第15話

ニコニコしながら言う優人先輩は本当に無邪気というか、空気が読めていないというか。





白夜先輩はあきれ顔のまま私を促し、入って右手の壁を手で押し開けた。




「うえぇ!?」




ちょうど青葉さんが立っていた真後ろ辺りの壁。




そこを手のひらで押すと、コロコロと音を鳴らしながら壁の中へとめり込んだのだ。




まるでからくり屋敷。




そう思って口をアングリと開ける。




「冷蔵庫、ここだから」




と、コの字方に凹んだ壁の左側を指差す白夜先輩。



その壁をマジマジと見ると、確かに小さな取っ手がついている。




ドアはスライド式で、開けた瞬間冷気が体を包み込む。





「すげ……」





中は確かに冷蔵庫……なのだけれど、業務用のでっかなヤツだ。




人間が5~6人は入れそうな広さ。



天井からはゴーッと音を上げながら冷たい風が吹いていて、その下のダンボールを冷やしている。




「明日香、何が食いたい?」




「え? あ、なんでも……」




なんだかこの光景を見た瞬間、驚きで食欲がなくなってしまった。



「優人はグルメなヤツだから、どれを食べてもうまいけどな」





言いながら、白夜先輩は一番手前の右側に置いてあったダンボールの蓋を開ける。




冷凍食品かな?




と思って覗いてみれば、ダンボールの中の袋には有名料理店の名前が書かれていて目を丸くする。




ど、どういう事?



「これ持って。



いつでも食べれるようにって、店の人が保存食を作ってくれたんだと」




ま、まじですか。




手に持たされたのはハンバーグ5人前。




パッケージは透明で、中には紙の容器に乗せられた本格派ハンバーグが見えている。


「早く出ろよ。ここ寒いんだから」





そういわれて、私は慌てて外へ出た。





暖かい空気でジンワリと体温が戻ってくる。





「ありえない……」





ブルッと身震いして、そう呟いたのだった。



レンジで暖めたハンバーグは文句のつけようがないほどにおいしかった。




優人先輩に、なんのためにあんな冷蔵庫があるの?




と聞いてみれば、笑顔で「お腹が減ったら戦ができないから」と言われた。




意味がわかるような、わからないような。




「そういえば……」




お腹が一杯になったところで、ふと私は思い出した。




恋愛野獣会のこと。




たしか、生徒会室の中は大丈夫なんだよね。



「恋愛野獣会について、私の知らないことってなんですか?」




誰ともなくそう訊ねた瞬間、ビリッと空気がしびれた感じがした。




さっきまで大声で話していた優人先輩が、ピタッとおしゃべりをやめる。




「あ……あぁ。明日香ちゃんも生徒会のメンバーだもんな」




ぎこちなく口を開いたのは青葉先輩。




でも、その先は言いにくそうで隣に座っていた光輝先輩の肩をつついた。




「単純に言えば、お前もすでに恋愛野獣会のメンバーだ」




……はい!?




光輝先輩の単純すぎる説明に目がテンだ。




なんで私が恋愛野獣会?




いつから、私も恋愛野獣会?




混乱しているのは私ただ1人で、他の面々は何をどう説明しようかと悩んでいる様子だ。




「私、男の人を殴ったり蹴ったりなんてできませんよ」




「そんな事はお前に望んでない」




キッパリそう言いきったのは、白夜先輩。




「恋愛野獣会は街を守っている、そう言ったのは覚えてるな?」




「はい」




「恋愛野獣会は生徒会のメンバーで発足される。これは絶対条件だ」




え……?




つまり、生徒会に入った時点で強制的に入らされるってこと?




「わ、私。そんなの聞いてません」




「俺たちも、全員そんなこととは知らずに生徒会に入った」




え――!?




「でも、入っちまったもんは仕方ない。確かに、街の治安は悪いし、見かねてたところだしな」




そう続けたのは光輝先輩。

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