第13話
「準備できたか? そろそろ出るぞ」
ドアの向こうから白夜先輩の声が聞こえてきて、私は慌てて靴下をはき、ドアを開けた。
「どうした?」
「あ、いえ」
ドアの前でモジモジする私に、早く来いと促す先輩。
慣れていたハズのくるぶしソックスが、なんだかすごく恥ずかしく感じる。
白夜先輩の前だから、変に意識してしまっているのかもしれない。
短いスカートの前を隠すように両手でカバンを持ち、先輩の後をついていく。
学校に定められたローファーをはいて寮を出ると、眩しい太陽が私たちを包み込んだ。
こんなに晴れているのは久しぶりだ。
短い距離を少し離れて2人で歩く。
先輩の歩調は遅すぎず早すぎず、一定のペース。
「あの……」
私はパリッとノリのきいたカッターシャツの後姿へと声をかける。
「なんだ」
チラッと振り向いてそう言い、すぐに前を向いてしまう先輩。
「その、恋愛野獣会のことで、説明があるって言ってましたよね」
私がそう訪ねると、先輩はピタッと歩みを止めて振り向いた。
「その話は外では口外禁止だ」
「へ……?」
「俺たちは一歩外に出ればただの生徒会のメンバーだ」
「でも……昨日は助けてくれたじゃないですかっ!」
「大きな声を出すな」
キュッと眉間にシワを寄せる先輩。
「とにかく、昼間その話をしていいのは寮の中か生徒会室の中だけだ。わかったな?」
「……はい」
有無も言わせぬその言葉に、私は頷くしかなかったのだった……。
☆☆☆
「じゃぁ、何かあればすぐに連絡して来い」
クラスまで送ってくれた白夜先輩は、そう言って、携帯電話の番号を書いたメモをくれた。
「ありがとうございます」
嬉しくて、ついその紙を胸元で抱きしめる。
やった!
番号ゲットしちゃった!
頬をピンク色に染めて席に着くと、すぐにやってきたのは桜子だ。
また何か嫌味を言われる。
そう思って構えていたのだが――。
「明日香さん! あなた大丈夫ですの!?」
小声で、だけど強い口調でそう聞いてくる。
その顔はすごく慌てているし、青ざめている。
「え? なにが?」
ビックリしてそう聞くと桜子は私の頬を両手で包み込み、「本当に、なんでもありませんの?」と、目に涙を浮かべる。
「だから、なにが?」
もう一度そう言うと、桜子は全身の力が抜けたようにその場にしゃがみこんでしまった。
な、なに?
一瞬、昨日の出来事がバレたのかと思った。
「もう、学校には来られないのかと思ってました」
「へ……?」
「その……お父様の会社が倒産したと聞きましたので……」
言いにくそうにそう言う桜子。
あぁ、そっちか。
やっぱり、私が黙っていても桜子にはすぐにバレてしまったようだ。
「とりあえずは平気。こうして学校もこれるしね」
これから先はどうなるかわからないけど……。
「よかったですわ……」
「え?」
あれほど人の事を見下していた桜子が、そう言って私に抱きついてきたのだ。
咄嗟のことで避けられず、そのまま桜子の体重を抱きしめることになってしまう。
「ごめんなさい。わたくし、そこまで大変だとは思わずにヒドイ事を……」
「いいって、気にしないで」
それよりも、桜子の甘い香水の匂いがムズムズして仕方がない。
「これからは、困ったことがあったら何でも言ってください」
「そんな……大げさだよ」
「大げさなものですかっ! お嬢様が一気に庶民の生活に馴染む事なんて不可能ですわ。
クルージングや潜水艦で気晴らしがしたい時は、いつでも準備してさしあげます!」
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