第26話
☆☆☆
そして、放課後。
桜子の姿を探したのだけれど、学校が終わってすぐに帰ってしまったらしく、結局見つけることができなかった。
そうこうしている間にいつものように白夜先輩が迎えに来てくれて、さらに心苦しく感じる。
「どうした?」
「え?」
「今日はやけに大人しいな」
一体誰のせいだと思ってるの?
そう言ってやりたいのを、グッと我慢する。
2人で並んで生徒会室へ行くのもなんだか嫌で、私たちの間には奇妙な距離が生まれていた。
やっとのことで生徒会室について扉を開けると、ようやく息を大きく吸い込むことができた。
「明日香ちゃん、もう体調大丈夫なの?」
青葉先輩が驚いたように目を丸くしている。
今朝、無理せず早く帰って休めばいいよ。
と、言ってくれていたのだ。
「全然大丈夫です!」
そう言って、力コブを作ってみせる。
初めての生徒会活動なんだ。
これくらいのことで休んで出遅れるのは嫌だった。
他のメンバーもみんな集まっていて、ソファに座り中央のテーブルに注目している。
私と白夜先輩も、その輪の中に加わった。
テーブルには真っ白な紙が数十枚と、すでになにか書かれている紙が数枚置かれていた。
「これが、ポスターの原案ですか?」
「そうだよ。文字を入れる位置と写真やイラストのイメージだけ描いてみたんだけどね」
優人先輩がそう言って、一枚の紙を見せてくれる。
「すごい、綺麗……」
ただのエンピツで描かれたイラストだけど、奥行きがあって美しい。
紙の上に《桜ヶ丘高校》の文字が入り、その下に少し小さく場所や日程。
一番手前にはドレスを着ている女性。
背景は森のようだった。
「これ、優人先輩が描いたんですか?」
「まぁね。絵は得意なんだ」
と、照れ笑いしてみせる。
「優人の家は元々デザイン会社だったんだ。そこで育ったんだから、これくらいは描けて普通だろ」
そう言ったのは、光輝先輩だった。
へぇ。
デザイン会社の息子さんだったんだ。
「これをパソコンに入れて修正、色塗りをして完成ってワケ」
「すごぉい……」
「でも、まだどれにするか決まってないんだよね」
そこが一番肝心なところだよね。
すべての下書きを見てもどれもが素敵で、甲乙付けがたい。
だけど、それを逆に言えば『どれでもいい』って事になってしまうらしい。
言ってしまえば無個性。
広告としてのパンチにかけるのだそう。
「で、今みんなで知恵を振り絞ってるってワケ」
なるほど……。
じいっと原案たちを睨みつけながら、難しい顔をする面々。
どれも素敵。
でもそれじゃダメって、難しいよね。
絵のことなんて全然わからない私が一緒に悩んでも何かひらめくワケでもなく、私はエンピツを持って白紙に《ポスター作成》と大きく描いた。
「なにしてるの?」
青葉先輩が覗き込んで聞いてくる。
「え? あ、一応私書紀係りじゃないですか。
だから、とりあえず紙に書いてみようと思って。
みなさん、なにか案があったらとりあえず言ってみてください」
「なるほど、それぞ頭の中で考えるよりもそっちの方がいい。優人、他に何か案はないのか?」
光輝先輩の問いかけに、優人先輩はう~んと、うなり声を上げて眉間にシワを寄せた。
「例えば」
そう口を開いたのは白夜先輩だった。
「1つのことにこだわるのをやめたらどうだ?」
「え?」
優人先輩が聞き返す。
「デザイン会社の社員なら、《ここはこうするのが一般的》っていう基礎知識が埋め込まれてるかもしれない。
でも、俺たちは違うんだ。なにもデザインの基礎にこだわる必要はない」
「デザインの……基礎……」
わからないからこそ出来る事がある。
下手でいい。下手がいい。
無理に背伸びをする必要なんてない。
ビギナーは時として大きなホームランを打つ。
「ぼ……く」
何枚かの下書きを見つめて、呟くように言う。
「やってみたいことがあるんだ」
「やってみたいこと……?」
「うん。明日香、協力してくれるよね!?」
パッとこちらを向いて目を輝かせる優人先輩。
「え? 私……?」
「明日香がいなきゃ始まらないんだ。いいよね!?」
私に協力できるようなことがあるとは思えないけど……。
そう思いながら、優人先輩の笑顔を見るとこちらもなんだか楽しみになってきて「もちろん」と、頷いたのだった。
写真撮影
「まぶしっ」
シャッター音と同時にたかれるフラッシュに目の前がチカチカする。
そして、「はぁ……」と、ため息。
なんで、どうしてこんなことになっちゃってるの?
自分が着ているブルーのドレスを見下ろして泣きたい気分になってくる。
左胸には大きな白いバラ。
腰から下にフワッと広がる段つきフリル。
お人形さんなら似合うのに、純日本人顔の私が着てもねぇ……。
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