第28話

初めての撮影現場でクタクタになった私は、夕飯を食べた後お風呂には入らずにベッドにタイブした。




たった数時間の撮影でこんなにくたびれるなんて、モデルさんは一体どれだけ体力を使ってるんだろう。




「尊敬しちゃう。私なんて絶対無理だ」




まぁ、私がモデルになれることなんてないけどね。




そして、ゴロンッと寝返りをうって目を瞑る。




目の裏に蘇ってくるのは4人のスーツ姿。




白夜先輩はホストみたいだと言ったけど……それ以上にカッコイイよ。


アイドルやタレントにだって絶対に負けてないと思うよ。




『いい笑顔、できてたじゃん』




その言葉を思い出しながら、眠りについた――。

☆☆☆


「あっつ……」




日付が変わってから数時間後、べたついた体で目が覚めた。




やっぱり、この時期にお風呂に入らないとベタベタして気持ちが悪い。




シャワーを浴びてこようと思ってベッドから抜け出し、ダンボールを避けてドアを開ける。




その瞬間、明るい光が差し込んできて目を細めた。




こんな時間にリビングの明かりがついてる?




白夜先輩、起きてるの?



そう思って部屋の中を見回したときちょうど先輩が部屋から出てきた。



「眠れないんですか?」




そう訊ねてから、気づいた。




先輩はいつも寝るときにTシャツとジャージになる。




でも今は黒っぽい外出用の服を着ているんだ。




「どこか行くんですか?」




「あぁ、ちょっとな」





ちょっとって……こんな時間に?



ある程度のものならこの部屋にそろっているから、コンビニまでというワケでもなさそうだ。




「どこにですか?」




そう聞くと、先輩は少し驚いたように目を丸くして、それから飽きたように笑った。




「もう忘れたのか?」




「へ……?」




「俺たちは《恋愛野獣会》だ。活動は主に夜中」




「じゃぁ、もしかしてこれから? いつ寝るの?」




「寝るのは昼間」



「昼間……?」




「生徒会室」




あぁ! なるほど。




私は大抵ご飯を食べたら教室に戻るからその時に眠っているんだろう。




と、おもいきや……。




「眠くなったらあそこで寝る」




昼休みだけ寝るってワケじゃなさそうだ。



「ねぇ、私も行ってみていい?」




好奇心が突き動かされて、ついつい敬語を忘れる。




この人たちの場合敬語でもなんでも気にしないみたいだけど。




「お前がか?」




「だって、私も一応は《恋愛野獣会》でしょ?」




生徒会に入れば強制的に入れられる。




なぜなら、この活動が学費、寮費免除の条件だから。




ということは、私だって活動しなきゃいけないハズだ。




目を輝かせていると、「足手まといになるなよ」と、ぶっきらぼうに許可してくれたのだった。



☆☆☆


夜の街は当然ながら真っ暗だった。




どこか寒々しくて、街の中心まで行くのがやけに遠く感じた。




「ネオンがきれぇい」




そんな事を言って色々なものに興味を引かれながら歩いているのは私1人で、4人は黙々と歩き続ける。




せっかくなんだからもう少し楽しめばいいのに。




「明日香、お前はここで待ってろ」




急に立ち止まってそう言う白夜先輩。




「え? どうして?」



「裏通りに入ると危険なんだ」




そう教えてくれたのは光輝先輩。




そうなんだ……。




一瞬、シュンッとなってしまう。




が、次の瞬間にはもう《裏通り》という怪しい響きに興味を抱いてしまった。




「一緒に行っちゃだめ? 絶対に迷惑かけないから!」




「明日香ちゃん、迷惑かけないって言っても相手は向こうから来るんだよ?」




「でも……」




「嫌なら帰れ」



白夜先輩の冷たい声に、ビクッと身を縮ませる。




「わかった……ここにいる」




「大人しくしてろよ」




ポンッと頭を撫でて、4人は暗い道へと入って行ったのだった。



―白夜―


明日香の頭を撫でて、俺たちはいつもの裏路地へと入って行った。




「どうして連れて来たんだ?」




光輝の言葉に「ついてきたいと言ったからだ」と、返事をする。




「大切じゃないのか、あの子の事が」




「表の店は顔なじみばかりだ。なにかあれば助けてくれるだろう」




それに……。




「明日香を大切だと思ってるのは、お前の方だろ」



「……なに、言ってんだ」




「あのキスが、ただ水を飲ませるだけのキスには思えないが?」




そう言うと、俺と光輝の間にビリビリとした空気が流れる。




そして、こいつは否定しない。




明日香に特別な感情を持っているのは、俺だけじゃない。





「兄として言う」




こんなのは卑怯だとわかってる。




「お前の中のカヤは」




最低だ。




でも、とまらない。




「もう死んだのか?」



☆☆☆


みんなが裏路地に入ってから数十分後、見事に私は酒くさいオヤジに絡まれていた。




ハゲた頭にネクタイを巻いた典型的なよっぱらいが、しつこく絡んで名前を聞き出そうとするのだ。




「ねぇ、君まだ学生だろ? こんな時間にこんな場所にいるってバレたら補導されちゃうよぉ?」




言っている事は正しいのだけれど、言い方がシャクに触る。




ツンッとそっぽを向いて無視していると、今度は怒り出して「何様だお前はよぉ」なんて言ってくる。




どうしよう……怖くはないけど、うざい!!




自分の中でイライラが募ってくるのがわかる。




このハゲ頭にをパンッ! と叩いて真っ赤な手形を残してやりたい。

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