第16話

で、でも、私を助けてくれたあの時。




4人で決めたって、言ってたよね?




その疑問を感じ取ったように、青葉先輩が口を開いた。




「最初はなんでもよかったんだ。



生徒会以外に生徒や街のためになにかをやること。



決められていた条件はそれだけだった。



だから俺たちは裏の顔として《恋愛野獣会》という名前をつけ、街を守る事を始めたんだ」




まさか……。




生徒会メンバーが学費免除、寮もタダってこの裏の活動があるから――?




「で、問題はそこじゃない」



白夜先輩がそう言い、驚きっぱなしの私の前でパンッと手を叩いた。





「恋愛野獣会は敵が多い」




「え?」




「昨日みたいなことばっかしてんだもん。ボクたち恨まれまくりぃ」




優人先輩が、なぜだか楽しそうに言う。




私はボコボコにされてしまった覆面男子たちを思い出す。





た、たしかに恨まれてそうだ。




「だから、恋愛野獣会の名前は昼間人前で出すな。夜より昼間の方が顔がハッキリわかる。



もし俺たちを恨んでるヤツが近くにいてみろ、タダじゃすまされないぞ」



その脅しに、思わず身震いをする。




「じゃぁ、なんでこんな事続けてるんですか?」




自分たちだって危ない目に会うのに、そこまでして助けなきゃいけないの?




テレビやゲームの正義の味方みたいに、顔を出して感謝されることもない。




なのに――。




「じゃぁ、明日香ちゃんを助けなかった方がよかった?」




え……。




青葉先輩の言葉にサッと血の気が引いていく。




「そう言うことだ。助けられる状態なのにそこから逃げるのは、俺たちじゃない」



ニッと白い歯を除かせて笑う光輝先輩。




その肩に手を乗せ、「当然だろ」と笑うのは白夜先輩。




優人先輩は嬉しそうに青葉先輩に抱きつき「そういうことっ」と声を上げる。




ドキン、ドキン、ドキン。




みんながこの生徒会にいるのは、きっと私と同じようにお金に困る事があるからだと思う。




でも、そんな事微塵にも感じさせないヒーローたち。




そして、ほんの少し香る禁断愛の要素も、全部含めて――。




かっこいい――。




―生徒会室―


午後からの授業開始のチャイムが鳴り、明日香は大慌てで生徒会室を出て行った。




その後ろ姿を見送ってから、白夜は座っている光輝の肩に後ろから腕を回した。




「結局、一番肝心な部分は秘密のままか?」




光輝の問いかけに、白夜は無言のままそっぽを向く。




「別に」




「拗ねてるのか? 珍しい」




クスクス笑って、白夜の白い頬に手を当てる光輝。




「俺たちは1つの物を共有した仲だ。不満があるのなら、ちゃんと言え」




俺に隠し事をするな。




そう言って光輝は首だけ曲げて、白夜の唇にキスを落とした――。



☆☆☆


教室に戻ってきた私はまだ夢見心地だった。




ぼうっとして頭の中でさっきの映像を思い出す。




みんな、すごくカッコよかった。




「『助けられる状態なのにそこから逃げるのは、俺たちじゃない』か――」




お金持ちの家で裕福に育って、そこまで人の事を考えれるなんてすごいことだと思う。




思い出しただけでもニヘラッと口元が緩む。




と、その時だった。




「ちょっと明日香さん。さっき一緒にいらした方は白夜先輩じゃないですの?」




と、後方から桜子の声が聞こえて驚いて振り向く。



「桜子、なんでここにいるの?」




「席を替わってもらったのですわ。どうしても話しがしたくて」




真剣な表情の桜子。




白夜先輩の事を最初から知っているのか、目元がうるんでいる。




「そ、そうだけど……」




「やっぱり」




私が頷くと、桜子はキュッと下唇をかんだ。



「なにか、あったの?」




「あの方、私のいいなずけですわ」




「へぁ……!?」




思わず奇妙な声を張り上げる。




いいなずけ!?




桜子の!?




「といっても、過去の話しですわ。



あの方のご両親が仕事に失敗して縁談は白紙。



元々白夜先輩はわたくしとの結婚を嫌がってましたし」




そ、そうだったんだ。




白紙と聞いてホッとしている自分がいる。




「でも……」




「え?」




「わたくしは、本気でしたのよ。ほら、あの方容姿端麗でしょう? だから、ひと目見たときから――」




そこで言葉を切る桜子。




頬を赤く染め、教科書に視線を落とす。




その横顔は、まさに恋する乙女だった――。


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