第34話
思わずakariちゃんにほお擦りする。
「おいおい、ちゃんとご主人様に返さなきゃなんないんだぞ」
光輝先輩はあきれ顔。
「わかってるもん。だけど可愛いっ! 優人先輩、あの子にakariちゃん届けに行くの?」
「あぁ。そのつもりだけど」
「私も一緒に行っていい?」
「え……?」
優人先輩は少し眉間にシワを寄せて、それから頭をかいた。
「ダメなの?」
「いや、ダメってワケじゃないけど……」
言いながらも口ごもりあまり嬉しくなさそうな表情。
「明日香ちゃん。今回は優人1人で行かせてやって? なんだかあの女の子に恋しそうな予感なんだ」
ニヤニヤして言う青葉先輩。
うそ、恋!?
しかも相手は中学生!!
だけど優人先輩はそう言われた瞬間真っ赤になって、口をパクパクしている。
図星なんだ。
それに、かなり本気っぽい。
ってことは、akariちゃんは赤い糸になるワケか。
「わかりました。頑張ってください」
私はakariちゃんと優人先輩に返して、ついでにそう言った。
優人先輩の女嫌いも、これで直るといいな。
そう思って。
☆☆☆
「あ~暇。暇暇暇」
リビングのソファで横になってブチブチと呟く。
今日は休みだ!
だからといってやる事はなにもない。
買い物へ行ってみてもいいけれど無駄使いできるお金がない。
実家に戻ってみてもいいけれど、ヤクザがいるかもしれない。
「お前うるさい」
部屋の中にいた白夜先輩が顔を覗かせて一言。
だって、暇なんだもん。
まるで捨てられた子犬のような目で《かまって》オーラをおくると、白夜先輩はため息混じりに口を開いた。
「そんなに暇なら地下室に行け」
「地下室……?」
「あぁ。娯楽室がある」
地下室に娯楽室!?
その素敵な言葉にパッと飛び起きる。
「なにそれ!? なにがあるの!?」
「ビリヤードやカラオケ、卓球なんかだな」
うそ、そんなのがあったんだ!?
さっすが金持ち学校の特別寮!!
「先輩、一緒に行こうよ」
どれも楽しそうだけれど、1人でできるスポーツじゃない。
「無理」
「なんで?」
「お前もう忘れたのかよ。傷だらけでどうやってビリヤードすんだよ」
あ……。
そうだった。
いつもと変わらぬイジワルさで忘れるところだった。
「じゃぁ、私白夜先輩のお世話します!」
「は……?」
「だって、私生活も大変でしょう?」
「別に、そこまでじゃねぇよ」
「でも、私のせいですから」
「馬鹿正直なダケでお前のせいじゃないだろ」
「だけど……!!」
妙な言い争いになりかけた時、部屋にノック音が響いた。
「明日香ちゃん、お客さんだよ」
青葉先輩の声。
っていうか、私にお客さん?
そう聞いてすぐに思い出すのはヤクザの顔。
まさか、ここまで来たとか言わないよね!?
サッと青ざめて、思わず白夜先輩の腕を掴む。
「同じクラスの桜子ちゃん。話があるんだって」
「桜子……?」
☆☆☆
言われたとおり食堂へ行くと、桜子とタケル君が2人で椅子に座っていた。
私は交互に2人を見つめて、キョトンッとする。
「明日香さん! ごめんなさい!!」
そして、私が入ってきたことにようやく気づいた桜子が、いきなり椅子を立ち土下座してきたのだ。
それにつられるように、タケル君も一緒に土下座をする。
な、なに事!?
「ど、どうしたの?」
驚いてそう聞くと桜子の目からポロポロと涙が溢れ出したのだ。
「ちょっと桜子!? 一体なにがあったの?」
ちゃんと説明してくれなきゃサッパリわからない。
「タケル君、どういうこと? 2人は知り合いなの?」
「そうなんですの……ごめんなさい明日香さん。
私すっかり自分の事で舞い上がっていまして、忘れていたんですわ」
タケル君に投げた言葉を桜子がキャッチした。
忘れてた?
って、なにを?
「昨日、明日香ちゃんが体育館に戻ってから行ってみたら、俺のダチが全員ぶっ倒れてたんだ」
「あ……」
それは白夜先輩の仕業だ。
「でも、明日香ちゃんには何もしてないんだってわかって、ホッとした」
少しだけ頬を紅潮させるタケル君。
昨日の出来事がある前だったら、私も一緒に赤くなっていたかもしれない。
「どうしてあんなことしたの?」
きつく訊ねると、桜子が突然声を上げてさっき以上になき始めたのだ。
え?
なに?
驚いて目を丸くする。
「こいつに、頼まれて」
タケル君はなきじゃくる桜子を指差して、そう言った――。
☆☆☆
「ほんとうに……ごめんなさい」
ズルズルと鼻水をかむ桜子。
私は呆れ顔で微笑んで「もういいよ」と肩を叩いた。
「でも私……明日香さんにヒドイ事を……」
「されてないから。白夜先輩が助けてくれたから」
桜子はやっぱり今でも白夜先輩のことが好きだったんだ。
毎日教室まで送り迎えしてしてくれるあの姿を見て、桜子の真っ黒な部分が顔を出してしまった。
……私も、悪かったよね。
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