第20話
裏面を見ても送り主の名前なんかなくて、首をかしげる。
と、そこに桜子がやってきた。
私の手の中にある手紙を見て瞳をキラキラさせている。
「明日香さん、それってもしかしてもしかして……」
「え? なに?」
「ラブレターじゃありませんことっ!?」
頬をピンク色に染めてピョンッとはねる。
ラブレター……?
そう言われて私はマジマジとその紙を見つめる。
これが、少女漫画とかラブコメ映画なんかに出てくるラブレター……?
「本物……?」
「本物かどうか確かめるために、読んでみるのですわっ」
「そ、そうだね」
ラブレターなんて貰った事は今まで一度もない。
なんせこの学校では決められた伴侶が、最初っから存在している生徒が多い。
残りのわずかな生徒たちの間で愛が成立することなんて、滅多にないんだ。
そう思うと、急に胸の鼓動が早くなる。
指先はカタカタと小刻みに震えて、なかなか手紙を取り出せない。
「んもう! じれったいですわ!!」
「そんな事言われたって……」
桜子にせかされて、ようやく封筒の中から手紙がスルリと抜け出した。
桜子が覗き込む中、それを広げると――。
《今日の放課後、2人きりでデートへ行きませんか?
学校までお迎えにがります》
そんな短いラブレター。
それを見て桜子はきゃ~っ! と黄色い悲鳴を上げる。
でも、一体誰から――?
手紙の下へと視線を移すと、そこにようやく送り主の名前が書かれていることに気づいた。
《竜門タケル》
タケル君……?
昨日あったばかりの彼を思い出す。
「すごいですわ明日香さん! デートの誘いですわよ」
「う、うん……でも、この人他校生だよ」
「え? 知ってらっしゃいますの?」
「顔くらいは知ってる」
昨日の経緯を簡単に説明すると、桜子はうんうんと大きく頷きながら「きっと運命ですわぁ」なんて言っている。
「でも、他校生がどうやってこの机に手紙を入れたんだろう」
「そんなの簡単ですわっ」
「へ?」
「きっとここの高校に知り合いがいるのですわ。その人に手伝ってもらったに決まってます」
まぁ、それが一番納得のいく説明だけどさ……。
それ以前に、タケル君が私を知っていた事も気がかりだし。
「とにかく、デートしてみてはいかが?」
う~んと、眉間にシワを寄せる私へ向けて、桜子がそういった。
「え?」
「デートしてみて、嫌でしたら断ればいいんです。気に入ったらそのまま継続的なお付き合いをする」
なるほど。
一度くらいデートしてからでも、返事は遅くない。
一応、付き合っている人や好きな人はいないワケだし……。
「そうだね。そうする」
私は軽く返事をして、手紙をポケットの中へとしまったのだった。
☆☆☆
「というワケなので。今日はそのまま出かけるね」
生徒会室。
今日は5人でパスタを食べている。
私が手紙を貰って、そしてデートを受けるという説明をしている間、誰もが無言で耳を傾けていた。
怒られるかな……?
と思っていたけれど、「おめでとぉう!」そう言ったのは優人先輩だった。
「ボク、明日香まで異性嫌いだったらどうしようかと思ってたんだぁ」
「出かけるのは別にいい。だが今日から生徒会の仕事がある」
「仕事……って?」
光輝先輩に聞きながら、そういえば今まで仕事らしい仕事なんてしてなかったと思う。
「来週のダンスパーティの準備だ」
「あっ!」
学校の伝統行事。
ジューンブライドである6月に近隣高校の生徒も集めて大きなダンスパーティを開くのだ。
去年参加したのに、すっかり忘れていた。
「でもまぁ、俺たちの仕事はプリントを作るくらいなものだ」
「行ってもいいの……?」
「あぁ、好きにしろ」
その言葉にパァッと笑顔になってしまう。
そんな自分に気づいて、コホンッと咳払い。
そっか、パーティがあるんだ。
桃ヶ丘高校のタケル君もきっと来るよね。
一緒に踊ったりとか……するのかなぁ……。
☆☆☆
そして、放課後はあっという間に訪れた。
「じゃぁ、頑張ってくださいね、明日香さん!」
「う、うん」
ポンッと背中を押されて緊張は高まる。
校舎を出て門の近くまで行くと、見慣れない制服姿の男の子が立っているのが目に入る。
後ろ姿だけど、タケル君だ。
その姿を見ると、更に緊張してうまく呼吸ができない。
落ち着け自分!
大きく深呼吸をして声をかけようとしたとき、不意にタケル君がこちらへ振り向いた。
「……っ」
カッと顔が赤くなるのがわかる。
「明日香」
ニカッと笑って、呼び捨てにして手をふるタケル君。
私も手を振りかえそうかと思ったが、周りの生徒たちの視線が気になって結局できなかった。
「お、おまたせ」
「全然待ってないよ」
そう言って、自然と私の手を握るタケル君。
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