第10話
野良犬か野良猫かな?
そうだよね、きっとそう。
あははは。
と、から笑いで恐怖を吹き飛ばす。
ベンチに出した物を全部かき集めてカバンに押し込め、すぐに公園を出た。
バクバクと心臓が早くなる。
そして、数歩進んだところですぐに後悔した。
しまった。
また細くて暗い道へと出てきてしまったのだ。
今の公園から大きな道へ出られたのに、自分から危ない道を選んでしまった。
こうなると、もう早足になるしかない。
肩が痛いことも、運動不足なことも忘れ、前へ前へと急ぐ。
もう少し。
もう少し。
遠くに家の明かりが見えた、その瞬間だった。
T字路になった右側から、突然黒い服を着た男が飛び出してきたのだ。
それも、1人じゃない。3人いる。
さっきの茂みの音も野良犬や野良猫ではなかったらしく、後ろから2人の男が私の口を塞いだ。
咄嗟のことで、身動きがとれない。
カッと見開いた目で見たのは、全員が真っ黒な覆面を被っていること。
5人の男たちは軽々と私の体を持ち上げて、さっきまでいた公園へと運ぶ。
その間にもどうにかして逃げ出そうともがくが、びくともしない。
「誰かっ!!」
公園の冷たい草の上におろされて、一瞬だけ口から手が離れた。
しかし、次の瞬間にはガムテープのようなもので塞がれてしまう。
用意周到だ。
最初からこの変で誰かが来るのを狙っていたに違いない。
1人の男が私の手をつかみ、ロープでグルグル巻きにしていく。
その間にも、他の男はナイフを取り出し、私の頬に刃を押し当てた。
そして、耳元で囁く――「抵抗すると殺すぞ」
ゾク――。
その言葉自体が刃物となって突き刺さる。
私の動きを封じ込める。
大人しくなった私を見て、男たちはナイフで服を切り裂き始めた。
桜ヶ丘学院の制服が切り刻まれていく。
赤いチェックの服にはドロがつき、くるぶしソックスは靴と一緒に脱げて誰かに踏まれた。
やだ。
やだ、やだ、やだ!!
白い下着が見えたとき、涙が流れた。
嘘だ。
こんなの夢よ。
悪い夢。
だから――早く覚めて――。
誰かわからない男の手が下着を引きずり下ろす。
いや――!!
「そのへんでやめとけよ」
そんな声が聞こえてきて、ギュッと閉じていた目を開いた。
キラキラと儚い月明かりでも綺麗に光る銀髪。
そして、4人の影。
「据え膳食わぬは男の知恵。この言葉知ってる?」
青葉先輩の声。
「意味は、据え膳をグッと我慢して己の欲を制御できる知恵のある男になれ。だっけ?」
優人先輩の声。
「それに、そいつまだ処女。食ってもうまくねぇよ」
光輝先輩の声。
みんな……どうして……?
覆面男たちの手の力が緩む。
一番近くにいた男が「きやがった。恋愛野獣会だ」と、呟くのが聞こえた。
「お前らもいつまでも盛ってんじゃねぇぞ!」
青葉先輩の怒鳴り声が聞こえた次の瞬間。
相手の1人が蹴り上げられて宙を飛んだ。
え――…。
青葉先輩のけりが合図になり、5人対4人の乱闘騒ぎが始まった。
「女は熟しかけが食べごろだ。こいつはまだ青い」
光輝先輩がそう言い、覆面男の鼻目掛けて頭突きをお見舞いする。
相手はふらつき、そのスキをついて足払いをして地面に押さえつけてしまった。
「これでおしまい」
次の瞬間。
身動きの取れない覆面男目掛けて拳が振り下ろされる。
そして、優人先輩も。
一番背が小さいのに、その小ささを利用して相手からスルリを身をかわす。
「こっちだよん」
相手を逆なでするような余裕を残したまま、みぞおちに拳をめり込ませた。
それから、白夜先輩も――。
「話しになんねぇ」
後ろから襲ってきた相手を肘で打ち返し、正面からきた相手には長い足でけりを入れる。
そうして、あっという間に覆面男たちがピクリとも動かなくなってしまったのだ。
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