第37話

「掴まった時、あいつが俺に向けて言ったんだ……『また来るからな』」




嘘だろ……。




あの事件は、この4人で乗り越えて来たんだ。




もう二度と繰り返さないようにと、どんな気持ちで今まで過ごしてきたか――。




「あいつは、また来る」




あの事件の一番の被害者である白夜が言う。




「だけどもう二度と手を出させたりはしない。




妹の……カヤと同じようなことなんて、もう二度と起こさせない――」





沈黙が流れる中、白夜の頬に涙が光った――。



夢心地


私はホワホワと夢心地で起き出して、リビングで白夜先輩がテレビを見ているのを見つけてその場に立ち止まった。




いつもなら「おはようございます」と普通に挨拶をする場面なんだけれど……。




昨日の告白を思い出すと、妙に意識してしまってまともに見ることもできない。





その場でモジモジしていると、気配に気づいた白夜先輩が振り向いた。




そして、今までにないくらい優しい笑顔で「おはよう」という。




なんかもう、たったそれだけで私の心は有頂天。




どこまでも飛んでいけそうな気分だ。




「お、おはようございます」




たどたどしく挨拶をすると、先輩はプッと笑った。




「なに? 朝から意識してんの?」




「だ、だって!」



お金持ちだった頃もいいなずけとか私にはいなくて。




彼氏ができたこともなくて。




すべてが始めてなんだもん。




「おいで」




手招きされて、私はおずおずとソファへと近づいていく。




私よりも随分早く起きてシャワーを浴びたのか、先輩の髪から甘い香がした。




「今日からまた送って行ってやるからな」




「うん……」




「昼も、放課後も、呼びに行くまで教室で待ってろよ?」




「う、うん」




先輩の真剣な表情にドキドキする。




こんなに束縛とかしちゃう人だったんだ。




一見クールだから、わからなかった。



先輩と2人で食堂へ行くと、昨日とは違って笑顔で迎え入れてくれた。




青葉先輩も、表情が柔らかい。




私はそれを見てホッとした。




私たちが付き合うことで関係がギクシャクするのは、やっぱり嫌だから。




「朝からラブラだねぇ」




ニコニコと微笑む優人先輩に、カッと顔が熱くなる。




『そんな事ない』




と、否定しようとしたのに、白夜先輩が横から「まぁな」と言って遮られてしまった。




『まぁな』




って……。




優人先輩の言葉、否定しなかった……?




ドキドキと心臓がうるさくなる。




それって私たちラブラブって認めていいって事……?



彼氏彼女なんだからラブラブで普通なのかもしれない。




でも、でもこんなカッコイイ人とラブラブだなんて、信じられない。




「あ……」




「なに?」




「う、ううん。なんでもない」




慌てて首をふって、椅子に座る。




おいしそうなスープの匂い。




私はスプーンに手を伸ばしつつ、考えた。




もしかしたら、熱を出した時のあのキスは白夜先輩が――?




あの部屋は白夜先輩の部屋だ。




普通に考えたら、一番に思い浮かぶ相手。



もし、本当にそうだとしたら?




ファーストキスの相手が白夜先輩だとしたら……。




思わず口角があがる。




それって、すごく嬉しいことだ。




顔がにやけて頬が染まる。




「なに、ニヤケてんの?」




「別にっ!」




不振顔をする白夜先輩に言われて、私はあわてて首をふり食事に専念した。




そんな私を、光輝先輩がジッと見つめているなんて、知らずに――。



☆☆☆


「明日香さん! 私亮介さんと付き合うことになりましたの!!」




朝一番、教室に入ってすぐの出来事。




桜子は頬を真っ赤に染めてピョンピョンと飛びはねながらそう言って来たのだ。




「そうなんだ? おめでとう」




私はフワッと微笑んで見せて小さく拍手を送る。




どうやら昨日のデートで告白されたらしい。




場所は観覧車の中。




頂上まで来た時にキスをされた。




というベタでもロマンチックな話だ。




「いいなぁ」




私も、どうせならそんな感じのがよかったな。




なんて、贅沢な事を考えてしまう。



「あら、明日香さんだって朝から話題になっていますわよ」




「へ? 話題?」




トンッと肩を叩いてくる桜子に、ハテナマークの私。




「白夜先輩と付き合ってるって、噂ですわよ?」




「えっ!? な、どうして!?」




目をパチクリさせる。




まだ誰にも話していないし、私たちの事を知っている人はごく限られているのに。




「生徒会の南羽先輩が言いふらしているみたいですわよ?」




南羽って……優人先輩が?




あ、でも。




あの人の場合悪気がないままに言いふらしても不思議はないか……。




それにしても広まるのが早いな。



「あっという間に話題の人になっちゃいましたわね」




その言葉に私はアハハと乾いた笑い声をあげる。




どうりで、さっきから他のクラスから女子達がちょこちょこ来てると思った。




私の陰口を言う人が増えるかもしれないけれど、生徒会のメンバーである限り下手に手を出してくる事はないハズだ。




女の子なら、あの4人のメンバーに嫌われたくはないだろうから。




むかつくけれど手を出せない。




そんな感じでブツブツ言いながら帰っていく子が多かった。




「ところで、告白はどちらから?」




私は視線を桜子に戻し、そしてフニャッと顔をゆがめて昨日の話しを聞かせてあげたのだった……。


☆☆☆


そして、昼休み。




約束通り私は白夜先輩が来てくれるのを教室で待っていた。




「じゃぁ、わたくしは亮介さんと食べて参りますので」




桜子はそう言ってスキップをしながら教室を出て行ってしまった。




幸せそうだなぁ。




桜子の後姿を見送ってそんな事を思う。




きっと、私も負けないくらい幸せなんだけどね。




これから手を繋いでデートしたり。




キスしたり。




色々な事を2人でやっていくのだと思うと、ドキドキするし緊張もする。




そして何より、まだ付き合っているという実感がわかなかった。




ソワソワと白夜先輩を待っていると、見知らぬ3人の女の子たちが私の机のまわりに集まってきた。




みんな険しい表情をしていて、私を見下している。

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