第19話

「どうして俺たちが《恋愛野獣会》なんて名前にしたのか、気になりはしなかった?」




光輝先輩の言葉に、私は小さく頷く。




「実は俺も白夜と同じ、女が苦手だ」




「え? そうなんですか?」




光輝先輩は白夜先輩よりも優しいし、話しやすい。




だから、そんな風にはみえなかった。




「それに、優人と青葉もだ」




「みんな、女の人が苦手なんですか?」




「そう。だから、少しでもなれるためにこんなものも見てるってワケ」



アダルトビデオのケースをトントンと人差し指で叩いてそう言う。




「会の名前は、恋愛に対してもっと野性的になれ。そんな意味も込めたんだ」




なるほど……。




「でも、なんでですか? なんで、女性が苦手なんですか?」




スラッと質問をしてしまってから、しまったと思い口元に手をやる。




女性が苦手になるほどのことがあったからに決まってる。




いわばこの話題は4人に共通している地雷だ。




「ご、ごめんなさい。軽々しく聞いちゃって」




慌ててそう言うと、優人先輩と青葉先輩は顔を見合わせ、それからフワッと優しく微笑んだ。



「いいよ、明日香ちゃんには話してあげる」




「え?」




「生徒会のメンバー……だしね」




そう言って、青葉先輩は口を開いた――。



☆☆☆


元々女性的な綺麗な顔をしている青葉先輩。




幼い頃は今以上に可愛くて、よく身内の人から女装をさせられていたそうだ。




その頃は本人も可愛いものが大好きで、服を着せらせることに抵抗はなかったそう。




そして……。




中学に上がった頃、初めて自分のいいなずけと対面した。




ハーフで金髪のフワフワな髪がとても似合う女の子。





初対面の2人はひと目で惹かれあった。




それなのに――。



青葉先輩の身内は、彼女に幼い頃の女装写真を見せてしまったのだ。




「やめろよ!」




そう叫んだ時には、もう遅かった。




「最低……」




青い目をキュッと細めて、彼女はそう呟いた。




まるで、汚らわしいものを触れるような手で青葉先輩の写真をつまみ、ゴミ箱へ捨てたのだ……。



「それが、俺のトラウマ」




話し終えた青葉先輩はどことなく青い顔をしている。




「そうだったんですか……」




私ならその写真を見たくて見たくて仕方がないし、フォトプレートに飾っておくかもしれない。




でも、世の中はそんな女の子ばかりじゃないんだ。




「ボクのトラウマもそんな感じ。ただ1つ違うのは――」




好きだった女の子が写真を気に入ってしまい、その後優人先輩自身がさんざん着せ替え人形にさせられた。




ということ。


どっちにしてもプライドはズタズタ。




以来、同じ目に会うのが怖くて女性と付き合うことができなくなってしまったのだそう。




可愛く生まれたらいいってもんじゃないんだなぁ。




2人の青くなった顔を見て、私はクスッと笑ったのだった。



放課後デート


翌日も、私は白夜先輩にクラスまで送ってもらっていた。





「ありがとうございます」




丁寧にお礼を言うと、「別に。じゃあな」と、すぐに背を向けて歩き出す。




「あ……」




その背中を思わず呼び止めそうになって、手を伸ばす。




「なに?」




「え、あ、いえ……。なんでもないです」




本当は昨日の話しの続きが気になっていたのだけれど、結局はきけず終いだ。




でも、やっぱりこっちからは聞かないほうがいいよね。



白夜先輩が女嫌いになった理由を、あのビデオ騒動の時にききかけたんだけど……。




「なにボーッと立ってらっしゃるの?」




クラスメイトにそう言われ、ハッと我に返る。




私が邪魔で教室に入れなかったみたいだ。




「ご、ごめんなさい」




慌ててよけて、小さくため息を吐き出したのだった。




あれ?




異変に気づいたのは席に座って教科書を机の机に入れた瞬間だった。




グシャッと何かが潰される音と、わずかな手ごたえ。




なに……?




そう思い、教科書を机の上に出す。




斜めになって机の中を覗くと――白い手紙が一枚入っていた。




「なんじゃこりゃ」




教科書たちによって無残な姿になった手紙を手に取る。

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