第17話

白夜先輩は桜子のいいなずけ……。




それが過去のことであっても、事実は事実。




帰るころには頭の中はその事ばかりになっていた。




私には関係のないことかもしれない。




でも……やっぱり気になる。




カバンを持って席を立った時、昼間と同じように黄色い悲鳴が教室を包み込んだ。




きたっ!




見ると、案の定白夜先輩が迎えに来てくれている。



私はチラリと桜子を見た。




少しだけ眉をハの字にして、切なそうな顔。




その顔を見ていると、私の胸がズキンッと鈍く痛んだ。




「明日香、何してる」




そうよばれて、ハッと我に帰る。




「い、今行きます……」




白夜先輩に迎えに来られて、一緒に帰っていく私を桜子は一体どんな思いで見ているんだろう――。



☆☆☆


女の子たちの黄色い悲鳴からやっと解放されて、ホッと安堵のため息を吐き出す。




「あの、白夜先輩」




「なんだ」




「桜子って、知ってますよね? 竜宮時桜子」




「あぁ」




振り向きもせずに小さく頷く先輩。




「その子私の友達なんです」




「へぇ」




「で、でも。桜子って白夜先輩のいいなずけだったんですね? 知らなくて、びっくりしました」




なるべく明るくそういったつもりだったのに、先輩は立ち止まって振り向き、「だから、何?」と、不機嫌さを隠そうともせずに言ってきた。




「あの……だから、その……」




「俺は女は嫌いだ」




キッパリと言い切る白夜先輩。




一瞬、胸が痛む。




その事は知ってたハズなのに、本人の口から言われると傷つくのはどうしてだろう?




「あの子との縁談も、俺にとってはどうでもいいことだった」



「そんな言い方しなくても……」




「自分のためじゃなく、会社のための結婚を本気でなんか考えないさ」




そうかもしれない。




でも、少なくとも桜子は本気だったよ。




ううん。




きっと、今でも――。




「くだらないことはどうでもいい。早く行くぞ」




グイッと強引に引っ張る手。



桜子のために出来る事はなにか。






そう思って聞いたことだったのに……ホッとしてしまった上に、この手をずっと握っていたいと思ってしまった――。


☆☆☆


「わ、私ちょっと買い物行ってきます」




学校を終えてすぐに寮に帰った私は、なんだか居心地が悪くて自分の部屋を出た。




「ああ」




白夜先輩は相変わらずソファに座ってテレビを見ていて、全くこちらには興味がないみたいだ。




その様子にホッと胸をなでおろし、そそくさと2人の部屋を出る。




「あれ、買い物?」




部屋を出た途端そう言ってきたのは優人先輩。




なんだか嬉しそうに笑いながら、青葉先輩を部屋へ招き入れているところだった。



「は、はい」




「そ。じゃぁ気をつけてね」




そう言って、2人して部屋の中へと消えていく。




な……なんか妙な雰囲気だよね?





昼間の生徒会室でもそうだった。




白夜先輩と光輝先輩。




優人先輩と青葉先輩。




まるでそれぞれカップルみたいな空気が流れてて――。




「そ、そんなわけないって!!」




慌てて自分の考えを否定して、小走りに寮を出る。




きっと、みんなカッコイイから深い関係に見えてしまうだけだ。




うん、きっとそう!




なんて、ワケのかわらない解釈をして歩く。




でも、会の名前が《恋愛野獣会》なんて名前だし、白夜先輩は女嫌いだというし……。




そう思ってみると、同性愛。




という言葉がグルグルと頭の中を回り始める。



終わりのないエンドレスリピートが脳内で始まった時、誰かに肩を叩かれて私は足を止めた。




「誰?」




街中で方を叩くなんて知り合いしかいない。




そんな思い込みがある上で振り向いて、見たことのない男性が立っていることにキョトンとする。




「はじめまして、花畑明日香さん?」




その男性は近隣高校の制服を着ていることから学生さんだという事がわかる。




背は175センチほどで、中肉中背といった感じ。




顔は整っているが、生徒会メンバーほどの美形ではない。



「そうですけど……」




「はじめまして。俺、竜門タケル(リュウモン タケル)って言います」




ニコッと白い歯を除かせて爽やかに微笑む。




「はぁ……」




「ちなみに、桃ヶ丘高校の1年です」




1年生ということは私よりも年下だ。




15か16にしては大人びている。




「あの……私になにか?」




そう訊ねると、タケル君は「いえいえ」と、慌てたように首を左右にふった。

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