第12話 嘘はバレる
「私に出来ることは、お花にお水をあげることくらいですよ」
普通の人と変わらないと引き攣った笑みを見せれば、ローレンは険しい表情を浮かべて、私を引き寄せる。
「盗賊たちを地に埋めた魔力を持っているのにか」
「――ぇ?」
(見られてた?!)
まさかさっきの現場を見ていた人物がいたなんて、完全に失敗だった。普通の魔法使いなら、地面を耕す程度。地面をあんなに広範囲で沼みたいに変えるなんて、高位魔法です。
まずい、まずい、非常にまずいと、冷や汗が止まらない。
何か言い訳をしないと、本当に連行されちゃうじゃない! と、私は必死に逃れるための言い訳を探す。そして見つけた最適な言い訳。
「魔法増幅アイテムを使いました……」
ブレスレッドをチラリと見せて、ズルをしましたと話せば、ローレンは少しだけ眉をあげて、ようやく腕を離してくれた。
「実力ではないのか?」
「お勤めしていた主様が、結婚祝いにくださったものなんです」
嘘に嘘を重ねていく。
「そうか、お前の雇い主はかなり心の広い方だ」
普通ただの従者にそんな高価なものを贈ったりはしない。よほど好かれていたか、功績がよかったのだろうと、ローレンは高魔力の根源がわかり、ガッカリする。
魔力増幅アイテムは、数回も使用すれば壊れてしまう代物で、使用する魔力量によっては一度で壊れてしまうアイテムのため、裕福なものしか手に入れられない。
確かに、村娘程度が魔術師になれる確率はゼロに近い。そもそも血筋でだいたいの魔力量は決まってくる。つまり、自分の誤算だったと恥ずかしくもなった。
「あ、あの……、もう戻っても良いでしょうか?」
先ほどの魔法に納得してくれたみたいだったので、私は恐る恐るそう声を掛ければ、ローレンは額に手を添えて、ため息でも零しそうな声で、
「引き留めて悪かった。戻れ」
と、ようやく解放してくれた。
近くの村の場所も聞き出せたし、私は最後にもう一度頭を下げると急いでその場を離れた。
(上手く騙せたみたいで、よかった)
ホッと胸を撫で下ろして、村で雇ってもらえないかなと、急ぎ足で村を探した。
アラステア城。
「申し訳ありません」
アシュレイ王太子とヴァレンス王子の前で、ローレンは片膝をつき深く頭を下げていた。
「ローレン、事情を知らぬお前に罪はない」
「すみません、ローレン殿にもお話しておけば良かったです」
アシュレイとヴァレンスは、極秘内容だったとむしろローレンに謝罪した。
城に戻ったローレンは、盗賊たちを捕えたと報告するため顔を見せたのだが、捕まえたのは村娘のアリーであると事実を述べて、とんでもない事実を知ることになったのだ。
ラベンダーピンクの髪と、月の飾りのついたブレスレットをしていたと報告すれば、『聖女』で間違いないと言われたのだ。
本名はアリア、魔法増幅アイテムだとチラッと見せられたブレスレットは抑制アイテム。
完全に騙された形だった。
(この俺を騙すとは、いい度胸だ、あの女)
沸々と湧き上がる怒りを必死に抑えながら、ローレンは頭を下げ続ける。アシュレイ王太子が探していた重要人物だと知っていれば、無理やりにでも連行してきたのにと。
そのうえ、三日前に嫁いできただとぉぉ、大噓もいいとこだった。
「今すぐに連れてまいります」
潜伏先はだいたい見当がとくと、ローレンはすぐにでも出発の準備にとりかかると言えば、アシュレイが席を立った。
「俺も行く」
「兄さま?」
「連行などという手に出れば、また何をされるか分からない」
相手は魔法の手練れだと、無理やり引っ張ってくることは無理だと判断した結果だった。
「それでは、大魔術師様をお連れするのはいかがでしょうか?」
おそらく魔力は互角、または大魔術師様より下だろうと思っての発言だったが、アシュレイは難しい表情をしたまま、それを却下した。
「アシュレイ王太子殿下、なぜですか」
「アリアの魔力は、俺たちの予想を上回っている」
「それは一体?」
まさか総魔術師様より上なのか? と、ローレンでさえ冷や汗を浮かべた。
「憶測の範囲を測れない」
アシュレイは、現在アリアの魔力量を把握できておらず、どれほどの魔法を使えるのかも分かっていないため、強行手段に出るのは避けたいと話す。
出来るだけ穏便に、アリアの意志で城に来て欲しいのだと、無理難題を抱えていることをローレンに説明する。
それに加え、時間がないことも問題だとアシュレイは頭を抱える。
事は急を要すると言われ、奇妙な顔をしたローレンに、ヴァレンスが口を開く。
「ローレン殿、アリアさんの言葉に嘘がない場合、いずれライアール国に異変が起きます」
「それは……」
「聖女が担っている結界に綻びが訪れるでしょう」
アシュレイがアリアから聞いた『聖女様の結界を補強している』という台詞が完全に引っかかった。つまりアリアが補強しているからこそ、ライアールに凶暴な魔物が一歩たりとも侵入できていないのではないのかと、容易に判断できる。
各国に存在する聖女様、彼女たちが国を守ってくれているのは明白だが、一部の魔物はその結界内に侵入できてしまうのも事実。だからこそ、精鋭部隊や、近衛兵のような部隊が各国に存在している。
完璧な結界など存在しない。それが事実だ。
それなのに、ここ十数年ライアール国には魔物の侵入被害がない。つまりアリアが守っていることを意味しているのではないかと、ヴァレンスは予測した。
「アリアが追放されたことで、ライアール国に魔物が?」
「断言はできませんが、僕はそう考えています」
「つまり、そうなればライアール国がアリアを取り返しに来ると」
「おそらく」
だからこそ、アリアを我が国で匿いたいとヴァレンスは、ローレンに説明した。
しかし、それではアリアは道具として扱われるのではないかと、ローレンは険しい表情を作り、ヴァレンスを見る。
「彼女を閉じ込めるおつもりですか?」
たとえ国のためとはいえ、人権を無視するような扱いには賛成できないと、ローレンは低い声を出した。
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