われることになり、もてなしどころではなくなってしまった。それを聞き、レイリーンは優しく微笑むと、構いませんと言い、父親を自室へともてなした。


「お父様、遅いわ」


自室に招き入れた父親に対して、レイリーンは怒鳴り声をあげた。


「おお、我が愛しの娘レイリーン、許しておくれ」

「一体何をなさっていたの?」


到着予定日より、5日も遅い到着に腹の虫が収まらない。父親の到着が遅れたせいで、どれだけ辛い思いをさせられたのかとレイリーンが責める。


「魔物が現れたせいで、足止めを喰らってしまったのだよ」


優秀な魔術師を雇ってはいたが、あちこちに出没する魔物に苦戦させられたのだと説明すれば、レイリーンはますます腹を立てる。


「お父様の到着が遅いので、結界が弱まってしまったのよ」

「すまぬ。しかし、良質なものばかり持ってきたぞ」

「それは本当ですの」


父親が重たい箱を数個レイリーンの部屋に運ばせると、レイリーンの機嫌は突然良くなる。

ドサッと置かれた箱は、かなりの重さがあると思われ、レイリーンは急いで箱に近寄る。


「開けてもよろしくて?」


早く中身がみたいと急かせば、父親は満足そうに笑みを浮かべて「開けなさい」と許可した。

ゆっくりと開かれる箱の中身は、全てアクセサリー。100は超えるアクセサリーの数々に、レイリーンの心は踊る。

それから別の箱には、宝石も含まれていた。


「こんなにたくさん集めてくださったの?」

「愛する娘のためだ、ありとあらゆるところから集めたさ」

「お父様、大好きですわ」


ずっと欲しかったアイテムを大量に用意してくれた父親に、レイリーンは抱きついてお礼をする。愛しい娘に喜んでもらえ、抱きしめてもらった父親は、だらしない顔をしながら「なんと可愛い娘なんだ」と、世界一の可愛さだと親バカを発揮していた。


「聖女とは、大変な役目であるのだな」


レイリーンから手紙を受け取ったとき、父親はなんと難しい役目なのだと心を痛めていた。

ライアール国は大きい、ゆえに聖女の役割も大きく、魔力がすぐに失われてしまうのだと、書かれていた。

確かにこのような大きな国を支えるためには、それだけの力が必要であり、毎日苦労をしているのだろうと、父親はレイリーンを優しく抱きしめてあげた。


「わたくしはこの国を守る聖女ですもの、頑張らなくてはいけないわ」

「ああ、可愛いレイリーン。どうか無理はしないでおくれ」


髪を撫で、父親は国の為に頑張る健気な娘が愛しすぎると、自分ももっとアイテムを集めて、レイリーンに届けなければと誓う。

そう、レイリーンに届けられた装飾品は、全て高価な魔力増幅アイテムだった。

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