第33話
「嘘……なんで? そんな事する理由がないじゃない」
咄嗟に、タケル君を擁護してしまう自分。
みんなを信じていないワケじゃない。
でも、そんな、急に言われたって――。
「明日香ちゃん、もしかして今日このままどこか行こうとか誘われなかった?」
あ……。
『今日はこのまま一緒にいたい』
「言われた……」
「ついて行ってたらどうなってたかわからないよ」
そういわれて、ゾクリと背筋に寒気が走った。
本当に……?
タケル君が、そんな事を――?
「どうして、私なんか……」
もっと可愛い子は沢山いる。
私なんてもうお金だって持ってないのに……。
「だから、泣くな」
また、白夜先輩の手が私の頬に触れる。
今度はその暖かさで私の中の何かがプツンッと切れた。
白夜先輩の怪我は、私のせいでもあるんだ。
私が、タケル君を信用してついて行ってしまったから――。
「私、タケル君と話てくる」
そう言って、勢いよく立ち上がる。
「明日香ちゃん!?」
だって、このまま黙っているなんていやだ。
胸に付けたままだった赤いバッヂを外して、力任せに床に投げつける。
理由が知りたい。
学校帰りのデートも。
風邪をひいた時に来てくれたのも。
なにもかも嘘だったのか、直接聞きたい。
それに、あの時のキスも――。
私は、風邪で意識が朦朧(もうろう)としていた時に、水を流し込んでくれた唇を思い出した。
全部が嘘だったのだとしたら、どうして私だったのか――。
勢いにまかせて扉を開いた時――。
後ろから腕が伸びてきて、私はその腕の中にすっぽりと包み込まれてしまった。
「話聞いてたのかよ、行くなっつってんだよ」
あきれたような声。
「白夜……先輩……?」
「どこにも、行くなよ――」
正体
翌日、私は目が覚めてそのまま白夜先輩の部屋の前にいた。
あの後みんなが体育館から出たのを確認してから自分の体をひきずるようにしてここまで帰ってきた先輩。
全部、私のせいだ。
私が、タケル君について行ってしまったから……。
ちゃんとお礼と謝罪がしたいのだけれど、さっきから部屋のノックができなくて立ち尽くしているのだ。
どうしよう。
なんて言えばいいんだろう。
白夜先輩の体の傷を思い出すと、どんな言葉も引っ込んでいってしまう。
ダメだ。
こんなんじゃ気持ちなんか伝わらない。
『どこにも、行くなよ』
そう言ってくれた時の気持ちが――。
キュッと胸が締め付けられた瞬間、ガチャッと扉が開いたのだ。
え?
驚いて飛びのく。
「なにしてんだ」
寝起きで少し目がトロンとしている白夜先輩。
前髪がはねていて、子供っぽく見えて可愛い。
「あ、あの、えっと……」
とっさにそんな姿を見てしまうとドキドキして、口ごもってしまう。
「なにか用事? 朝飯は?」
「あ、まだ食べてないです」
「だろうな、寝癖すげぇよ?」
そう言って、私の髪に触れる先輩。
ドキ……ン。
「せ、せせ先輩だって寝癖っ!!」
「ん、あぁ。シャワー浴びて来る。お前も着替えとけよ、一緒食堂行こう」
「はい……」
ポーッとその後ろ姿を見送る。
パタンッとシャワールームの扉が閉まると、白夜先輩の触れた髪にそっと手を当てた。
こんなに優しくされて、ドキドキすると、ついつい忘れてしまいそうになる。
期待、してしまう。
白夜先輩は極度の女嫌いなんだって、わかってるのに――。
☆☆☆
2人で食堂へ入っていくと、見慣れない白いモコモコしたものを優人先輩が抱っこしていた。
「な……な……」
私はそのモコモコに釘付けになって思わず駆け寄る。
「可愛い~っ!!」
優人先輩の腕の中にいたのは猫。
真っ白でフワフワの毛並みの猫。
「どうしたの、この子!?」
動物好きな私は一気にテンションが急上昇。
優人先輩の腕の中から猫を奪いとってしまった。
「探したんだよ。ほら、この前の中学生の子の……」
あぁ!
裏路地で助けたあの女の子。
確か猫を探してたって言ってたっけ。
「一応ね、猫の特徴とか聞いてたんだ」
首には赤色の首輪。
そこにネームプレートがひっつけてあって、
《akari》と書かれている。
「猫のakariちゃんっていうんだ。か~わいいっ!!」
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