第21話
あまりに自然な動きなので一瞬手を握られていることに気づかなかった。
「あ、あの」
「なに?」
「手紙……どうやって?」
「あぁ。ちょうど明日香のクラスに俺の知り合いがいて、そいつに頼んだんだ」
やっぱり、そうだったんだ。
「どうして、私なの?」
「へ?」
その問いかけに、驚いたように振り向くタケル君。
「だって、可愛い子とか他にもっと沢山いるし……」
私の顔は十人並みだし、背も低いしスタイルも並みだ。
「変なこと聞くんだね」
「そ、そう?」
「別に、可愛いからって好きになるワケじゃないでしょ? 好きだなって思ったら、その人の外見なんてどうでもいい」
そう言いきるタケル君に、ドキッと心臓がはねる。
不覚にも、カッコイイと思ってしまった。
「それより、どこか行きたい所はある?」
「ううん」
「じゃぁ、駅の近くにできた喫茶店に行かない? おいしいコーヒーがあるんだ。もちろん、ケーキも」
そうやって、私たちは喫茶店へと向かったのだった。
約束
「おいしい……」
タケル君のオススメケーキを一口食べた私は思わず手のひらで頬を包み込んだ。
甘いイチゴに甘すぎない生クリームが絡んで、口の中でとろける。
スポンジもフワッフワで、今まで食べた中で一番おいしいと感じた。
「よかった。
ここ、値段もそんなに高くないでしょ? だから、もしかしたらお金持ちの娘さんの口には合わないかもって思ってた」
その言葉に、私は大きく首を振る。
そもそも、ショトケーキなんて飾り気のないものはあまり食べてこなかった。
今更、そのおいしさに気づかされたのだ。
「すごく、おいしい」
上に乗っているイチゴをツンッとつつく。
まるでそれが小人のように見えて、すごく可愛い。
「あのさ……」
「へ?」
イチゴから顔を上げると、タケル君の顔がイチゴみたいに赤くなっていた。
「よかったら、明日もここに来ない?」
「え……?」
ドキンッ。
それって、つまり……また、デートしようってこと、だよね?
「えと……あの……」
「ダメかな?」
答えに困っていると、少しカ体を引いて、伏し目がちになるタケル君。
「ダメじゃ……ないけど」
「じゃあ、OKってことだね!?」
パッと目を輝かせる。
「う、うん」
押し切られるような感じで、頷く私。
タケル君は両手を大きく天井へ突き出し、「やったぁ!」と声を上げる。
「タ、タケル君!」
静かな店内に響き渡った声に慌てて周囲を見回し、それから身を小さくしたのだった。
☆☆☆
タケル君に寮まで送ってもらい、私はホッと息を吐き出した。
タケル君……。
嫌な子じゃないけど、なんだかあのはしゃぐテンションんは着いて行けれないかも。
でも、明日も約束しちゃったんだよね……。
ほんの少し、断れなかったことを後悔しつつ、二階の部屋へと向かう。
「ただいま帰りました……」
そっとドアを開けると、いつもどおりソファに座ってテレビを見ている白夜先輩。
「おかえり」
こちらを見ずに返事だけをする。
「あの……」
「なに?」
「明日の帰りも、友達と一緒だから……」
「わかった」
素っ気無い返事に、一瞬胸が痛む。
そりゃぁ、私は彼女でもなんでもないし。
だから引き止めて欲しいなんて思うことは間違ってるし。
でも、ちょっとくらい気にかけてくれたって……。
そんな事を思いながらトロトロと自室のドアに手をかけると、「言いたいことがあるなら言え」と耳元で声がして、思わず悲鳴を上げてしまった。
気がつけば、白夜先輩が部屋のドアにトンッと手を置き、そちらへ向けて体重をかけている。
これじゃドアが開かない。
「べ、別になんでもないです」
スッと身をそらせて言うと「嘘つき」と冷たい声が振ってくる。
「言えよ」
先輩の手の平が私の頬を包み込んで、キュンッと胸の奥が悲鳴をあげた。
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