第3話 魔物討伐は内緒で

「許さないんだから」


街の人たちを傷つけて、多くの人を悲しませるなんてと、私は怒り心頭で郊外へと向かって歩いていた。

街中にいた魔物はあらかた片付けたし、あとは城の精鋭部隊と警備兵でも大丈夫だと確信して、穴が開いた結界の場所へと向かう。おそらくそこでは小物の魔物なんかとは比べ物にならないような魔物がいると少しだけ覚悟して、どの程度穴が開いてしまったのかも分からないけど、その魔物はぶっ倒さないとダメねと、決めた。

脅威となるかもしれないから、倒してから結界の修復をしようと考えた。

それと、顔を見られるのは絶対避けたいから、フードを思いっきり深くかぶって、なるべく人目につかないように進むけど、結界の境界線までたどり着いたら、騎士や兵士たちがわんさかいて、2体の魔物と交戦中だった。


「あれは……、ヘカトンケイル?」


無数の腕を持つ、異様な姿の魔物に私は一瞬足を止めた。本物なんかみたことないけど、気持ち悪いと思ったのが第一印象。

それに、綻びからかなり結界を破壊されており、もう少し破壊されたら完全に侵入されてしまう状態だった。


「やっぱり退治した方がよさそうね」


額に汗を浮かべながら、結界を修復するのは、ヘカトンケイルを倒してからの方がいいと判断する。だって、結界の外に追い出したところで、きっと結界の外からずっと攻撃を仕掛けてくるし、それでまた結界に亀裂が入ることもあり得るかもしれないし。


「さて、と、どうしようかしら?」


木の陰に隠れて、私は一体どこから攻撃すればいいのと、頭痛が。有名になりたくない、魔物を倒すことで、知名度が上がるのだけは避けたい。だって、山奥でのんびり暮らすのが夢なんだから。


「ん~、あの人たち超邪魔なんだけど」


一生懸命攻防してくれてる人たちにいう言葉じゃないんだけど、私の魔法に巻き込まれたら大変だと、悩む。

どうしようかと悩んでいる間にも、負傷者は増え続け。私はポンッと手を打つ。


「これしかないわ」


いいことを思いつき、私は戦闘を繰り広げている人たちに向かって、手のひらを翳す。

範囲や出力を抑えるときは、短め詠唱。これは私独特の詠唱方法。一般の人が使う魔法は基本的に魔法の言葉だけなのだが、私は幼いころから自分の魔法と向き合い、詠唱方法によって、効果が変わることを習得した。


『セレネ』(眠り)


魔法を発動すれば、戦闘していた兵士たちが睡魔に襲われ、次々に地面に倒れていく。もちろん攻撃が止み、ヘカトンケイルたちは綻びから中に侵入しようとするけど、私が正面に姿を見せ、「相手になるわ」と立ち塞がる。


ガガッ、ァァァ……


「さてと、私を怒らせた罪は怖いわよ」


ポキポキと肩を鳴らす勢いで、私は魔物たちの前に立つ。

当然、地面に倒れる人々より、突然現れた私に標的を移した魔物が襲い掛かろうとする。


グガ、ガ……ァァァ


唸り声をあげてこちらに向かってくる魔物に向かって、私はニヤリと笑う。


「久々に本気出せそう」


人差し指と中指を揃えて前に向け、銃を撃つようなポーズをとり、狙いを決める。

森に穴が開いたらどうしようと、直前で少し怖くなって、ちょっとだけ制御することを決め、仕留め損ねたら、もう一度詠唱すればいいと考えて口を開く。


『焔の怒りよ、……レイア』


指先から放たれた魔法は、灼熱の炎が渦を巻きながら魔物を襲う。炎に包まれた魔物たちは、断末魔のようなうめき声をあげ、そのまま灰と化した。

本当に一瞬の出来事。

それを見届けた私は、がっくりと肩を落とす。だって、ここ数年魔力制御してきたし、強力な魔法だって使ってなかったのに、威力が全然衰えていなかったことに軽く絶望した。


「これじゃあ、本当に化け物じゃない……」


人並み外れた魔力、アイテムで制御してもそれなりの魔力が出てしまう。普通がいいのに、これじゃ兵器みたいだと、涙まで出そう。

いつか魔力が暴走するんじゃないかと不安もあり、人里離れた山奥で暮らしたいのだ。兵器として扱われるくらいなら、ひっそりと暮らした方がいいと。

元気を失った私だけど、結界の穴を修復。強力な結界魔法は、かなりの魔力を使用するから、少しだけ動けなくなる。

魔物討伐した優越感よりも、化け物みたいな魔力に絶望して、私はしばらくその場でいじけていたけど、


「……帰ろう」


ここにいても仕方ないと、城に戻ることを決めた。






トボトボと城に戻れば、城内ではとんでもない事態が起こっており、私は城に戻るなり謁見の間に連行された。


「アリア! お前は今までどこに行っておったのだ!」

「負傷者の手当てもしないなんて」

「聖女としてあるまじき行為だ」


王様、王妃様、ついでにランデリック王子の三名から責められた。


(そうか、私城を抜け出していたから……)


緊急事態に私の姿がなかったと、周りから非難の目が向けられる。同時に治癒に当たっていたレイリーンは、女神のようだったと褒めたたえられていた。


「レイリーンは、聖なる力で街の人たち全員を救ったのだぞ」


ランデリック王子が声を強めてそう口にしたが、


(それ、私です)


とは言える雰囲気ではなく。


「皆様を救うのは、聖女の役目として当然ですわ」


両手を組んで、いかにも自分が街を救いましたオーラを出すレイリーン。さすがにこめかみに筋が……。


「お言葉ですが、魔物を……」


倒したのは私ですと、言いそうになった口を慌てて塞ぐ。あんな化け物を一人で倒したなんて知れたら、今度こそ本当に兵器か化け物扱いされる。


「魔物がどうしたんだ」


言いかけた口を閉じてしまい、ランデリック王子が睨むように私を見る。


「いえ、……魔物が怖くて……」

「聖女ともあろう者が、逃げたと言うのかッ」

「……、も、申し訳ありません」


こうなったら、何が何でもレイリーンに聖女を譲る! 私は辛酸を舐めるように、グッと歯を食いしばって頭を下げる。


「聖女が逃げるなんて、信じられません!」


レイリーンの悲鳴のような甲高い声が部屋に響き、みんなが私を冷たい視線で見る。


「彼女は聖女様ではなかったのか?」

「やはり、どこの馬の骨とも分からないものなど聖女様には……」


ひそひそと聞こえてくる非難の声。


「アリア、お前を救助放棄にて牢獄へ入れる」


王様から下された命令に、私は反論など出来なかった。いや、しなかった。下手に足掻いたところで、きっと私の悪は払拭できないと理解したから。

だって、周りの人たちも街の人たちも、レイリーンの魔法が全てを救ったと信じてしまったから。たぶんレイリーン自身でさえ、自分が救ったと勘違いしている。


「ランデリック王子、この方はもはや聖女ではありません」


王子の隣に立ち、レイリーンが囁く。

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