第11話 王太子→盗賊→、今度は誰?
「お前たち、捕まえろッ」
「傷はつけるなよ、売り物として価値が下がる」
「あいよ」
突然走り出した私を追って男たちも走り出す。自慢じゃないけど、走りには自信がない。
すぐに息が上がってしまい、私は背に腹は代えられないと、走りながらブレスレットを外す。さすがに5人相手にするには、魔力が足りないかもしれないし。
「逃げられると思うなよ」
背後から聞こえる男たちの声が近づき、私は突然足を止めて振り返る。
「もう観念したのか」
「無駄だってことがわかったみたいだな」
立ち止まった私を見て、男たちも走るのを止めてゆっくり近づいてくる。
それを見て、私は両手を前に翳すと
『プルトイス』
詠唱を唱えた。
「うわぁ」
「なんだコレ」
「体が埋まるッ」
「おい、どうなってんだ」
「魔術師だったのかっ」
男たちはうめき声をあげながら、沼のように柔らかくなった地面に半身が埋まっていく。
丁度腰のあたりまで埋まったところで魔法は効力を失い、男たちは地面に埋まったまま身動きが取れなくなった。
「ご、ごめんなさい」
とりあえず、このまま放置するしかなくて、私は一回だけ頭をさげると再び走り出す。
逃げなきゃって、ただそれだけが頭を埋め尽くした。
「驚いたな」
物陰からそれを見ていた人物が一人いた。
その人物は指で頬を掻きながら、目の前で起こったことが信じられなく、しばらくその場に立ち止まった。
「総魔術師様に匹敵するかもしれないな」
アラステア国の最上位クラスの魔術師と互角なのではと、青年は少しの恐怖を抱きながら足を進めようとしたその時、
「カーティス師団長、ご苦労様です」
少し遅れて到着した部下が、盗賊たちが大地に埋まる姿を横目に、敬礼をした。
「まさか師団長が……」
「残念ながら、俺じゃない」
「ではどの魔術師が?」
ずっと追っていた盗賊を確保したのは誰なのか? 部下がそれを問うがカーティスと呼ばれた男は、「不明だ」と答え、部下たちに後始末を頼むと急いでアリアの後を追いかけた。
もしかしたらすでに遠くへとも考えたが、アリアは思ったよりまだ近くを走っていた。
というより、息を切らせて歩いていた。
「まさか、もう息が切れたのか……?」
まだ200メートルも走ってないだろうと、魔力と体力の差に驚きさえ感じた。
つまり、アリアの前に先回りすることは容易で。
「止まれ」
カーティスは、アリアの目の前に姿を見せると、行く手を阻むように立ちはだかる。
「怪しいものではありません」
(今度は誰?)
内心でそう叫びながらも、決して怪しい者じゃないと全力で叫ぶ。
とはいえ、こんな森の中にいること自体怪しいんだけど。
「名は何という」
「え、……と、アリーです」
「アリー?」
「え、ええ、ただの村娘です」
どうみても精鋭部隊の人だと瞬時にわかり、私は咄嗟に偽名を名乗る。服につけられた勲章の数がそれを物語っているし、ここはアラステア国、当然城の部隊だと分かっての選択。
本名なんて名乗って、アシュレイ王太子に繋がるようなことは全力で避けたい。
「ほう、ただの村娘が、なぜこんな山の中に?」
ですよね……、とは思いつつも、何か適当に誤魔化さないと不審者またはさっきの盗賊の仲間だと思われて連行されかねない。
「最近嫁いできたばかりで、迷子になってしまいまして……」
あはは、と困っていますアピールをしてみた。
(隣国から来たと言えば、きっと誤魔化せる……はず)
「嫁いできた?」
「ええ、三日前に来たばかりで、このあたりのことは全然分からなくて、困ってしまって」
「村なら、逆方向だぞ」
親切にも村の場所を教えてもらい、私は後頭部を掻きながらぎこちない笑みを作る。
「そうだったんですね。私ったら方向音痴で」
と言いつつ、その男性にお礼を述べてクルリと向きを変えたら、突然腕を掴まれた。
「お前は魔術師か?」
掴まれた腕を引かれ、男の方に向かされると突然そんな質問をされた。
魔法使いと魔術師では少し捉え方が違う。魔法使いは平民、魔術師を名乗れるのは、軍や城に配備されている、国王様から正式に命名された者だけ。
「違います。ただの魔法使いです」
そこらへんにいるごく平凡な魔法使いだと名乗れば、掴まれた腕を強く引かれる。
「魔術師試験を受けたことは?」
「……ありません」
「受けろ」
有無を言わせない圧力で、男はそれを強要してくる。
(どうしてそんなものを受けなければいけないのよっ)
反論したいけど、相手は精鋭部隊。下手に反抗すれば業務妨害で捕まる。私はとりあえず、この男が何者なのか知りたくて、そっと口を開く。
「お名前を聞いていません」
高圧的な態度をとるからには、きっと名のある人だとは思うけど、地位は知りたい。ただの兵なら魔法を使って逃げるつもりだった。
「失礼。俺はアラステア国、第二師団長ローレン=カーティスだ」
(し、師団長、様?!)
まずい、非常にマズイ。師団長ってことは、アラステア国の直属の部隊。しかも相当上位。
これは逃げられない。下手に魔法なんか使用したら、私も軍に配備されちゃうじゃない!
というかアシュレイ王太子に捕まる?! あんな変態に二度と会いたくないと、私は首を左右に振る。
「どうした?」
「いえ、師団長様とは知らずにご無礼を」
「構わない。だが、お前を城に連れて行く」
(えええぇぇ――ッ! なんでそうなるのよ! ただの平民って言ったでしょうがぁ)
「それは困ります」
掴まれた腕を引きながら、私は丁重に拒否するけど、離してくれない。
(アシュレイといいローレンといい、しつこすぎない?)
「なぜ困る? 城に行けば高給料がでるぞ」
(そんなこと十分にわかってます。私の魔力ならおそらく高給料がでる。本当に生活に困らないくらい)
けどそれよりも自由が欲しいの! 誰にも迷惑をかけない自由が。
というか、ローレンはなぜ私なんかに目をつけたのだろうか? こんな森の中で、ただ道に迷っただけの私を。
だがそれはすぐに分かることになる。
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