第11話
す……すごい。
優人先輩がロープとガムテームをはがして、立たせてくれる。
「大丈夫?」
「へ……平気です」
慌てて服の前をかきあわせる。
「だから『気をつけろ』と言っただろう」
白夜先輩が、私に上着をかけてくれながらそう言った。
「え?」
どういう事?
「ま、見られちゃったし。生徒会に入ってるんだから秘密にしておくのも無理だろうな」
青葉先輩が、コキコキと肩をならしつつ言う。
「秘密って……なんですか?」
そう聞くと、4人はそれぞれ私の前に並んで立った。
「俺たち、桜ヶ丘学園高等部の生徒会は、裏の顔を持ってる」
光輝先輩。
「裏の……顔……?」
「そう。この街は金持ちが多い。その為にこの地域を狙った色んな犯罪も起きている」
青葉先輩。
「特に、お嬢様を狙った性犯罪。誘拐。強盗」
白夜先輩。
「ボクたちは、もううんざりなんだ。どんどん街が腐っていく。そんなの、耐えられない」
優人先輩。
「だから、俺たちは4人で決めた。この街を守っていくんだ」
それが――。
桜ヶ丘学園高等部生徒会。
裏の呼び名は――「恋愛野獣会」
特別
恋愛野獣会……。
私は寮のシャワーを浴びながらさっきの出来事を思い出していた。
ここの4人はすごく強くて、それでいてカッコよくて。
性格はイマイチだし、わからない部分も多いけど、でも……。
「なんで恋愛なんだろ」
街を守るグループ名としては、なんだか腑に落ちない名前な気がした。
なにはともあれ、私は彼らに助けられたんだ。
シャワーから出たら、先に白夜先輩にだけでもちゃんとお礼を言わなきゃいけない。
私はブンブンと嫌な事を忘れるように頭を振って、シャワーを止めた。
脱衣所に出ると、換気扇から外の雨音が聞こえてくる。
やっぱり降ってきたんだ。
これでジメジメして蒸し暑いのが少しは緩和される。
そう思いながら服を着替えて、髪の毛をタオルドライして脱衣所を出る。
あ……。
リビングのソファに座ってテレビを見ている白夜先輩に、一瞬ドキッとする。
ここは白夜先輩の部屋なんだから自由に使っていいのは白夜先輩だ。
なのに、なんとなく自室の中にいるものだと思いこんでいた。
「あ、あの……」
ジッと画面を見るめる先輩に、おずおずと話しかける。
一番口数が少なくて、どういう性格の持ち主なのか掴めない人だから、話しかけるのも緊張なんだ。
「なに?」
テレビから視線を外さずに、そう聞いてくる。
「さっきは、ありがとうございました」
そう言って、軽くお辞儀をする。
「あぁ、別に」
先輩は私の言葉に興味なんてなさそうに、足を組んだ。
でも……。
なんだかそれだけの行動が私の胸を熱くしたんだ。
下手に慰められたり、かわいそうがられるよりも、ずっとずっと……この状況が泣きやすかったんだ。
「ふっ……」
ソファの近くに立ったまま、涙がブワッと溢れ出す。
声をもらすまいとギュッと拳を握り締める。
怖かった。
怖かったよぅ……。
あのままみんなが助けに来てくれなかったらと思うと、震えが走る。
運動不足な上に5人も相手じゃ、とことん弄ばれていただろう。
そんな事をされたら、きっと生きてはいけない。
死んだ方が、ずっとマシだっただろう。
「うぅ~っ……」
なんでだろう?
実際やられたワケじゃないのに、胸の傷は想像以上に深い。
その時だった。
ポンッと頭に暖かな手がのっかった。
驚いて目をあけると、いつの間にか白夜先輩が目の前に立っている。
「せんぱ……?」
「泣く時は1人で泣くな。余計辛くなるだろ」
ポンポンと、優しく不器用に頭を撫でる手。
だけど必要以上に近づき過ぎない距離。
「……先輩っ!」
私は思わず先輩の胸に飛び込んで泣いていた。
私を襲おうとした男。
私を慰めてくれる男。
どっちも同じ男なのにね。
なんでこんなに安心するんだろう――。
☆☆☆
目が覚めると私は背中の痛みで顔をしかめた。
眩しい電気の明かりに目を細める。
あれ?
私どうしたんだっけ?
白夜先輩の胸で泣いて、その後の記憶がない。
背中が痛むのはうつ伏せに寝ていたからみたいだけど――。
と、手をついて体を起こして地面がやけに柔らかいことに気づく。
「え……?」
見ると、そこには白夜先輩が仰向けになって寝ていたのだ。
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