第22話
こんな状態だと、意識するなと言うほうが難しい。
顔は赤くなり、視線を合わせることができなくて、私は先輩の胸ばかりを見てしまう。
でも、服の上からでもわかる胸板に、よけいにドキドキしてきてしまう。
「もっと心配してほしいのか?」
「……っ」
わかっているくせに、聞いてくる。
冷たかったりイジワルだったりする白夜先輩に、こっちは振り回されっぱなしな気がする。
「そんな事、ないです」
赤い顔を必死にかくしてそう言うと――ドアに触れていた手がスッと離れた。
え?
「あっそ」
素っ気無くそう言い、ソファへ戻る白夜先輩。
なに……?
取り残された私は目をパチクリさせる。
心配してくれてたんじゃないの?
ただ、イジワルを言ってみたかっただけ?
どっちにしても……そんな態度とることないじゃない!?
私は白夜先輩の後姿をキッと睨みつけて、部屋に入った。
そのままベッドへゴロンッと寝転んで「むかつく」と、呟く。
あんな嫌な態度を取るヤツに不覚にもときめいてしまった。
ドキドキしてしまった。
そのせいで寿命がちょっと縮んだかもしれない。
ぎゅうっと枕に顔をうずめて、「私の寿命返せー!!」と、叫んだのだった。
☆☆☆
「え? 明日もデート?」
「はい」
夕飯時のこと、食堂に集まった皆の、誰ともなく話を切り出した私。
そして、一番最初に反応してくれたのは青葉先輩だった。
「大丈夫なの?」
少し眉をたらして不安そうな表情。
誰かさんとは大違いで、とっても優しいんだ。
「平気です。帰りもタケル君が寮まで送ってくれるし」
笑顔で返事をすると、「そっか」と、曖昧な笑顔が帰ってきた。
まだ何か気になることがあるのかな?
そう思って次の言葉を待っていたが、青葉先輩はそのまま口を閉じてしまった。
「学校までは、いつもどおり俺が一緒に行ってやる」
突然口を開いた白夜先輩に、驚く。
「帰りは、そのタケルとかいう男にせいぜい守ってもらえ」
んな!?
なに、その言い方は!?
完全にタケル君を見下している言い方に、カチンッとくる。
夕飯のお肉にガンッとフォークをつきたてて、「タケル君は誰かさんより優しいし、カッコイイ(多少美化して)し、強い(たぶん)し。心強いんだから!」と、反抗する。
すると……フワッと微笑んだのだ。
まるで小さい子をあやすようにポンポンと私の頭を撫でて、「そっか」と、優しく笑う。
遠まわしに白夜先輩をけなしたのに、なんで嬉しがっているのかわからないし、何で機嫌がよさそうなのかもわからない。
この男……い……意味わかんないっ!!
熱
翌日は完全に寝不足状態だった。
白夜先輩の今までの言動を思い出してみればみるほど、どういった性格なのか全くわからなくなる。
女嫌いで、無口で、不器用。
かと思えば学校まで送り迎えをしてくれたり、人を怒らせて遊ぶような事をしてみたり。
「ひでぇ顔」
部屋から出て、眠れなくなってしまった原因である本人にそういわれて、ムカッとする。
「誰のせいよ!」
とりあえずそう怒鳴っておいたら、「なんのことだ?」と、首をかしげていた。
私はそれに対して返事をせずに洗面所へ向かった。
眠れないくらい悩まされたんだから、ちょっとは悩めばいいのよ。
そう思いながら鏡を見ると……。
「確かに、ひどい顔」
と、ため息。
目の下が黒くなって、白目は充血している。
頭はフラフラするし、体は重たい。
「睡眠って大切なんだ……」
パシャパシャと顔を洗ってもスッキリしなくて、くるりと向きをかえると足が絡まる。
洗面所から出る前に色んな場所にぶつかってしまった。
「なにしてんだ、早く朝飯行くぞ」
「あぁ……今日はいいや……」
寝ていないからか、食欲もない。
学校に行くまでにもう少し時間があるから、ベッドで休みたい気分だ。
「おい、どうした?」
「へ?」
トロンッとした目で白夜先輩を見ると、先輩が5人いた。
「あれ? 5レンジャーみたいになってる」
「なに言ってんだよ」
先輩だけじゃなく、ドアやテーブルも5重に見えて何度も瞬きをする。
あれ?
なんか、おかしいなぁ……。
そう思った瞬間。
足にコンセントがひっかかり、バランスが崩れた。
いつもなら気づかずにコンセントを引き抜いてしまうけど、今日は体の方がフラリと揺れた。
「危ない!」
白夜先輩の声。
視界がグルッと回って、天井が見える。
あ……れ?
痛くない。
私……ソファの上に……倒れたの……かなぁ……?
意識は、そこで遠のいていった。
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