第12話

つまり、私はリビングのど真ん中で白夜先輩に覆いかぶさるようにして寝ていたワケで……。




「きゃぁぁぁっ!!」




思いっきり悲鳴を上げて白夜先輩から飛びのく。




心臓はバクバクと破裂寸前で、咄嗟に服が乱れていないかと確認をした。




「何もしてねぇよ」


悲鳴で目を覚ました先輩が呆れ顔で私を見る。




「あ、あの……私昨日……」




「あぁ。泣きまくってそのまま寝たんだよ。



せめてソファに寝かせてやろうと思ったんだけど、お前俺の服掴んだまま離さねぇし。




一緒に寝るしかねぇだろ」



そ、そうだんたんだ。




そうと知ると、ボリボリと頭をかく白夜先輩に申し訳なくなってきてしまう。




私のせいでベッドで寝れなかったんだ。




しかも、私この人の上で寝ちゃったんだよね。




重かった……よね?




ウジウジと考えていると、白夜先輩がクスッと微かに笑った。



え……?




その笑顔がすごく綺麗で、思わず頬が染まる。




「よかった、元気そうじゃん」




「あ……」




今の1人百面相を見て安心してくれたんだ。




「ま、まかせてよ! こう見えても私精神は図太いんだからっ!!」



トンッと自分の胸を叩いてみせると、白夜先輩は立ちあがり昨日みたいに私の頭をポンッと撫でた。




「無理すんなよ」




「へ……?」




「男の力は女を傷つけるタメにあるんじゃない。守るためにあるんだ」




ドキン――。




「それに……」




「え? なに?」




小さな声で、聞こえない。



聞き返すと、白夜先輩はチラっと私を見て、それから視線をそらした。




「なんでもない」




「えぇ!?」




「うるさい。着替えて朝飯行くぞ」




「ちょ、ちょっと待って!!」




慌てて白夜先輩の後を追いかける私。




今、ほんの少しだけ聞こえた。




――「お前は特別な存在になりそうだから」――




それって、私の聞き間違いじゃないよね――?


☆☆☆


白夜先輩の後を追いかけるようにして食堂へ入ると、そこにはもう全員が顔をそろえていた。




少し走ったせいで乱れた髪を手櫛で直し、一番奥の、白夜先輩の前の席に座る。




「おはよう明日香ちゃん、昨日はちゃんと眠れた?」




青葉先輩が心配そうに聞いてくる。



「だ、大丈夫です」




白夜先輩の胸の中で落ち着いて寝れた。




なんて事はいえないけれど、ふと思い出して赤面する。




「学校行ける? 無理なら休む連絡入れるよ?」




そう言ってくれたのは優人先輩。



クリクリの大きな目に不安の色をためて、ジッと見てくる。




か……かわいい。




年上なのに愛らしさ満点の優人先輩に、思わず胸がキュンッと悲鳴をあげる。




「本当に、平気です。それに、ここで1人で居た方が不安で……」




こんなに大きな建物の中で留守番なんて、それこそ嫌な事ばかりを思い出してしまいそうだ。




「俺たちが心配したら余計に思い出させるだけだ」




光輝先輩が横から口を挟み、この話は終わりになった。




みんなそれぞれ朝食のスープとパンに手を付け始め、ホッとする。




あまり気を使われすぎるのも、逆に辛い。



「じゃぁ、準備が出来たらちゃんと明日香ちゃんを学校まで送ってやれよ」




「わかってる」




青葉先輩の言葉に頷く白夜先輩。




私は慌てて食堂を出て、2人のあとを追った。




「あ、あの!」




「なに?」




「私なら、本当に大丈夫です。学校も近いし、1人で平気です」




階段を上がりながらそう言うと、「ダメだ」と、すぐに却下された。



「お前にはまだ言ってないことがある」




「え?」




「俺たち生徒会の裏の顔」




「恋愛野獣会……ですよね」




「そう。



そのことについて説明する必要もあるし、昨日の今日で単独行動をさせるワケにはいかない」




そう言う白夜先輩の表情は真剣そのものだ。




私の知らないことがまだまだ沢山あるみたいだ。




これ以上断ることは自分を輪の中から除外する事だと思い、「わかりました」と、小さく頷いたのだった。

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