第9話

思い当たる節はいくつもある。




でも、だからってなんでこの人にそんな事まで言われなきゃいけないの?




グッと唇をかんで、フォークを叩きつけるようにテーブルに置く。




「最低」




震える声でそう言い、私は食堂を出たのだった――。


☆☆☆


こんな所出てってやる。




一日だっていたくない。




食堂を飛び出した私はすぐさま自分の荷物を片付けていた。




といっても、ほとんどダンボールに入ったままだったから簡単なものだ。




大切なものだけカバンに詰め込んで、残りは後から送ってもらえばいい。




パンパンに膨らんだカバンを肩に提げて、部屋を出る。




と、部屋のまん前に白夜先輩が立っていて、私は足を止めるハメになってしまった。



「どいてください」




キッと相手を睨みつける。




いくらカッコよくたって騙されないんだから。



この人だって、きっと青葉先輩と同じように私を見下してるに決まってるんだ。




そう思うと、ひどく悔しかった。




「荷物は」




「残りは後で送りつけてください」




「嫌だ」




「へ?」




「めんどくさい」




短い言葉で本心だけを言う白夜先輩。




「じゃぁ、後でまた取りに来ますから、置いといてください」



そう言い、スッと視線を外して白夜先輩の横をすり抜ける――「気をつけろよ」





一瞬、耳元でそう聞こえた気がして、振り返る。






でも、白夜先輩はすでに自室へと戻っていたのだった――。


☆☆☆


寮を出る時、偶然浴場から出てきた赤髪の優人先輩に会った。




誰にも挨拶なんてするつもりはなかったのに、目があって微笑まれたら立ち止まらないワケにはいかない。




「お出かけ?」




どう見てもちょっとコンビニまで。



という格好じゃない私に向けてそう聞いてくるから、拍子抜けしてしまう。




「帰るんです」




この先輩には素直に言ってもいいかも。




そう思い、私は本当の事を伝えた。




すると、優人先輩の表情は一気に曇り、「そっか……」と、残念そうに肩を落とす。



まさか、本当に残念がってるの?




でもたった数時間しか一緒にいないのに、そんなに落ち込むことはないだろう。




「じゃぁ……気をつけてね」




優人先輩は上目遣いでそう言って、手を振ったのだった。



寮から出た瞬間、生暖かい風が吹き抜けた。




6月のジメジメとした湿気がまとわりつく。




「よいしょっと」




私は荷物を肩にかけなおし、歩き始めた――。



「う~重い」




学校から家までは歩いて20分ほどの距離がある。




いつもなら運転手付きの車で来ているから、自分で歩くとその辛さがようやくわかる。




「荷物、もうちょっと減らせばよかったぁ」




パンパンに膨らんだカバンを見て、愚痴がこぼれる。



空は真っ暗で、外灯も少ない細い道。




だけどここを抜けた方が近道になるんだ。




少しでも早く家に着きたい私は、懸命に歩く。





「もうダメ」




それなのに、体力は全く持ってついてきてくれない。



日ごろの運動不足をのろいつつ、私は小さな公園へと足を踏み入れた。




外灯の真下の寂れたベンチに座ると、やっと重たい荷物をおろす事が出来る。




肩をグルグルと回してみると、痛みが走って顔をしかめた。




「いたたたっ」




まるでおばあちゃんになってしまったようで、情けない。



このままでは家に帰る頃には腰までひん曲がってしまうかも。




そう思い、カバンを開けて中を確認する。




すぐに必要なものだけ詰めてきたつもりだったけれど、よくよく見れば不必要なものばかりが散乱している。




「もう、なんなのよぉ」



自分に腹を立てつつも、いらないものを出していく。




ポンポンとベンチに私物を出していた、その時だった。




ガサガサッと茂みの方から音が聞こえて、ハッと顔を上げる。




今の音、なに?




自分で自分に聞いてみても答えなんて出てこない。

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