第14話
ギュッと手を握り、キラキラした目でそういわれては愛想笑いしかできなくなる。
嬉しいのか余計なお世話なのか、自分でもよくわからない。
でも……。
喧嘩ばかりの桜子がこんなにも私の事を気にしてくれていただなんて思うと……。
「ありがとう」
やっぱり嬉しくて、素直に涙が出たのだった。
☆☆☆
それはお昼の休憩の時だった。
食堂に行って何か買ってこようと席を立った私の前に、大きな体が立ちふさがった。
見上げるようにしてその人物を見ると――。
無表情の、白夜先輩だ。
「せ、先輩?」
何も言わずただぬぼっと立っているその姿は、なんだか恐ろしい。
けれど、その美しい容姿から女子たちの間で黄色い悲鳴が上がった。
「昼飯、行くぞ」
「へ?」
聞き返す私の腕を掴み、強引に歩き出す先輩。
え?
なに?
クラスメイトからの視線が痛い。
ズルズルと引きずられるようにして教室を出て、先輩はようやく腕を離してくれた。
「あ、あの……」
「極力使いたくないんだろ、金」
あ……。
今サイフの中には1万円札が何枚かある。
でも、これを使い切ってしまえばお小遣いをもらえるかどうかわからない。
もらえたとしても、今までのようにはいかないだろう。
「おごってやるよ」
「え? いいんですか?」
驚きと戸惑いで、目をパチクリさせてしまう。
「あぁ。元々生徒会のメンバーはすべてがタダなんだ。本来、昼飯だってタダなはずだ」
なのに、なんでか払ってんだよなぁ。
と、ため息交じりに言う。
そんな後姿を見つめながら、なんだか照れくさくて、でも嬉しくて微笑んでしまう。
今までお金のある生活が一番だと思っていた。
何も不自由はないし、ほしいものはなんでも買ってもらえる。
それが当たり前だった。
でも……。
お金がないと、それ以上のことが見えてくる。
人の優しさや、人の愚かさ。
お父さんは今まで沢山の人に手を差し伸べてきたけれど、会社が倒産してから助けてくれるような人は誰もいないと嘆いていた。
逆に私は、お金がなくなってから桜子や生徒会の人たちに沢山助けられている。
「好きなの選べ」
食堂といえど、レストランと同じようなもの。
みんな好きな席に座って、メニューと料理が届くのを待っているのだ。
私たちは丸いテーブルに座り、メニューを広げた。
「お腹すいたぁ」
「だろうな」
お腹をさすりながら言うと、白夜先輩はクスッと笑ってそう言った。
ドキン。
その笑顔にときめいてしまう。
なんだかつかみ所のない先輩だけど、でもその容姿だけは見間違いようもなく極上だ。
その証拠に、さっきの笑顔を偶然見ていた女子生徒の間から、またも悲鳴が上がっていた。
「せ、先輩は食べないんですか?」
「俺は生徒会室で食べるから」
「え? あそこで?」
視線をメニューから先輩へとかえる。
「あぁ。
優人が毎回冷蔵庫の中を一杯にしてあるから、早く食べなきゃ賞味期限が危ないんだ」
冷蔵庫……。
昨日は部屋の中をザッと見回したダケだったから、そんなものがあったことにも気づかなかった。
「あの、私もそっちで食べていいですか?」
「……は?」
「だって、賞味期限が危ないものがあるんですよね?」
捨てるのはもったいないですよ。
そう言うと先輩は意外そうな表情で私を見て、「じゃぁ行くか」と、立ち上がったのだった。
☆☆☆
白夜先輩があの重たそうな扉を開けると、優人先輩の笑い声が聞こえてきた。
「おじゃましまぁす……」
小声でそう言い、そっと中へ入る。
「あ、明日香~!」
フリスピーを片手に持った優人先輩が、子供のように手を振ってくる。
その逆側には、子供の相手に疲れきった顔をしているお父さん。
……ではなくて、青葉先輩。
「お前、こんな場所で何してんだ」
「フリスピーだよ。後輩の女の子がくれたんだぁ」
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